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季節の食にまつわることをお届けします 旬の食レポート

2017 Autumn

身近な食のストーリー

小麦畑から食卓へ。おいしさのバトンリレー
「国産パン用小麦」

国産小麦を使った味わい深いパンに、全国各地から熱い視線が注がれています。
輸入小麦に比べ生産量も少なく、品質もまだ安定的とはいえません。
それでも愛されるのは、日本人好みの味わいと作り手たちの限りない情熱から。

「ゆめちから」をコンバインで刈り取る風景
7月下旬、豊かに実った「ゆめちから」をコンバインで刈り取る。実り具合と天候をにらみながらの作業。
タイミングを逃すと1年を棒に振ることも。

生産量が少ない国産小麦、
しかもパンには向かなかった。

 食生活に不可欠な小麦ですが、日本で消費される約9割は輸入小麦で国産はごくわずか。また小麦にはさまざまな種類があり、その特性を活かしてパン、麺、お菓子などに加工されますが、日本の小麦はうどんなどを作る中力粉用が中心で、パンには不向きでした。

 30年前、北海道に「ハルユタカ」という品種が誕生。麺用に開発されたのですが、今までにないほどたんぱく質の量が多かったため、江別製粉の先代社長はハルユタカ100%の小麦粉を作り、パン用粉として売り出します。その粉を使ってパンを焼いたのが帯広のパン屋・満寿屋商店。独特のおいしさが口コミで広まり、ハルユタカの粉は徐々に作り手の間で知られるようになります。ちょうどチェルノブイリ事故後、国産農産物への需要が高まり、また残留農薬など食の安全性がクローズアップされた頃でした。消費者から「国産小麦のパンは?」との声があがるようになったのです。

※主要食糧として重要な小麦は、安定供給するために国が政府売渡制度を実施し買い付けています。

パン屋さんの求める
品質と多品種を
日本のパン文化を支えるために
小麦畑からワクワクする素材力を提供したい。

 7月下旬、国産小麦の主産地、北海道を訪ねました。小麦は収穫後乾燥・製粉という工程を経て小麦粉になり、その後パンに麺にとさまざまな製品に加工されます。通常収穫した小麦は農協などに集められ、製粉工場に送られて大型の機械を何工程も経た後、ようやく小麦粉になります。そのため、生産者は自分の作った小麦粉の味を知ることはありませんでした。

 前田農産もそんな農家のひとつでした。神奈川から嫁いだ前田茂雄さんの奥さんがホームベーカリーでパンを焼く際に、畑に小麦があるのに粉がない。試しに自作の小麦を挽いて作ってみたらこれがうまい。里帰りの時に近隣のパン屋に持ち込んでみたら大好評で、「これ買えるの?」の声。江別製粉に小ロットで製粉できるラインがあると聞き、プライベートブランドを作り、全国のパン屋に直接営業、個人向けにも販売を始めました。

現在80haの小麦畑があり、今年はすべてパン用。ところが特にパン用小麦は雨に弱い品種が多く、収穫期に雨が続くと1年の苦労が水の泡になることも。そんなリスクにも果敢に立ち向かいます。それは、パンを作る人たちの要望に応えたいという、熱い思いがあったからに他なりません。
「パン屋さんに通ってみて分かったのは、いろんなパンがあり、それに合わせて小麦粉を変えていたことでした」。近年ではヨーロッパでパンを学ぶ職人も増えました。パンとは本来、その土地で穫れる小麦を最大限においしく食べるよう、その土地ごとに進化してきたもの。日本の小麦を使って日本人好みのパンを、と考える職人も増えてきています。新品種も続々誕生し、日本のパン文化は新たなステージに進み始めました。

前田茂雄さん画像

前田茂雄まえだ しげおさん

前田農産食品合資会社代表社員。本別町で120年近く続く農家の4代目。80haの畑で作る小麦をPB小麦粉にし全国のパン屋、家庭製パン講師に販売。「北海道小麦キャンプ」「新麦コレクション」「小麦オーナー制度」などさまざまな取り組みと交流を通じて国産小麦をPRしている。

 農閑期には全国のパン屋に足繁く通い、また忙しい収穫期にも、生産地を訪れる熱心なパン職人を丁寧にもてなす前田さん。広報担当の奥さんは「小麦だより」を発行し、生産地の様子を各地の顧客に伝えています。今や全国のこだわりのパン職人にはなくてはならない存在に。さまざまな要望に多品種で応え、「あの人が望む小麦を作り」「あの人が作ってくれた小麦でパンを焼く」そんな関係を8年かけて築いています。

