オーストラリアンスタイルに東京の旬を詰め込んで
そのレストランがある場所は東京・調布、深大寺のすぐそば。国宝の仏像を有する古い神社は古くから蕎麦の名所として知られ、字は異なるもののこれまたバラの名所として知られる「神大植物園」も目と鼻の先にあります。周りは静かな住宅地で、ところどころにまだ野畑も存在するのどかな東京の郊外は、逆に言えば駅からも遠くちょっと不便なデスティネーション。にもかかわらず、2018年初夏のオープン以来、自然派のガストロノミー愛好者たちから熱烈な支持を集めるレストラン「マルタ」は、まさに新しい試みがたっぷりと詰まった“マストGO”な店です。
このレストランの魅力を挙げるなら、まずは店の中央に位置する大きな薪火のオーブンがその象徴的な存在です。店名の由来ともなった丸太が季節を問わず常にくべられて赤々と炎をあげており、炎の上で、肉、魚、野菜、フルーツ……と、さまざまな食材が瞬く間においしそうな香りを放ちながら料理へと変身していく様を、ゲストは食事しながら目の前に眺めることができます。薪火の前の特等席のような調理場を常に陣取っているのは、店を率いるシェフの石松一樹さん(写真下、左から3人目)。オーブンがあるエリアの反対側には広々としたオープンキッチンの厨房があるものの、シェフの定位置はほぼ変わることなく薪火の前だといいます。
「初めての夏が記録的な猛暑で、店内の空調をどれほどクールに保っていても、薪火の前だけは常に汗が噴き出る暑さでした。けれど、この焼き場はこの店のいちばんのセールスポイントですから、へたばっている場合ではありません。摘み立てのハーブで即座に燻製する根菜や、脂をぽとぽとと落としながら徐々に焼き上がっていく鴨など、うちでしか味わっていただくことの出来ないダイナミックな料理と時間が、マルタの身上なんです」