販売されるやいなやあっという間に売り切れてしまうチーズケーキがあります。生みの親は田村浩二さん。31歳という若さで、東京・白金台のミシュラン星付きフレンチ『TIRPSE(ティルプス)』のシェフに就任した経歴を持つ実力派です。世界的に名誉ある賞を獲得するなど華々しいキャリアを築きながらも、レストランを離れて新たな事業へ。「人生最高のチーズケーキ」と称される『Mr.CHEESECAKE』を立ち上げた経緯や思いを伺いました。
180cmを越す長身の田村さん。高校時代はプロ野球選手を目指していたこともあったそうです。目標に向かって一途に打ち込む姿は、その頃から変わりません。
受賞したことで生まれた料理人としての葛藤
数々の名高いフレンチの料理人として活躍してきた田村浩二さん。華麗なる経歴に終止符を打ったあと選んだ道は、なんとチーズケーキのプロデュース&販売。「僕自身がレストランに行かなくなったというのが大きいですね。レストランってシェフの感性を感じに行くところだと思うんですが、まっすぐに美味しいかというとそうでもなかったりする店も多いんです。自身のテクニックを見せるようなアートみたいなものですよね。それはそれで素晴らしいと思うんですが、時代に合っていないのではないかなと。それにもし独立するなら、お店をオープンするのに4,000~5,000万円かかるし、やるとしたら30年は続けなければならない。しかも10年前と違って食にお金をかける人が減ってきている中で、自分で店を持つのがいいことなのかどうなのか、キャリアについて疑問を持っていました。そんなことを考えていた頃に、フランス発グルメガイド『ゴエミヨ 東京・北陸・瀬戸内 2018』で「期待の若手シェフ賞」という賞をいただくことができ、それは目標でもあったので嬉しかったんですが、賞を獲ったことで客層が変わったんです。僕自身は何も変わっていないのに、来るのは食に興味がある人や食のジャーナリストばかり。誰が作ったかではなく、賞を獲得したシェフという肩書きが大事なんだなと思いました」
『Mr. CHEESECAKE』が生まれるのがここ、人形町にある小さな工房。ホワイトボードの「痩せろ」は社訓。近々、西小山に移転予定で広くなるそう。
Mr. CHEESECAKEの誕生
そんな想いの中、料理人となった原点について今一度考えるようになったのが、転換期となりました。「もともと僕が料理人になったのは、高校時代、友人の誕生日にケーキを焼いたのがきっかけでした。そんなにお金がなかったので手作りのチーズケーキをプレゼントしたんですが、すごく喜んでくれて、そのことがとても嬉しかったんですね。人に喜んでもらえる料理人を目指していたのに、いつの間にか賞を獲ることや有名になることに目標が変わっていたことに気づいたんです。いくらこの世界で評価されたとしても、それが誰かを幸せにすることとイコールではない。テクニックに走るのではなくて、誰が食べても美味しいものを作りたいと思うようになって考案したのが、チーズケーキでした。レシピを試行錯誤して、“自分の中での人生最高のチーズケーキ”が完成したので、試しにインスタのストーリーに投稿してみたんです。そしたら、食べてみたいと言ってくれる人がいて、販売し始めたのがきっかけでした。当時はまだレストランで働いていたので、料理人の傍ら、2時間睡眠で頑張っていましたよ(笑)」