特集記事

夢を実現 大好きなお菓子作りで独立

インタビュー
2019年11月15日

初めてのレシピ本を出版したり、レストランをオープンしたり。食に関わる仕事でひとつの夢を叶え、ターニングポイントに立った話題の料理家や食に関わる職業の方へのインタビューをお届けする新連載。「何かはじめたい」という思いを持った人へ、一歩踏み出すためのヒントに溢れています。

東横線都立大学駅から駒沢方向へ。小さな商店街の終わりにある、パリのパティスリーのような外観の店が「アディクト オ シュクル」です。オーナーパティシエの石井英美さんは、2014年、42歳のときにこの店をオープンさせました。事務職からパティシエを目指して転職したのは、30歳目前。人よりすこし遅れて見つけた夢に、石井さんはどう向き合って、実現させたのでしょうか。

石井さんは、2人姉妹の妹として生まれました。実家は、八王子で保育園を開業。学生時代は、漠然と、その保育園を手伝う気でいたといいます。高校卒業後は4年制大学へ。「やりたいことはないけど、人と同じじゃ物足りない。そんな性格でした。大学では、文化人類学を学んで、病や死の意味付けや偏見、差別を人間はどう生み出すのかなどを学んでいました。『私は、精神の自由さを求める』なんて、考えていたことを覚えています(笑)」。

卒業後は、アパレル会社に就職。実家の経営を継ぐうえでの社会経験のためでした。2年でその会社を辞め、計画通り実家の保育園に就職。仕事は、事務から経理、ときには保育園の発行物の制作まで幅広いものだったといいます。

やがて、自分の時間に余裕が生まれると石井さんは、プロが教えるお菓子教室に通いはじめます。「もともと、お菓子を作るのは好きだったし、父も料理好きで、私たちが小さい頃はロールパンなんかを作ってくれたりもしていて、料理が身近にある家庭だったんだと思います」

きれいに焼きあがったスポンジを、プロの料理人にほめてもらえるとうれしかった。私にも何かできるかも…。パティシエになりたいという思いが、日に日に強くなっていきます。

しかし、石井さんは、その思いを両親には話せずにいました。姉妹で保育園を継いで欲しいと両親は思っているはず。まわりからは家族経営で安心できるという目でも見られている。「家族を裏切ってしまうんじゃないか、家族の輪が壊れてしまうんじゃないか。そんなふうに考えていました」。しかし、悩んでいても時間は過ぎていきます。今度は「30歳への危機感」が、石井さんを苦しめます。石井さんは、こっそり国立にある料理専門学校エコール辻に社会人枠の願書を出し、夢への準備を始めます。「当時は、実家に住んでいたので学校の資料とかが届いていました。両親は気付いたでしょうね」。エコール辻の社会人からの入学の枠は少なかったのですが、石井さんは見事に受かり、いよいよ両親に話すときになりました。

友人たちにも「保育園を辞めてパティシエになりたい」と夢を話していたが、ほとんどが反対の意見だったといいます。

 

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撮影/大平正美 取材・文/江六前一郎

石井英美さんプロフィール

いしい・えみ/東京・都立大学にある「アディクト オ シュクル」のオーナーパティシエ。実家の保育園に勤務していた25歳頃、菓子作りに出会って魅了され、パティシエになる夢を抱く。28歳で調理専門学校入学し、フランス留学も経験。29歳でパティシエに転身。渋谷「ヴィロン」、パリの老舗菓子店「ラデュレ」の日本ブランドなどで研鑽を積み、20144月に独立を果たす。愛猫をモデルにしたイラストが印象的な缶入り焼き菓子の詰め合わせがブレイクし予約困難状態。

アディクト オ シュクル

東京都目黒区八雲1-10-6

電 03-6421-1049

営 11:0018:30(商品なくなり次第終了)

休 不定休(HPで毎月の定休日を告知)

http://addictausucre.com/