大阪で2010年からケータリング専門のブランド「foodscape!」を立ち上げて瀬戸内国際芸術祭で出店して話題になると、調理の音や野菜をかじった音などのサンプリングを映像や音楽に合わせて作品として作り上げるイベント「EATBEAT!」を主催し、全国を回ってきた堀田裕介さん。食にアートや音楽を掛け合わせることによって生まれる新しい活動を通して、食材や生産者を新鮮に切り出し、これまでとは異なる層に食への関心を呼び起こしています。
料理家でも、料理人でもない幅広い活動から、自らを「料理開拓人」と名乗る堀田さんに、コロナ禍で直面する「食の危機」に起こすべきイノベーションについて聞きました。
仲間とのパーティが地方創生に一役買うことに
2020年5月15日から3日間、愛知県蒲郡市で開催される予定だった「モノとごはんと音楽の市場」のフェス「森、道、市場 2020」は、新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から開催中止になりました。しかし、イベントの実行委員会は、すぐさま「”特別配信”森、道、市場をお茶の間で」と題するオンラインイベントに切り替えることを発表。出演予定だった堀田さんのユニットEATBEAT!も5月16日に、「EATBEAT!#stayhome」の動画を配信して参加します。
EATBEAT!は、堀田さんと音楽家のヘンリーワークさん(チョークボーイ名義でイラストレーターとしてとしても活躍)のユニットが中心になった食と音楽のイベントです。堀田さんは、アンダーワールドやケミカルブラザーズといったダンスサウンド好き。20代の頃からクラブで遊びながら「食と音楽をあわせたイベントができないか」という構想をしていたといいます。
「foodscape!を立ち上げたころにヘンリーワークに出会って、一気にイメージが形になりました。2015年には、瀬戸内国際芸術祭がご縁で1年間にわたって高松市の各地でEATBEAT!を開催し、アートの街高松をPRする役目を務めさせていただきました。友人たちと始めたパーティが地方創生に役立つんだということに衝撃を受けましたね(笑)。それとともに、僕たちだったら、一流シェフたちの豪華なディナーショーに来る人たちとは違う、たとえば夜中にクラブに入り浸っている若者にも食の楽しさを届けられるかもしれない。それは僕たちだけにしかできないことかもしれない、と考えるようになりました」
2度目の参加になった2015年の瀬戸内国際芸術祭。「アートイベントにあまり興味がなかった地元の高齢者の方々にも楽しんでいただけて、改めて食の力を思い知ったイベントでした」と堀田さんは振り返ります。
食のメーカーを目指して設立したGrow Rice Project
2015年にはさらに大阪でパンとコーヒーの店「foodscape!」(大阪・福島)をオープン。翌年には北欧発のパン料理スモーブロー専門店「Smørrebrød KITCHEN」(大阪・中之島)を開きます。そして2018年には、滋賀県湖北の米農家・みたて農園の立見茂さんとともに、日本の産地の応援を目的にした「一般社団法人Grow Rice Project」を設立します。
「Grow Rice Projectによって、僕たちは食のメーカーになる準備が整いました。産地をもって製造もする。さらには、foodscape!で販売をすることもできますし、EATBEAT ! での告知やイベントもできます。同世代の仲間と40歳を過ぎて集まれるのは本当にうれしいことです」
今年(2020年)の秋には、Grow Rice Projectで栽培した滋賀県の伝統的な酒米「滋賀旭」で、450年以上の歴史を持つ滋賀県長浜市の酒蔵「冨田酒造」と日本酒を作り、1500本限定で発売するといいます。
Grow Rice Projectを立ち上げた滋賀県湖北の米農家・みたて農園の立見茂さん(右)と堀田さん。2020年に発売される酒の原料になる酒米「滋賀旭」は、堀田さんと見立さんが田植えしたものです。