「小麦はバトンリレーの作物で、第一走者が育種、その後に生産者、製粉会社、流通と繋ぎ、アンカーはパン職人さん。誰かがかけてもおいしさは伝わらない。今、観客である消費者を、ワクワクさせている実感があります」。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    秋まきは7月末、春まきは8月頭に収穫。好天が続くよう祈る。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    乾燥を終えた麦の粒。前田農産では、次の選別までを自社で行う。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    5品種のPB小麦粉。1kgと25kgがありネットで購入できる。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    地元の素材にこだわる帯広の満寿屋商店「麦音」で売られている、前田農産のゆめちから100%のパン。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    パン屋さんの要望で増産した春まき小麦「はるきらり」。あと十数日で黄金色に。

  • パン屋さんの求める国産小麦 生産工程イメージ

    パン屋さんに一番人気の「キタノカオリ」。個性豊かな甘みと香りが特徴。

産地の製粉会社として、自分たちにしかできないことを。
あえて作った小プラントで、「おらがまちの小麦粉」を実現。

 江別製粉は小麦産地のひとつ江別市で製粉業を営み、間もなく70年になります。平成元年から北海道産100%の小麦粉を提供。生産者の思いを小麦粉に変え、伝えていきたいというこだわりを持ち、バトンを受け継いでいます。

 国産小麦の弱点は生産量と品質の不安定さ。それでも北海道の小麦で焼いたパンは何もつけなくてもおいしいと、全国から求める声が絶えません。たんぱく質の量なども年によりブレがありますが、腕に覚えのある職人たちは生地の様子を見ながら微調整し、使いこなしています。「小麦粉が、工業製品ではなく農産物だと理解してくださる方が増えた」と安孫子社長。「国産パン用小麦の地位は、使う人が引き上げてくれました」。

 平成21年の「ゆめちから」の誕生で、国産小麦粉の可能性が大きく前進しました。今までにない「超」強力(きょうりき)の性質を持つため、他の品種とブレンドすることでパンにちょうどいい粉を作り出せます。全国各地で生産している中力小麦や米粉などとブレンドすれば、オール国産でご当地パンが作れるようになった他、大手製パン会社が求める品質と量にも対応できるようになりました。

 同社はときどき生産者や市町村から「自分のところの小麦を挽いて粉にしてもらえないか」と相談を受けていました。ところが既存の大型設備では、小さなロットに対応できません。それなら作ってしまえと、安孫子建雄先代社長自ら設計図を引いたのが、ミニチュア工場「F-ship(エフ・シップ)」。この工場の誕生により、「おらがまちの小麦粉」ができ、地元でパンや麺やお菓子となることで、初めて生産者の口にも入るようになったのです。現在同社は約400種の小麦粉をラインアップ。全国のパン職人から熱い視線が注がれています。

小麦と小麦粉の種類・用途

乾燥地帯を好むため、梅雨がなく耕地面積の広い北海道が日本の中では
耕作適地とされ、国産小麦のうちの70%弱が北海道で生産されています。

硬質小麦

たんぱく質が多く、粘りと弾力に富む。主にアメリカ、カナダ産。ここで取り上げた北海道産では、春よ恋・ハルユタカ・はるきらり・ゆめちから・キタノカオリなど。デュラム小麦も硬質小麦の一種。

強力粉・準強力粉

グルテンの量が多く強い。
パンや中華麺向き。

デュラム・セモリナ粉

デュラム小麦を粗挽きしたもの。
柔軟なグルテンを豊富に含む。
スパゲッティ、マカロニなど。

中間質小麦

たんぱく質の含有量は中くらい。主にオーストラリア、国内産。

中力粉

グルテンの量・質共に
中程度。うどんなど。

軟質小麦

たんぱく質が少なく適度に軟らかい。主にアメリカ産。

薄力粉

グルテンの量・質が少なく弱い。粒度も細かい。ケーキ、お菓子や天ぷらなど。

DATA:日本の小麦自給率:13~14%/
パン用小麦の自給率:3%

安孫子 俊之さん画像

安孫子 俊之あびこ としゆきさん

江別製粉株式会社代表取締役社長。生産地にある製粉会社として、国産パン用小麦粉の供給をけん引。
さらに、先代がスタートさせた小ロット製粉により、生産者の顔が見える小麦粉を作り出している。

国産小麦 主工場風景

:1時間に10tの小麦を処理できる主工場。異物混入のないよう細心の注意が払われている。左下:500kgから挽ける小ロット用のF-shipから、数多くの地粉ブランドが生まれている。1バッチ挽ききり方式で他の粉と混ざることがないため、有機小麦も製粉できる。右下:同じパン用の国産小麦粉でも、用途別に品種の比率を変えた何種ものブレンド粉を販売。

「北海道小麦キャンプ」が開催されました!

