宮澤奈々さんに聞く【著者に聞く、話題の料理本出版記】

「テーブルを囲んだお客様の笑顔をみるのがいちばんの幸せ」と言う宮澤奈々さんは、東京・世田谷の自宅で料理サロンC’EST TRES BON(セ・トレ・ボン)を主宰しています。三つ星シェフが作ったのかと見まちがうほど美しい宮澤さんの料理。それらをまとめた4冊の著作をつらぬくテーマは「おもてなし」。書籍出版の裏側にあったストーリーを紹介します。

2019年08月7日

「まさか私が?」最初は出版依頼が信じられなかった

2011年4月発売となった宮澤奈々さんの処女作『おいしく見せる 盛り付けの基本』(池田書店)には、タイトルにこそ“おもてなし”の文字はなかったものの、翌年に発売になった『シンプルなおもてなし』(小学館)と『喜ばれるおもてなし和食』(池田書店)、そして2014年の『アミューズでおもてなし』(池田書店)のいずれにも、ゲストをもてなすための細やかな気配りとアイディアがあふれています。

今や「おもてなし」は世界にも通用する日本の良さとして定着した感がありますが、それらを料理本に落とし込んだ宮澤さんは、どのような観点で着手していったのでしょうか。

現在、宮澤さんは、新聞や女性誌といったさまざまなメディアに関わるほか、百貨店や企業とのコラボ、器のプロデュースなど、料理教室の先生という枠を越え、料理だけでなく、器選びから盛り付けのセンス、テーブルコーディネートなど食周りのすべてに才能を発揮。そのセンスは上質な暮らしを心がける人々から圧倒的な支持を受けています。
しかし、宮澤さんご本人は決して自分から前へ前へと出るタイプではありません。フランス料理やイタリア料理、カリフォルニアキュイジーヌを学んでレストランの厨房でも修行し、また懐石料理にも精通したプロ顔負けの腕を持つ宮澤さんですが、本を出版する前は自宅で料理教室を開催することが本業でした。もちろん自分のお店を持つような野心はなく、「好きな料理を好きな時に自由に作りたい」と、自分の城である自宅キッチンで料理の世界に没頭していました。

料理本デビューのきっかけは、意外なところから始まりました。

「宮澤さんのような人がまったく世に出ていないのはもったいない」と考えた料理教室のアシスタントさんが、多くのメディア関係者とつながりを持つ方を紹介してくれたのだと言います。周りのアドバイスに従って自宅で開催した食事会が後々、料理研究家としての活動をさらに広げることになる重要な機会となったのですが、実はその食事会とほぼ同時期に、宮澤さんが毎日更新していた料理ブログを見たという一人の編集者から、出版を打診するメールが届いていました。
「料理教室の生徒さんから誘われてカメラ教室に通いはじめたのをきっかけに2009年からブログを始めました。撮影の練習を兼ねていましたので、最初は毎日の我が家の食卓風景や料理教室のことなどを写真に撮ってアップしていました。文章は苦手なので、ほとんど写真だけでしたが、始めてから1年ぐらい経った時に、突然、池田書店の編集の方からメールが入りまして。『おもてなしのための盛り付けをテーマに本を出しませんか』という内容でした。でも、私に声がかかるわけはないと思い何かの広告なのかな、と返事もしなかったのです(笑)」。
ところがメールは1度ならず、2度、3度と届きました。著書を持つ料理仲間の友人にメールのことを話したところ、池田書店にその編集者が在籍していることがわかりました。「それなら一度お会いしてみようと、4度目にメールをいただいた時に初めて返信しました」
会うと決めたものの、宮澤さんはまだ半信半疑だったと言います。

「出版と言いながら広告の話ではないかと疑っていたんです(笑)」。

もちろんそんな怪しい話ではなく、盛り付けの基本を教えてくれる著者を探していたこと、盛り付けは和洋中のいずれにも対応できる人で、ごく普通のおかずで、例えば煮魚を華やかなおもてなし用に盛り付けする際に気をつけるポイントや器選び、合わせる小物やクロスなどテーブルコーディネートまで写し込んだ写真で構成する教科書のような本にしたい、というオーダーでした。

