料理家 山脇りこさん【著者に聞く、話題の料理本出版記】

今月から始まる新連載。人気の料理家に、キャリアの礎(いしづえ)となった料理本が出版されるに至るまでの経緯や裏話をたっぷりとお聞きします。トップバッターは、料理家の山脇りこさん。東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」を主宰し、著書は現在17冊。その他にも翻訳本や海外向け電子書籍、コンビニ向けに再編集された本などもあります。そしてさまざまなメディアやイベント出演が引きも切らず。華やかなイメージの今をときめく人気料理家です。実は山脇さんの料理家デビューは遅く、本格的に教室を始めたのは40歳の終わり、はじめての著書が出たのは45歳の時。では、その第一歩となった処女作はどのように生まれたのでしょうか。

2019年04月9日

「本を出しませんか?!」ツイッターで受けた連絡に困惑

山脇さんの実家は長崎の観光旅館。旬や走りの食材や季節ごとのしつらいに囲まれて育ちました。板前さんの仕事を間近に見て、プロの料理をいつでも食べられる特別な環境でもありました。子どもの頃から板前仕事や厨房で働く人たちを見るのが好きで、かっこいい!料理人になりたい!と憧れていたそうです。しかし、当時は圧倒的に男子の仕事。ないない、と誰からも相手にもされなかったそうです。

大学卒業後、別の仕事に就きましたが、料理はずっとそばにあって、自宅に人を招いたり、イタリアやタイで単発の料理クラスに行ったりしていたそうです。また世界中を食べ歩く旅も。

その中で、食べるのが一番苦手だったのがフレンチで、だからこそちゃんと学びたいと、「アランデュカス」+「tsuji(ADF)」に通います。その後、夫の留学に同行して暮らしたニューヨークでは現地の料理学校にも通い、やはり、人生1回だから、いつか料理を仕事にしたい、挑戦したいと改めて強く思うようになったそうです。

そんなある日、山脇さんのブログに目を止めたあるライターさんから、「あなたの料理、本を出せるかもしれない」とツイッター経由で連絡を受けます。ちょうどニューヨークから帰国し、それまでの仕事を辞めて料理の仕事への挑戦を決意、代官山の「リコズキッチン」開設に向けて動いていた時期でした。

しかし、そんなことを言われても、2010年当時はまだツイッターが日本で広がりはじめたばかり。ツイッターでのやりとりで、そんな話をはじめていいのかどうか? 困惑しながらも対応したそうです。結果、この時のツイッターが、その後山脇さんが「尊敬してやまない」という講談社の女性編集者との出会いを生んでくれたのでした。彼女は入社以来20年近く生活文化分野一筋で、なかでも料理本においては、巨匠と呼ばれるような料理家を担当し続けてきたベテラン。その彼女が山脇さんのブログを読み、食への取り組み方や経歴を知った上で、「山脇さんの料理を食べてみたい」というリクエストを先のライターさん経由で伝えてきたのでした。

「はじめてお目にかかる方をおもてなしする、しかも、料理本の編集者さん、ものすごく緊張しました。でも、食べてもらわないと始まらない、レストランなんて毎日はじめてのお客様をもてなしている、と思って、悩みに悩んでメニューを組み立て、お越しいただきました」

その後、2ヶ月近くして、山脇さんとしては、もう出版の話はなくなったのかと思っていたところ、彼女から『本が出せることになりました』と書かれたメールがやってきたのだそうです。

料理を仕事にすると決めてから、いつかは本を出したいと思っていたそうですが、そのためにどうすればいいのかまったくわからずにいた山脇さん。出版のチャンスは思いがけないところで生まれました。

本のテーマも山脇さんのところでの食事会で編集者が受けた印象から、「おもてなし」に決定。ビジュアルが印象的な前菜や豪華に見えるメイン、つくりおきの素や普段のおかずを使った一品など、山脇さんがいつもやっている、きばらない、シンプルな料理、旬の食材と基本の調味料だけで作る料理と、がんばりすぎないテーブルスタイリングを紹介することになりました。

 

「誰も見たことがない本」づくりを目指して

こうして処女作の出版は動きはじめました。山脇さんと編集者が目指したのは、出版が決まった2010年当時に流行っていた世の中のブログ本とは一線を画すものでした。

「そもそも、私はまったく人気ブロガーではなく、たまたま彼女が見てくれただけなんです」

山脇さんのブログは、逆に当時の、カンタンレシピとは真逆で、ややめんどくさいこと、ひと手間かかることをやろうよ、という内容。子供の頃から身近だった、昆布とかつおで引くだしのことや、梅干しをつけたり、味噌をつくったり。その昔ながらの仕事に、海外で食べたりつくったりした経験がプラスされて、ちょっと洒落た料理になる。そこをおもしろがってくれた編集者は最初から『流行りのブログ本にはしたくない』という考え方だったそうです。

「彼女からは、既視感のない本をつくりたい、と言われたのがすごく印象的でした。いま、すでに流行っているような本ではなく、新しい価値観を提案してほしい、と。そのときはただ、そうだよね、と思っていたのですが、その後、いくつかの本を出してみて、今振り返ると、なかなか大胆で、とても難しいことだと感じます」

一見、ポップな本に見えるのに、じつは市販のだしなどは使わず、食材から旨味を引き出すことにこだわり、そのための食材の組み合わせ方や、食材からの味の引き出し方がいろいろ紹介されている、『もてなしごはんのネタ帖』。

