地元の人が1週間の楽しみで来られるお店作り
黒い建物のシルエットに映える印象的な大きな窓ガラスには、夜のメニューが値段とともに書かれています。その多くは1000円以下で良心的。店内の様子と価格が知れるので、初めて通りかかかった人でも入りやすくしています。
1階はキッチンを囲うようにカウンターが配され、ひとつの親密な空間が作られているのに対して、2階はゆったりとテーブルが置かれているので、落ち着いて食事ができます。
nidのオーナーシェフ、黒葛原徹(つづらはら・てつ)さんは、「地元の方が、週に1回の楽しみとして、おいしい料理を食べにフラっと来ていただけるようなお店にしたかったんです」と、nidは、フランス語で鳥の巣を意味するとおり、羽を休める場所になればと願っています。
黒葛原さん自ら壁を塗るなど店作りを手伝ったという店内は、独特の手作り感が、親密感のある空間を演出しています。
2階のダイニングエリア。開放感がある大きな窓ガラスがお客さまを迎えます。
サービス、料理、経営を学んで独立
黒葛原さんは、専門学校を卒業後、フランスのグランシェフ、アラン・デュカス氏がプロデュースするビストロ「ブノワ」(東京・表参道)に入社。サービスマンとして働き、一流店のホスピタリティを経験しました。その後、美食都市リヨンの郷土料理店で、本国フランス人の舌をも唸らせる「ルグドゥノム・ブション・リヨネ」に入り、料理の腕を磨きます。さらに、独立前に向けて新店舗のオープンや経営に関する知識を得たいと、都内でカフェ業態を複数店運営する「attic」に入社し、キャリアアップを続けていきます。
「attic」では、現在も新宿と渋谷、恵比寿にあるカフェ・ビストロ「ANALOG」の立ち上げとメニュー作りを経験。それまで経験してきた一流の料理とサービスの経験を活かして、質のよいカジュアルな店作りで、ANALOGをatticを代表するブランドにします。
「ビストロですが正統派になりすぎないように、和の食材や盛り付けのインパクトなど『おもしろさ』を意識したメニュー作りをしていました。サービスについても『お客さまに呼ばれてからするのはサービスではない』というブノワでの経験を、サービススタッフにも意識してもらっていました」
nidをオープンさせる直前までの8年間、店を運営していくにあたってさまざまな経験をすることができました。そして、30歳までには自分の店を持ちたいと考えていた黒葛原さんにとっては、少し遅れてしまいましたが、サービス・料理・経営を学んだうえで、33歳で念願の独立を果たします。
オープン前に目黒の「kabi」や代々木上原の「Gris」(現:sio)、表参道の「eatrip」などを見て、店とお客さまの垣根を超えて、両者が作るレストラン空間の素晴らしさを発見。nidもそうした空間づくりを目指しているといいます。