特集記事

フォトグラファー 馬場わかなさん

インタビュー
2019年12月17日

スタイリストやフードコーディネーター、カメラマンなど、料理家を支えるクリエイターのインタビューをお届けする連載。聞いてみたのは、支える側から見た料理の世界のこと。売れている料理家とは、人を惹きつける料理とは?そんなヒントを垣間見ることができます。

料理に個性があるのと同じように、写真にも個性があり、人が表れます。「その人がその人らしい瞬間、その料理がいちばん美味しそうな瑞々しい瞬間を捉えたい」というフォトグラファーの馬場わかなさん。彼女の写真は、飾らない魅力を対象からぐっと引き出してくれるので、1枚でいろんな想像を呼び起こす力がある。多くの料理家や編集者も、そんな馬場さんの写真に信頼を寄せています。


馬場さんは、インタビュー中も撮影中もいつもリラックス。構えないラフな人柄が、撮影の場の雰囲気も明るくしてくれる。人で成り立つ現場では、とても大切なこと。

 

想像を掻き立てる、余韻のある写真

思わず箸を手に取りたくなる、汁気たっぷりの具だくさんちゃんぽん。フォークを入れたら、ハーブソースの香りがぐんと立ち昇ってきそうなパスタ。フォトグラファーの馬場わかなさんは、普通の人の日常の料理にも、研ぎ澄まされた感覚で作るプロの料理にも、それぞれに個性があって魅力を感じると言います。目の前の料理が最も魅力的な瞬間を切り取るその写真は、おいしそうな様子とともに、撮られたものの本質的な魅力がどこにあるのかを示してくれます。

撮る対象は料理だけではなく、作る人の自然な表情や佇まいだったり、あるいは、その食卓や台所の空間を満たす空気だったり。馬場さんの写真には、その魅力を切り取った瞬間の前後にある余韻のようなものが感じられます。それは、見た人がいろんなことを想像する余白のようなものでもあり、2次元の世界のはずなのに、音や匂いや温度までを自然と想像させてくれます。写真と文章で成り立っている料理雑誌や書籍などの世界では、そんなストーリーを感じさせる写真の力が、対象の世界観をも表現してくれる。だから、馬場さんに撮って欲しいという料理家や編集者、デザイナーからの依頼は絶えません。

料理専門じゃない強み

馬場さんが写真に興味を持ったのは高校生の頃。その後大学の写真学科で本格的に学びながら、雑誌編集部でカメラアシスタントのアルバイトをするという写真漬けの学生生活を過ごします。卒業後、一旦は広告写真のプロダクションに就職して広告系の写真家のもとにつきますが、悩んだ末に辞めて、夜間の学校でイラストを勉強したり、何をしたいのかちょっと彷徨った時期もあったそう。そんな時期を過ごした後、ある日思い立ってカメラマンの名刺を作ります。まだ仕事のキャリアは全くない状態でしたが、自分の中で色々考えた末、写真を仕事にしよう、いや、仕事にしたいとようやく決意できた。そこからは、たまたま出会った編集者や出版社に売り込みをする日々。最初は小さなお店の紹介カットから物撮り、インテリア取材、タレント取材、アンケート集めも兼ねて街頭スナップの仕事と、とにかく依頼されたものは何でも受け、ジャンルなんて関係なし。駆け出しの頃は、がむしゃらに撮る毎日でした。

転機が来たのはカメラマンの仕事をして5、6年経ったある日。お菓子研究家の福田里香さんとの出会いでした。雑誌で、福田さんのお気に入りのアイテムなどを撮影したのが縁で、お菓子撮影の仕事依頼が急に増えます。どうやら福田さんが、いろいろな編集部の知り合いに馬場さんを紹介してくれたよう。しかし、馬場さんにはまだ躊躇がありました。当時は、料理の写真といえば専門のカメラマンが撮るのが普通だったので、料理写真家の弟子でもない、門外漢の自分が撮ってもいいのだろうか、と。しかしその後も料理撮影の依頼は増える一方。もうこれは躊躇している場合ではない、有り難くチャンスを生かそうと心を決め、ますます増える料理撮影の依頼に正面から向かうようになりました。当時はちょうど暮らし雑誌の創刊ラッシュもあり、むしろ料理専門ではなかった馬場さんの写真が、時代の空気と合っていたのかもしれません。

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撮影/土田凌 取材・文/馬田草織

馬場わかなさん

フォトグラファー。1974年3月東京生まれ。好きな被写体は人物と料理。著書「人と料理」(アノニマスタジオ)など。