インスタから出版が実現。@utosh さんが書籍化プロセスを公開 【料理家のためのデジタル塾】

料理家をはじめ、フリーで働くクリエイターであれば、その多くは、いつか作品を本にまとめたい、あるいは専門分野にまつわる本を書くことができたら……と考えているのではないでしょうか。日々、生徒や周りの人々に直接伝えている思いをもっと多くの方に知ってもらえたら、と思うのは当然のこと。その一方、コネも経験もないし……と二の足を踏んでいる人もいるはず。そんななか、インスタグラムでの情報発信をきっかけに2冊の料理本を出版した植木俊裕さんに、そのきっかけや経緯を伺いました。

2018年09月10日

「#とりあえず野菜食」タグの投稿でアカウントのフォロワーが6万人に

 

料理本を出したいと思う人は世界各国に数多くいますが、いざ実現しようと思うと、何から手をつければいいのでしょうか。企画書を書いて出版社に売り込みに行く? なら、そのための企画書はどうやって書けばいい? などと悩みは尽きないもの。けれど、そんなアクションを起こす前に「こんなものが書ける」「こんなコンセプトを持っている」そして「これだけ買ってくれそうな人がいる」ということがメディア側に伝わる材料があれば、企画書を書く必要は実はない、というのが今の時代。その力となってくれるのが、SNSです。植木さんもそう。インスタグラムで発信していた投稿内容がある日編集者の目に留まり、最初の本の出版が決まりました。

「そもそも以前はほとんど外食でしたが、東北大震災の後、自分が口にするものへの不安が高まり、100%自炊する暮らしへと切り替えたんです。ちょうどその頃、ウェブデザインの仕事をしていたことから、ブログサービスも使ってみておこうと思い、なんとなく毎日の料理をブログに記録していました。ところが使っていたブログサービスがなくなってしまったため、発信の場をインスタグラムに移したのが4年ほど前です」。

当時は、まだまだ日本においてはインスタグラム黎明期だったこともあり、どんどんフォローする人が増えてきて、気がつけば1万人ほどのフォロワーに注目される存在に。当時の雰囲気では、すでに十分なフォロワー数でした。その頃、「肉」系フードのハッシュタグはけっこう目にするのに野菜のタグがないなと感じたことから、「#とりあえず野菜食」というワードを編み出したのそうです。これは、今では植木さんの世界観を代表するハッシュタグ。フォロワーは以降も増え続け、1、2年後、フォロワーが6万人ほどになった頃、ついに出版社から声がかかりました。それが、初の著書「とりあえず野菜食BOOK」が誕生したきっかけでした。

レシピ開発からスタイリング、撮影、執筆も全て自分で

「とりあえず野菜食BOOK」の出版の話は具体的にどのように進んでいったのでしょうか?

「企画の依頼をいただいた時には、編集部側ですでに僕のインスタを元に原案を練ってくれていました。『とりあえず野菜食』というテーマが決まっていて、メイン10レシピにサブ何レシピ、というようなボリュームなどの構成も考えてくれていたので、基本的にはこれに沿ってレシピを考えたんです」。

まさに自らが考えたハッシュタグと日々の料理写真、そして6万人というフォロワー数が、すでに植木さんに代わって企画を売り込みするのと同じような営業効果を発揮していたのです。

「いただいた構成に対して、案を出していくような形で企画が進んだので、新たに企画書を書いたりはしていませんね」

掲載する写真はインスタグラムにアップしたものでもいいと担当編集者に言われながらも、すべて撮り直したという植木さん。

「無理のない範囲で新作を入れてくれてもいい、というニュアンスだったのですが、僕は全部新撮(新規撮影)にしたいと思いました。というのも、そもそも本を出したいと思ってインスタを続けていたわけではなく、毎日の普通のごはんをアップしていただけで、時には誰かのレシピのアレンジだったりすることもあるし。でも本にするなら、みんなが作りたくなるようなビジュアルや食材、レシピなどをきちんと考えて出したいと思ったんです」。

資格取得で、インスタや出版物に信頼性と自信をプラス

掲載したのは合計90にも及ぶレシピ。

「試作も含めるともちろん、もっとたくさんありました。一見普通っぽいけれどかなりふんだんに野菜を使っていたり、野菜が味覚や食感のアクセントになっていたり、野菜の彩りが鍵になっていたりと、野菜の力が上手く伝わるレシピを意識しましたね」

