大事なのは「誰に伝えるのか」を意識すること
一対一の会話と違って、大勢の前で話すときに不安になることは多々あれど、最たるものは「どんな人が聞くのだろう」ということではないでしょうか。佐藤さんはその点を事前にできるだけ明らかにさせておくことが大事、と言います。
「パブリックスピーキングで大事なのは聞き手の分析です。例えばステージで話す場合、会場に入る前の段階で、年齢層、性別、職業などを把握できていれば、それだけでも大きな前進。話す内容が料理のことであれば、聴衆の料理スキルはどのくらいで、教える立場の人なのか、家庭で作る人なのか、食べる人なのか、そしてその日のタイミングを考えることも大事です。お腹が空いている時間なのか、眠い時間なのか、疲れている時間なのか。台本を読む読まないに関わらず、人前で話すときには下原稿を用意すると思いますが、原稿を作っている段階からまずは聞き手を想定し、専門用語や外来語の量やレベルを調整する必要があるでしょう。テレビであっても視聴者の傾向など、ヒアリングできる情報はできるだけ事前に聞いておくことが大切です」
そしてイベントや講演など実際に聞き手が目の前にいる場合は、マイクの前に立って話し始める時点で、もう一度聞き手を分析し直します。
「実際には事前に十分な情報を得られないことが多いでしょうから、会場を見回して、どんな方が来ているのか、どんな状態なのかという様子を把握することが大切です」
伝える人が明確になったら次にゴールを設定する
対象となる聞き手の分析と共に大事なのが、「何をゴールにするか」だと佐藤さん。
「人前で話をする以上、必ず目的を持って行うことが大事です。何かものを買ってもらうのか、組織やクラブに入会してもらうのか、投票してもらうのか。あなたが主催するイベントの場合はもちろん自分の中で目的を明確にするべきですし、もし他に主催者がいるイベントやテレビ番組であれば、その方があなたにお金を払っているのは何かの効果を期待しているためであるはずです。それに応えるには、どんな内容でどんなふうに話すべきかを事前に定めておき、話している最中もそれを忘れないでいることが大事です」。
初心者はついつい「何を話すか」にばかり考えが向いてしまうものですが、「何のために話すのか」ということを明確にできれば、話の充実度も変わってくるはずです。
アリストテレスが考えた弁論術「LEP」
次に心構えとして忘れてはいけないことは、紀元前330年にアリストテレスが考えた弁論術「LEP」だと、佐藤さんは言います。
「相手を説得するためにはL=ロゴス(ロジック・論理性)、E=エトス(信憑性)、P=パトス(パッション・情熱)が必要です。