料理それぞれにはレシピも必要ですし、使う食器やクロス類はできるだけ宮澤さんの自宅で使っているものを、という指定ですから、これが初めての著書となる“新人”にとっては、非常に高いハードルであることは間違いありません。しかし宮澤さん、「務まるかどうか非常に不安」に思いながらも、「料理が好きで好きで、一心に修行してきたものを形として残せるなら」と、本作りに挑戦することにしました。2010年暮れのことです。

処女作は盛り付けの基本と定番料理をまとめた保存版に

その本作りは「とにかく大変でした。出来上がった時はもう私、何も怖いものはないと思えた」ほど。撮影は5日間に及び、1日30品以上の撮影が予定されていたそう。食材を保管するための冷蔵庫が足りないからと冷蔵庫を買い足し、盛り付ける器を探し、撮影メニューを考えては盛り付けのスタイルを試すという作業を繰り返したといいます。
そうして迎えた撮影当日は料理教室を手伝ってくれるアシスタントさん4人の力を借り、編集担当者とカメラマン、そして宮澤さんというチームは一丸となって臨みました。時には朝8時から始めた撮影が深夜の2時までかかったことも。そのあとに続く原稿のまとめがあり、さらに校正、校正、校正……という日々が続きました。
「本が出来上がってきた時は本当に感激しました。それ以来、料理本を見る目が変わりましたね。世の中にたくさん出版されている本はこんなにたくさんの人の手を借りながら、こんなに大変な思いをして作られたものなんだ、と。もう軽い気持ちで見られませんよね」
160ページに及ぶ1冊目は、タイトル通り、盛り付けの基本がみっちり盛り込まれました。表紙のチキンソテーをはじめ、掲載したレシピは普通の家庭で気軽に作れるメニューばかりなのに、盛り付けはレストランや料理屋でいただくかのような本格的なもの。ちょっとの工夫や器選びでチキンソテーがとびきりの一皿になるという提案にあふれていて、「実際、フードスタイリングや料理学校のテキストに使われていると聞いています」。これ1冊持っていたら安心というテキストブックに仕上がりました。

「本に載せたレシピは我が家の定番料理ばかりなので、私のメモ代わりにも(笑)。おせちなどは、ここに全部載せているので、毎年開く便利な一冊になりました」
この1冊目は教室の生徒さんをはじめ、多くの読者から支持を集め、中国語にも翻訳されて、台湾と香港で出版されました。

出版の前後から活躍の場が大きく広がった

この1冊目の出版の前後から宮澤さんの世界は大きく広く展開し始めます。前述のように、本の出版の話と前後して、知り合いを通して女性誌にも活躍の場が広がったのです。宮澤さんが得意とするおもてなし料理のレシピとテーブルコーディネートを紹介するページを何度か続けて担当していたのですが、1冊目が出版された後は、その動きに拍車がかかりました。
その証拠に、それまでも料理教室を開催していたキッチンメーカーのクリナップが主催するドリーミアクラブの担当者を通じ、小学館の編集者から2冊目の本の依頼が舞い込みます。
2冊目は、モノトーンのお皿を使った『シンプルなおもてなし』の本。3皿1コースの構成で同じレシピの料理を3つの盛り付けで見せていくというものでした。誌面のあちらこちらにアイディアとセンスが光る1冊にまとまりました。
その後も池田書店からさらに2冊を出版します。教室で人気のお弁当スタイルで盛り付けた和食をまとめたものと、前菜として供されるアミューズばかりをまとめた1冊。

いずれも宮澤さんが「大好き!」という世界観でまとめられました。アミューズの本は1冊目と同様に翻訳され、台湾で出版されています。とくにこの本は自ら企画して出版することができた本なので、本の完成も翻訳版の出版もとても嬉しかったのだそうです。

