大勢の前で話すのが得意になる方法【好感度アップ塾】

佐藤綾子

ふだんは料理レッスン中、生徒を相手に話をするのが得意という人でも、料理イベントやテレビ番組出演など、大勢の前で話さなくてはいけない場となると、急に緊張して及び腰になってしまうこともあるでしょう。そんなとき、どんな心構えを持ちどの点に意識すれば、相手の心に届くメッセージを送ることができるのでしょうか。「国際パフォーマンス研究所」の代表であり、日本のパフォーマンス学の第一人者として活躍する佐藤綾子さんに話を伺いました。

2018年12月17日

大事なのは「誰に伝えるのか」を意識すること

佐藤綾子

一対一の会話と違って、大勢の前で話すときに不安になることは多々あれど、最たるものは「どんな人が聞くのだろう」ということではないでしょうか。佐藤さんはその点を事前にできるだけ明らかにさせておくことが大事、と言います。

「パブリックスピーキングで大事なのは聞き手の分析です。例えばステージで話す場合、会場に入る前の段階で、年齢層、性別、職業などを把握できていれば、それだけでも大きな前進。話す内容が料理のことであれば、聴衆の料理スキルはどのくらいで、教える立場の人なのか、家庭で作る人なのか、食べる人なのか、そしてその日のタイミングを考えることも大事です。お腹が空いている時間なのか、眠い時間なのか、疲れている時間なのか。台本を読む読まないに関わらず、人前で話すときには下原稿を用意すると思いますが、原稿を作っている段階からまずは聞き手を想定し、専門用語や外来語の量やレベルを調整する必要があるでしょう。テレビであっても視聴者の傾向など、ヒアリングできる情報はできるだけ事前に聞いておくことが大切です」

そしてイベントや講演など実際に聞き手が目の前にいる場合は、マイクの前に立って話し始める時点で、もう一度聞き手を分析し直します。

「実際には事前に十分な情報を得られないことが多いでしょうから、会場を見回して、どんな方が来ているのか、どんな状態なのかという様子を把握することが大切です」

佐藤綾子

伝える人が明確になったら次にゴールを設定する

対象となる聞き手の分析と共に大事なのが、「何をゴールにするか」だと佐藤さん。

「人前で話をする以上、必ず目的を持って行うことが大事です。何かものを買ってもらうのか、組織やクラブに入会してもらうのか、投票してもらうのか。あなたが主催するイベントの場合はもちろん自分の中で目的を明確にするべきですし、もし他に主催者がいるイベントやテレビ番組であれば、その方があなたにお金を払っているのは何かの効果を期待しているためであるはずです。それに応えるには、どんな内容でどんなふうに話すべきかを事前に定めておき、話している最中もそれを忘れないでいることが大事です」。

初心者はついつい「何を話すか」にばかり考えが向いてしまうものですが、「何のために話すのか」ということを明確にできれば、話の充実度も変わってくるはずです。

国際パフォーマンス研究所

アリストテレスが考えた弁論術「LEP」

次に心構えとして忘れてはいけないことは、紀元前330年にアリストテレスが考えた弁論術「LEP」だと、佐藤さんは言います。

「相手を説得するためにはL=ロゴス(ロジック・論理性)、E=エトス(信憑性)、P=パトス(パッション・情熱)が必要です。

まずロゴスについて。今の時代はロジカルプレゼンテーションにまつわる著書も多く出ていますが、筋道立てて論理的に話ができているかどうかはとても重要なポイントです。時系列が前後することなく、時間の流れに沿って話すということも大事です。また何かデータや原則を引用する際に、出典などを明確にすることもロゴスの一部です。

次にエトス。信憑性というのは、つまりあなたが本物かどうかということを指しています。これには、資格や肩書き、過去の実績などに裏打ちされたものがあれば役立つでしょう。洋服やアクセサリーなど、身につけているものがイミテーションやコピーブランドのようなものであれば、このエトスが疑われて耳を傾けてもらえなくなる危険性もあるので要注意です。品質や仕立ての良いもの、きちんと手入れされたものを身につけることも大切ですし、あまり過剰なメーキャップは本来のあなたの姿を隠してごまかしていると思われてしまいますから、これも信憑性が疑われる要因になります。

パトスについては、これはもう説明不要かもしれませんね。パトスは、絶対に忘れてはならないものです。ロゴスやエトスは、事前の台本やプロフィールシートで備えることができますが、熱い思いを持って伝えたい気持ちをきちんと表現しなくては、せっかくのロゴスもエトスも活かすことができないからです。どんなに偉い人がどんなにいいことを言っても、お話がつまらなければ誰も話を聞いてくれない、ということ。料理のお話なら、まずは先生であるあなたが生き生きしていて、“この人のお料理はおいしいだろうな”と感じてもらえなければ、すべてが台無しになってしまうというわけです」

聞き手に女性が多いシチュエーションならロゴスを控えめにしてエトスやパトスに重きを置いたり、これまで耳慣れない新しい考え方を伝える時や、疑り深い人が聞き手に多い場面では、エトスをしっかり伝えることが大事、とも教えてくれました。