秋まき小麦が黄金色に色づく7月下旬、生産地にパンの作り手たちが集まりました。研究・生産・製粉から調理まで堪能するツアー、生産者と作り手の交流会、講習会、パネルディスカッション、小麦フェスティバルと盛りだくさんの内容の3日間。まさに互いに顔が見えるイベントで、9年間続いています。来年も開催予定。

「北海道小麦キャンプ」記念写真

MEMO:たんぱく質とグルテン

小麦粉にはいろいろな特性を持つたんぱく質が6〜15%含まれていて、そのうちの約85%が弾力に富むが伸びにくい性質のグリアジンと、弾力は弱いが粘着力が強くて伸びやすい性質のグルテニンです。小麦粉に水を加えて捏ねると、このグリアジンとグルテニンが絡み合ってグルテンができます。小麦を粉砕して利用するのはグルテンを形成しやすくするためで、小麦の種類や品質などにより、できるグルテンの量と粘弾性のバランスは異なります。硬質小麦は軟質小麦よりたんぱく質を多く含むので、形成されるグルテンの量が多いのです。

参考資料:「小麦・小麦粉に係る基礎知識」
一般財団法人製粉振興会ホームページより

ようこそ、伊勢丹新宿本店「KITCHEN STAGE by Kai House」へ!

『KITCHEN STAGE by Kai House』は、伊勢丹新宿店の地下1階に設けたイートイン・スペース。2〜3週間ごとにさまざまなジャンルの人気料理人や料理研究家が考案したメニューを提供しています。カウンター席前のオープンキッチンでは、プロならではの道具使いや盛りつけが繰り広げられ、料理を学んでいる方にとってもプロの技を間近で見られる絶好の場として好評です。

また、「『KITCHEN STAGE』で食べたあの味を家庭でも作りたい」。お客さまにそう思っていただけるよう、調理の詳しいポイントに加え、どんな食材や道具を使用しているのかも、配付しているレシピなどで分かりやすくご案内しています。食材や季節感にもこだわった、プロが作る“本物の味”をご用意してお待ちしておりますので、ぜひ一度お越しください。

『KITCHEN STAGE by Kai House』は、スタイリッシュなオープンキッチンを完備。セミナー時には、人気料理人や料理研究家の調理技術を目の前で見ながらお食事ができます。

< 2017年 6月~7月に提供した料理 >

6/7(水)~6/27(火)

提供料理画像 恵比寿にある『賛否両論』笠原料理長のメニュー

「KITCHEN STAGE」が満10年を迎えた節目の今回、毎回大人気の『賛否両論』笠原料理長にご登場いただきました。ふわふわにしたピューレの玉ねぎを敷いた和牛のすき煮やクリームチーズを忍ばせた梅干の天ぷらなど、驚きのアイデアメニューをご考案いただきました。

7/12(水)~7/25(火)

提供料理画像 東京・神楽坂にある『ENGINE』のメニュー

たくさんのお客さまからのご要望にお応えし、東京・神楽坂にある『ENGINE』が初登場しました。定番の冷やし中華や和の薬味がたっぷりとのった鴨の叉焼丼など、食欲のない夏にこそおすすめの、元気が出るメニューをご紹介いただきました。

< 9月~11月に登場予定のレストラン・シェフ >

  • 9/20(水)~10/10(火)

    イタリアン

    横浜 <トラットリア ビコローレ ヨコハマ> 佐藤 護さとう まもる シェフ

    佐藤護 シェフ

    横浜に店を構える本格派イタリアンが初登場。アンティパストの盛り合せからドルチェまで、コースも単品も選べる料理をご用意。横浜の名店の味を「KITCHEN STAGE」で。

  • 10/11(水)~10/31(火)

    和食

    学芸大学 <割烹すずき> 店主 鈴木 好次すずき よしつぐ 氏

    店主 鈴木好次氏

    学芸大学の住宅地にひっそり佇む隠れ家割烹。新米に合う秋の味覚を、コース仕立てでご提案いただきました。馴染み深い家庭料理がプロのひと手間で各段の味わいに。

  • 11/1(水)~11/14(火)

    中華

    青山 <希須林> 料理長 落合 貞雄おちあい さだお 氏

    料理長 落合貞氏

    青山の裏路地に佇む、知る人ぞ知る中華の名店の登場です。ワインと一緒に食べたくなる、「KITCHEN STAGE」オリジナルのスタイリッシュで洗練されたメニューをどうぞ

場所:東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿本店本館B1 明治通り側エレベーター前
10:30~20:00(L.O.19:00)
Tel: 03-3352-1111(伊勢丹新宿本店 大代表)
メニューについては、『KITCHEN STAGE by Kai House』公式ホームページ内
URL http://www.kai-group.com/fun/kitchen_stage/
※都合によりスケジュール・メニューの一部が変更になる場合がございます。

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