2020年7月に東京・日本橋兜町にグランドオープンした「パティスリー イーズ(ease)」。オープンキッチンの店内にあるショーケースには、まるでジュエリーショップのように美しいケーキが並んでいます。西洋のスパイスや和食材の山葵、ペルー産のアマゾンカカオに和三盆など、国内外の食材を縦横無尽に使いこなす独創的なシェフ、大山恵介さんのお菓子は、開店当初から評価が高く、2020年に東京にオープンしたパティスリーの中で最注目のお店の一つといわれています。
パティスリーとレストランの両方で腕を磨いてきた大山さんに、人気店を作る考え方やシグネチャーディッシュ(看板メニュー)の生み方などを聞きました。
日本橋兜町での出店、わざわざ来てもらう店にする
日本橋兜町といえば、東京証券取引所を中心に銀行や証券会社が集まる金融街でした。しかし、近年再開発エリアになると、2020年2月には、1923年に建てられた元第一銀行の建物をリノベーションして誕生したブティックホテル「K5」がオープン。さらに大山さんの「イーズ」のほか、渋谷の人気ビストロ「ロジウラ」の元シェフ、西恭平さんの新店「Neki(ネキ)」といった感度の高い飲食店が続けてオープンし、新しい食の発信地として注目を集めています。
「日本橋兜町は、僕より若い人たちが何かをやろうという空気で満ちていて、街に勢いがある。お話をいただいて、ここでやってみたいと思ったんです」と大山さんは、開店当時を振り返ります。
ビジネス街の兜町には、地元の住民はほとんどおらず、来店動機を作らないと集客が見込めません。そこで大山さんは、カルチャーの発信地である日本橋から徒歩10分の立地を活かし、情報感度の高い人たちにわざわざ来てもらえる、“ささる”店づくりを考えます。
現在、イーズのシグネチャーディッシュになった四角い形の「アマゾンカカオのティラミス」は、薄いホワイトチョコで包まれたケーキを割ってみると、中はやわらわかくトロトロ。持ち帰って食べることを前提に作る生菓子は、できるだけ形を保ち続ける工夫をするのですが、大山さんはその常識を捨て、柔らかく繊細な仕立てにすることで、多くの人が考える「ティラミス」との明確な差を打ち出します。
ショートケーキには、試験管のような容器に入れたソースを別添えすることで、持ち帰ったお客様が好きなようにソースをかけられるようにしています。食べる楽しみを演出する商品を数々と提案する大山さん。 レストランのパティシエとしても仕事を続けてきた大山さんの、引き出しの多さに驚かされます。
さらに、オープンキッチンやイートインのカウンター席など、これまでパティスリーではあまりやってこなかったことを大山さんは積極的に取り入れていきます。
アマゾンカカオのティラミス(760円、税別)。周りはパリパリのホワイトチョコ、中は、酸味と香りが強いペルー産のアマゾンカカオを使ったトロトロのクリームが閉じ込められている。
ショートケーキ(660円、税別)。徳島県産、阿波和三盆を使った生クリームと、あまおうのイチゴショートケーキ。酸味をきかせたイチゴソースが別添えされている。
アマゾンカカオのシュークリーム(463円、税別)。イーズをオープンする前に、百貨店のバレンタインの催事のために作ったシュークリームが人気になり、グランドオープンする際には、すでに大山さんのシグネチャーディッシュになっていた。
「ケーキ屋さんに必ずあるものはショーケースで、だいたい同じようなものが並んでいる。それは絶対にやめましょうと、デザイナーさんと話しました。最初は、階段式で引き出しをつけて、などと考えていたのですが、設備的な問題もあってこの形になりました」と大山さん。