 

「パトス」=情熱を伝える話し方テクニック

 

このパトスを伝えるには、思いだけでなくそれをきちんと相手に届けるためのテクニックがあります。その中のいくつかをご紹介いただきました。

1)講演などの場合は、会場全体に視線を送ること。

目だけでなく、頭(首)ごときちんと向きを変えて会場全体に視線を届けましょう。

2)「後ろ姿」で快活さを伝えること。

背筋を伸ばし、膝の後ろを伸ばし、お尻をキュッと引き締めてヒップアップを意識しましょう。前面ばかりでなく、背後で元気の良さを伝えるつもりで立ったり歩いたり座ったりすれば、それだけで生き生きとして信頼できる雰囲気が生まれます。歩くときは少し歩幅を広めに意識して。

3)瞬きの回数は少なくすること。

緊張すると人は瞬きの回数が増えがちですが、聴衆の目にそれは、自信のなさや知識の欠如を隠しているように映ります。つい瞬きが増えてしまうという人は注意しましょう。「1分間に37回以下」が望ましいそう。

4)口を大きく開けてはっきりと話すこと。

人は耳だけでなく、目でも話を聞いています。口の動きを見て推察しながら話を聞きますから、口の動きでもきちんと伝わるように、しっかり動かしましょう。声は大きくなくていいので「クリアな声」を意識して。

5)「1分間で266文字」が最も聞きやすい速さ。

もし「●●について2〜3分お話しください」というように話す時間に指定があった場合、事前に原稿用紙に原稿を書いておくことがおすすめ。漢字とかなの混じった普通の表記で266文字、持ち時間が3分であれば原稿用紙2枚分くらいが、いちばん聞きやすく、相手に届く情報量と言えます。

6)高低、速度、強弱、イントネーション、ポーズ(間)にメリハリを

話の中でも特に大事な部分、キーワードとなる部分は強調して伝える必要があります。上にあげた5つは「周辺言語(パラランゲージ)」といって、言葉の意味を強くするなど、言葉を支えてくれますが、うまく使わなければ逆効果になることも。台本でも大事な単語やセンテンスはマーキングしておいて、そこを特にゆっくり、強く言う、前後にポーズ(間)を入れるなど、意識してみましょう。

持ち時間「ぴったり」を守ることの重要性

さらに、小さいことのように思えてとても重要なのが、持ち時間をきちんと守ることだといいます。

「まさにタイムイズマネーです。その講演やイベントが聞き手の皆さんにとって有料か無料かを問わず、大事な時間を割いてその場所に集まってくれているという意識が欠落してはなりません。予定していた時間より短く終わった場合は、物足りなさを感じたり損をしたと思う人もいることでしょう。逆に、時間がオーバーしてしまった場合、次のアポイントや電車の時間などに影響することだってあります。予定通りの時間をきちんと守るのは、実は本当に大切なこと。甘くみてはいけないんです」。

台本をしっかり練っておき、時間配分を緻密に考えておくとともに、現場でアクシデントがあった時に調整できる部分を残しておくことも大事、と佐藤さんは言います。

「まず多いのは、前段階の挨拶が長すぎるケース。ここで時間を取るのは時間泥棒です。またマイクやスライドの調子が悪いとか、居眠りする人が出てきたので途中で休憩を入れるといったこともあるかもしれません。そういうケースにも対応できるよう、“省略してもいい内容”を決めておくことも大事でしょう。最後に少し時間の余裕があった場合は質疑応答の時間を残すこともできますから、オーバーするよりは少し短めで設定しておくのがいいかもしれません。後半急に早口になって、最後まで話し切ろうとするのは禁物です。テレビの場合でも、言いたいことを全部言おうと早口でまくし立てるのは独りよがりだということを覚えておきましょう」

佐藤綾子

佐藤綾子さんの「大勢の前で話す」ことに関する著書。

聞き手はあなたの話を聞かない権利がある!

最後に、絶対忘れてはいけないこと、と佐藤さんが話してくれたのがこの言葉。

「“聞き手にはあなたの話を聞かない権利がある”ということを理解しておかなければなりません。日本の聴衆はスピーカーに甘く、つまらない話でも辛抱強く聞いているふりをしてくれますが、例えばアメリカであれば、話が冗長だったり小さい声でボソボソと話していたりすれば、わざと大きな音を立てて退場する人もいます。そういう聴衆によって、スピーカーが育てられているとも言えます」

頼まれたから話すのだ、私の話を聞きたい人が集まっているはず、などという考え方は持たない方が得策。十分な準備をし、情熱をまっすぐに伝える話し方を目指しましょう。

撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

お話を聞いた人:佐藤綾子さん(博士・パフォーマンス学)

1969年信州大学教育学部卒業、上智大学大学院、ニューヨーク大学大学院修了。日本におけるパフォーマンス学の第一人者として活躍。ハリウッド大学院大学教授、博士(パフォーマンス学・心理学)、国際パフォーマンス研究所代表。日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は180冊以上、累計315万部を超える。

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