特集記事

イノベーティブ JULIA

レストラン
2019年12月5日

イノベーティブという言葉がひとつの料理ジャンルとして根付いて久しいですが、最近は単なる異ジャンルとの”融合”に留まらず、自由闊達なアイディアで食べ手を魅了する料理人が増えています。今年、恵比寿から外苑前に移転オープンを果たした『JULIA』で、東京のいまを体感できる新しい料理の形に出合いました。

新感覚のペアリングコースでイノベーティブの新境地を開拓

イノベーティブは直訳すると“革新的”という意味です。ヨーロッパはもちろん、アジアでも最近は“イノベーティブ”にカテゴライズされるレストランが年々増えていますが、革新的であることはつねに変化をし続けるということでもあります。さらに、料理だけではなく合わせるお酒や空間、音楽などレストランを取り巻く環境のすべてに個性があること。そして、それらが複合的に絡み合いながらひとつの世界観を構築していること。今年の6月に外苑前にオープンした『JULIA』は、そうした条件を満たしたレストランです。

ウォールナットのカウンターがモダンかつ温かみのある雰囲気を醸す店を切り盛りするのは、オーナーでソムリエの本橋健一郎さんと女性シェフのnaoさん。
恵比寿に店を構えていた頃は軸足をモダンアメリカンキュイジーヌに置いていましたが、移転後はそのエッセンスを残しつつも、さらに自由度の高い料理に。
「どんな飲み物に合わせるか」をテーマに組み立てるというコースはペアリング込みで1万9000円。バーテンダー経験もある本橋さんは「飲み物のアロマやフレーバー、口に入れた瞬間のテクスチャーなど味の要素や余韻を細かく分析し、その感覚を踏まえたうえでどんな料理が合うのかを考えます。たとえば、白い果実のようなチャーミングな味がするロゼに動物性の油脂分を合わせるなら魚よりも肉だ、とか。コースでペアリング提供をしているお店は次に出てくる料理を意識して構成を考えているところが多いけれど、僕らが目指しているのは、序章からクライマックスにかけて少しずつ盛り上がっていく物語ではなく、ひと皿完結型の短編小説。それぞれがまったく別の話だと思っていたら、最後に一連の物語として繋がっていた、という感覚を味わっていただけたら嬉しいです」とコースの流れを一篇の小説に例えます。
たとえば、前菜の鴨胸肉の生ハムと白桃のタルタルには、新潟県のワイナリー、カーブ・ドッチのロゼワインを合わせて。甘い脂をたたえた鴨の生ハムと桃のコンビネーションをロゼワインの淡い果実感が引き立て、鼻を抜ける心地よいアロマを生み出します。甘口のポートワインには、強めにキャラメリゼしたイチジクを主役にエスプレッソコーヒーのソースとフォアグラのパウダーを合わせるなど、デザート的な皿をコースの合間に差し込む楽しいサプライズも。オマール海老で出汁を取り、パプリカのピューレとチョリソーをミキシングしたソースで旨みとコクを際立たせたイカのチャコールグリルにシチリアのとろみのある白ワインを合わせれば、たちまちヨーロッパの港町にいるような気分に。ひと皿ごとに完結する楽しい“物語”に食べ手はどんどん心を惹きこまれます。
「ワインはもちろん、カクテルや燗酒を取り入れたりもします。スライダーという小さなハンバーガーにロワールの自然派ビールとトマトとセロリから取ったエキスを合わせてレッドアイを出したときも好評でした。BBQポークとフレッシュな林檎やサワークリームを使ったハンバーガーにほんのりスパイシーなレッドアイは最高の相性。ジャンルで言えばイノベーティブということなのかもしれないけれど、僕らはそこにとらわれず、自分たちがその時々で夢中になれることや時代の雰囲気に対して敏感でありたいんです」。
 

撮影/菊池陽一郎 取材・文/小寺慶子

JULIAの詳細情報

店名 JULIA
電話番号 03-5843-1982
住所
東京都渋谷区神宮前3-1-25
アレーデジングウマエ1F
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営業時間 18:00~20:30最終入店
火曜休み(ほか不定休あり)
カウンターのみ9席
※ペアリングはノンアルコールも用意
ジャンル イノベーティブ

◼️オーナーとシェフの紹介
右:本橋健一郎(オーナー、ソムリエ)左:nao(シェフ)

茨城県つくば市で『本橋ワイン食堂』を営み、その後に恵比寿に移転し店名を『JULIA』に改める。本橋さんのワインのセレクト、モダン・アメリカンキュイジーヌをテーマにしたnaoさんの料理が話題に。2019年6月に現在の場所で新たなスタートを切る。“日本人女性初のミシュランの星獲得”を目指し、二人三脚で店を盛り上げる。