「ゲストに喜んでほしい」という気持ちがすべて

本の出版に、女性誌や新聞等メディアでの活躍、イベントの登壇などの仕事が、当時から今まで引きも切らず舞い込んでいるという宮澤さん。

「大好きな世界だからついがんばっちゃう」といいますが、仕事ではもちろん、たとえプライベートでのおもてなしだったとしても、相手に喜んでほしいからと100%以上の力で取り組んでいるそうです。打ち合わせや撮影時の賄い用の食事ですら、ゲストが「素敵!」とつい感嘆の声を上げてしまうテーブルを用意してもてなすのが常。求められた以上の力で応える誠実さに、編集者をはじめとするクライアント各社からの信頼が厚いであろうことは想像に難くありません。
「料理は、学んでも学んでも、奥が深くて終わりがないですね。毎日食材と向き合いながらアイディアを見つけ、作り上げていくことにとにかく夢中です。でも、レストランではありませんから、ごく普通のお店で手に入る食材で、喜んでくださる料理を考え出すこと。それが私の喜びであり生きがいです」
だから器のプロデュースの話が舞い込めば、どうしたら料理が引き立つ器ができるだろうかと一心に取り組み、2018年の春から始まった月刊誌での連載では、「時間の許す限り自分の足でいろいろ探し、試作し、盛り付けやコーディネートを考えています。要領が悪いので時間がかかるのです」と謙遜しますが、それもプロとしての探究心のなせる技。スタイリストを入れず、食器やグラスなどテーブルコーディネートに必要なものはほとんどすべて自前のもので構成しているそう。
「昔の自分の盛り付けや使っている器を見ると、『いまいちだなあ』と思うこともしばしば(笑)。料理にも流行がありますから、常に勉強を続けないといけませんね」と自分に厳しい宮澤さんです。

そんな宮澤さんの教室に来た人はみんな料理好きになっていくそうです。
「『料理はあまり好きではないけど毎日やらなければならないことだから』とおっしゃっていても、レッスンに通い始めてからどんどん料理を好きになってくれる生徒さんが多いんですよ(笑)。私が楽しそうに料理しているのを見て一緒に楽しんでくださるのかも。料理中や盛り付けしながらも『かわいい!』とつい言っちゃうものだから、やってみようかな、真似してみようかな、と楽しんでくださって。そんな様子を見ると私も嬉しいですし、料理をやっていてよかったと思える瞬間ですね」
こだわり抜いて作り上げたという自宅キッチンに立たない日はないと言います。広い中庭を囲む真っ白な空間には、どーんと据えられたポーゲンポールのシステムキッチンにドイツ製の冷蔵庫、造り付け家具のあちらこちらに美しく配置されたガラス器などが輝きます。そこで料理する宮澤さんはまさに誰もが憧れずにはいられない“ザ・料理サロンの先生”。でも、そんな舞台装置がどうのという以前に、とにかく料理中の宮澤さんの楽しそうな姿にああ、なるほど、とうなずいてしまいます。料理は楽しいということを、身をもって伝えてくれる宮澤さん自身に仕事が引きも切らない理由がありました。

 

 

撮影/山下みどり 取材・文/綛谷久美

プロフィール
宮澤奈々さん

料理家、FOOD SPECIALIST。自宅教室C’EST TRES BON(セ・トレ・ボン)を主宰。季節の料理や和洋食のおもてなし料理、普段の食卓にも使える盛り付けやコーディネート、家庭で再現しやすいレシピが人気。現在は月刊『家庭画報』での連載、外部教室でのイベント登壇、器のプロデュースなど多岐にわたる分野で活躍中。
公式サイト https://www.nanamiyazawa.com

 

著書リスト
『おいしく見せる盛りつけの基本 毎日の食卓をスタイリッシュに変える』
2011年4月11日発行
池田書店
B5判、平綴じ、160ページ

 

『シンプルなおもてなし モノトーンのお皿で盛りつけマジック』
2012年10月1日発行
小学館
B5判、平綴じ、80ページ

 

『喜ばれるおもてなし和食 お弁当スタイルに心を込めて 』
2012年12月7日発行
池田書店
B5判、平綴じ、96ページ

 

『アミューズでおもてなし 小さなお料理のかわいい盛りつけ』
2014年10月9日発行
池田書店
B5判、平綴じ、128ページ


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