特集記事

私の体に合う食事が「おいしさ」の軸に

インタビュー
2020年03月12日
初めてのレシピ本を出版したり、レストランをオープンしたり。食に関わる仕事でひとつの夢を叶え、ターニングポイントに立った話題の料理家や食に関わる職業の方へのインタビューをお届けする連載。「何かはじめたい」という思いを持った人へ、一歩踏み出すためのヒントに溢れています。

カレーとジビエは、私の体に必要なもの

小田急線喜多見駅前、小さな飲食店が連なる地下街の奥に、昼はカレー、夜はジビエのコース料理を出す不思議なレストランがあります。竹林久仁子さんがオーナー兼料理人を務める「beet eat」(ビート・イート)です。オープンは2015年。その当時は、「カレーとジビエって、どっちが本業なんですか?」と、いわれることも多かったそうです。しかし今では、昼はカレーファン、夜はジビエと旬の食材をゆっくり楽しみたいという食通が足繁く通う人気店になりました。

「カレーとジビエは、私の体質にあった日常の食事でした。食材を簡単に手に入れることが難しいこともあって、普段の生活に取り入れて続けていくのが当初は難しかったんです。そんなときに、カレーとジビエを仕事にすれば、私に合った食事を続けることができるのではないかと考えんたんです」と、beet eatが生まれるきっかけを、竹林さんは話します。

わずか6席の小さな店内。店内には、鹿の剥製や空薬莢のコレクションに混じって、竹林さんの好きなパンダのオブジェも飾られています。

 

30歳の大事故が体質を変え、食事への向き合い方を変えた

20代は、飲食業とはまったく関係のない業界を転々としながら生きていた竹林さん。仕事でお金を貯めては、東南アジアからインドなどへの旅を繰り返し、日本では体験できない価値観に触れてきました。「当時は、食事をする時間も惜しいほど。自分のことに興味がなかったんです」と振り返ります。

しかし、30歳の時に転機が起こります。

勤務中に交通事故に遭ってしまいます。バイクで信号待ちしていたところ、後ろから11tトラックが突っ込んできたのです。左足の膝を粉砕骨折。ボルトを埋め込んだまま3年間のリハビリ生活を余儀なくされました。

この事故による心身の変化で竹林さんの体質も変わり、過去の身体の不調がアレルギーだと気づきました。ストレスも加わって体重が20㎏も増加。ケガによって運動で痩せられたないこともあり、何かダイエット方法を探していたときに出会ったのがマクロビオティックという食事法でした。

マクロビオティックは、食養に東洋医学の陰陽論を取り入れ、自然の恵みを残さず食そうとする「一物全体」や、生活する土地でとれる旬のものを食そうとする「身土不二」などを原則にする食事から始まる思想です。一般的には、玄米や全粒粉などを主食にし、豆類や野菜、海草類、塩などの食材を中心にした食事を摂ることが多いとされています。

「マクロビの実践方法はいろいろあって、厳密に始めると食材や調理法、調理器具などに及びます。一般的にはベタリアンのように見られているかもしれないのですが、私は、学んでいくほどに『食事法は人それぞれの体質にあった食事がある。それを各々が考える』という、哲学だと感じました」

誰かに決められた基準ではなく、自分の体質にあった食事を選ぶ――。それから竹林さんは、食べ物がどうやって作られ、どうやって食卓に届くのかに興味を持ち、調べて知るようになったといいます。

「私にとって究極の夢は、『空を飛ぶこと』。それに比べれば、カレーもジビエも、あくまで私の日常なのです」と笑う竹林さん。

 

マクロビオティックの哲学が「おいしさ」への迷いを拭った

マクロビオティックを続けるなか、野菜はオーガニックや無農薬などの自然に近い食材の選択肢が多く困らない一方で、精肉には、竹林さんが食べられる選択肢がないことに気づきます。何か食べられるものはないか、と考えるなかで「野生のシカやイノシシ、クマなどの肉なら私に合うんじゃないか」と、ジビエに興味を持ち始めたといいます。

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撮影/大平正美 取材・文/江六前一郎

竹林久仁子さんプロフィール

1975年、兵庫県出身。20代はさまざまな職業を経験しながら、東南アジアやインドなどを旅する生活を送る。30歳頃に交通事故に遭い、人生が一転。マクロビオティックを通じて「体に負担のない食事」を実践する中で、ケータリングを始め、飲食の世界へ。2015年に小田急線喜多見駅前に「beet eat」をオープンする。

beet eat

住所:東京都世田谷区喜多見9−2−18 B1F
電話番号:03-5761-4577
営業時間:12:00~15:00(14:00L.O.)
18:30~22:00(21:30L.O.)
※ランチは不定期の営業になりますので、SNSアカウントをご確認ください。
※夜はジビエのコースのみ。(要予約)
定休日:水曜日、臨時休業あり
Instagram:@beet_eat_2015
Twitter:@shikeke