開いてみると、そこかしこに“リコズワールド”が見つかります。ぴしっとアイロンのかかったテーブルクロスではなく、旅先で買ってきたヴィンテージのシワのよった布だったり、英字新聞を敷いてみたり、庭に咲いている花で季節感を添えるといったアイディアは今も目を引きます。

「講談社の料理本では初!?」という、ほぼ無地の表紙。しかも、濃いピンクが目をひくデザインになったのも、「誰も見たことがない本を作りたい」と言う彼女ががんばって社内を通したもの。後に山脇さんは何冊もの著書の制作過程で、大変なことだっただろうな、と想像できるようになったと言います。

そんな編集者との二人三脚の末に2011年8月に発売になった『もてなしごはんのネタ帖』はたちまち評判に。現在まで版を重ねているだけでなく、『Banzai Banquets』というタイトルで英語に翻訳され、英語圏でも販売されています(※日本のアマゾンでも購入可能)。

「2冊目も彼女の元で出させてもらったのですが、この2冊を作る中で彼女から、たくさんのことを教えてもらいました。今も迷った時に、彼女の言葉を思い出すんです。料理の仕事でいろんなことを判断する“ものさし”になっています。最初の本の担当者が彼女じゃなかったら、まったく違う展開になっていたとさえ思っていて、絶対に足を向けては寝られない(笑)」

その2冊目は山脇さんにとっては、子供の頃から身近にあった、だし。

「日本のだしは世界でも有数の簡単さなのに、あまり家庭でひく人がいない、と気づいたんです。うちは変わった環境だったんだな、と。そこで、顆粒だしとかではなく、本当の美味しさを知ってほしいと思って、教室を始めた時から、だしの教室をやっています。それをそのまま本にしましょう、と言ってくださいました」

自分でひいたおいしいだしがあれば、使う調味料の種類や量が減る、料理がシンプルになり手間も減る、しみじみおいしい、山脇さんが2019年の今も変わらず伝え続けていることでもあります。

その後、2013年10月に出した『ノンオイル&10分でできる昆布レシピ95』(JTBパブリッシング)は、グルマン世界料理本大賞でグランプリを獲得。また、山脇さんのだし教室に参加した別の社の編集者からオファーを受けて続けて2冊を出版、その内の1冊はコンビニエンスストアからのオファーで再編集版を作るという経験もしました。

レシピ付きエッセイ、4コマ漫画、動画などに挑戦

初の著書を2011年に出版してからは毎年、新しい本を手がけている山脇さん。2016年に出版した『明日から、料理上手』(小学館)は読みもので、新しい試みと言えるものでした。

 

この本では本文のみならず、写真キャプションや紹介している調味料の商品説明に至るまでのすべてを山脇さん自身が書きました。山脇さんが料理の仕事に就くまでのことや、子供の頃の旅館での体験、調味料の蔵や生産者を回っての経験もつづられています。またたくさんのレシピを作るより、料理のコツがたくさん詰まった基本となる10皿を繰り返し作ったほうが料理上手になる、という考え方もここではっきりと形にしたと言います。

「レシピをいわば量産するような仕事をしながら矛盾しているのですが、私の中にずっと、家庭料理でそんなにたくさんのレパートリーはいらないよ、という思いがあるんです。買い物で目にした美味しそうな旬の食材や、その日、お値打ちの食材で、家族が好きなものがちゃちゃっと作れるのがいいと思うので。それには、10皿くらいの基本的な料理を、どうしてそうするかを理解して作れるようになるのが、早道かな、と思うんです」

「基本の10皿を繰り返し作る」という提案は、2018年には『きょうから、料理上手』(家の光協会)という本になりました。「10皿に100皿の料理に通じるコツがつまっている」とあるように、「おいしい!のコツ」は大きな文字で箇条書きにして見せ、最初の見開きには4コマ漫画も加えました。さらに3つの料理動画もQRコードで読み込むことができるという新しい試みも。

 

「本作りには大きなエネルギーと、愛が欠かせません。なにより、ひとりではできない。編集者さん、カメラマンさん、デザイナーさん、みんなのパワーがかけ算になってこそ、楽しい。何冊つくっても、慣れることもないし、上手にもならないし、悩むことも多いです。でもだからこそ、ワクワクするなーと。去年からご縁あって、台湾での仕事が増えたのですが、これも本が台湾で翻訳出版されたのがきっかけです。この5、6年の紙の本をめぐる変化は凄まじいので、なかなか単純じゃないとおもいますが、本が生まれることで広がる面白いことってやっぱりたくさんあると感じています。ますます面白いことが始まるように、いまこそ、既視感のない本をつくりたいなーなんて思っています」

 

 

 

撮影/山下みどり

プロフィール
山脇りこさん

料理家。東京・代官山で料理教室「リコズキッチン」主宰。長崎市の日本旅館に生まれ、季節を感じる食材や料理に囲まれて育つ。2008年から1年間N.Y.で暮らしたことをきっかけに、料理の仕事にシフトし、料理教室をスタート。2010年にリコズキッチンをオープン。2011年8月に1冊目の著書となる『もてなしごはんのネタ帖』(講談社)を上梓、以来、ほぼ毎年著書を出版。最新刊は『きょうから、料理上手』(家の光協会)。2019年春も新刊の準備中。

 

はじめての著書
『もてなしごはんのネタ帖』
2011年8月23日発売
講談社、1296円(税込)
B5判、平綴じ、80ページ
調理・撮影・スタイリング/山脇りこ


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