また植木さんは本の出版が決まってから、フードスタイリストの資格も取得したそうです。「その頃から少しずつ雑誌やウェブでスタイリングの仕事の依頼も受けたりしていましたが、料理家でもなんでもない僕が料理の本を出すというのは、それ相応の責任が発生します。少しでも正しい情報として発信できるものを学んでおきたいと思ったんです」

最初の本はそれこそ、器やクロス類、カトラリーも自前。スタイリングから調理、撮影、執筆まで、全てを自分で行ったというから驚きです。

「ちょうどテーブルウェアのセレクトショップサイトを立ち上げる矢先だったので、器類については手持ちのもので困ることはありませんでした。撮影は一応一眼レフカメラを使っていますが、まだまだ下手。グラフィックデザイナーをしていたので撮影の現場の様子は見ていましたが、学んだわけでもなく、見よう見まねで撮っています。この本を出した頃より今は少し上手くなったと思います(笑)」

話を持ちかけられてから出版するまで、約9ヶ月の時間がかかったそう。

「当初は半年くらいの予定だったのですが、実はちょうど先ほどのセレクトショップサイトの立ち上げとタイミングが重なってしまい、手が回らなかったんです。レシピを書くのに難航しましたね」

見た目が重視されるSNS時代のための、毎日の料理の盛り付け本

2冊目の本は「盛り付けエブリデイ」。タイトルのとおり、料理の盛り付けハウツーを紹介する新しいコンセプトの本です。これも出版社からの持ち込み企画で、1冊目とは別の出版社からの新たな話だったとのこと。

「1冊目の『#とりあえず野菜食』は、僕自身が考えた切り口と言葉をベースにした、まさに僕にしか作れない本でしたが、2冊目はラッキーだったと言ってもいいと思います。出版社の方がちょうど盛り付け本を出したいと考えていたけれど、インスタやブログで盛り付けを売りにしている方たちは“キャラ弁系”か“サロネーゼ系”に二分されていて、僕の盛り付けに新しさを感じてくれたそうです。この本はアイデア出しからレシピ決定まで、担当編集者の方と僕との二人三脚で進めたイメージですね」

レシピメインではない料理本の出版に何を載せるか

2冊目で大切にしたのは「どうすればノウハウが伝わるか」ということ。そして、レシピ本ではない料理本として、どんなレシピを選ぶか、ということだったといいます。

「かつては来客時のおもてなし料理を出す時などに初めて、盛り付けの美醜を意識していたのではないかと思いますが、今は良くも悪くも見た目で評価される時代。同じ料理でもちょっとした見た目の良し悪しで、印象がまるで違ってくるんです。そんな“気づき”が日々の助けになればと思って工夫しました」

ちなみにこの本のレシピ数は20〜30くらい、奇をてらうことのないシンプルなレシピを心がけ、企画から発刊まで4〜5ヶ月でこぎつけたそうです。

本を出すことで、かかるお金と入るお金は?

ちなみに、気になるお金の話についても植木さんは丁寧に教えてくれました。

「経費としての材料費は事前にこのくらいで、と編集者がグロスで予算をくださったので、その中で自由にやりくりしました。一方、収入については、1冊目は原稿料として取り決めた金額を、2冊目は印税の扱いで計算してもらいました。印税のケースも、刷り部数が決まっていますから、本体価格×刷り部数×印税何%、という感じで金額が算出されます。特にこちらから価格を交渉したりはしませんでしたね」とのこと。

さらにもう一つ。出版を通して、その後の植木さんの活動に変化はあったのでしょうか?

「本を出したことで多少、フォロワーが増えたりスタイリングなどの仕事の依頼が増えたりということはあるかもしれませんが、もともと料理教室をやっているわけでもありませんし、大きな変化はありませんね。自分自身にとっては、特に1冊目の本はとても労力をかけたこともあり、スキルアップにつながった面は大きいと思います。また特別な時にはいわゆる“ 名刺代わり”としてお渡しするなど、自分を伝えることには役立っていると思います」

大事なのは、「圧倒的な特徴」と「ネーミングセンス」!

植木さんデザインの器。「Chips」で販売中のオリジナル食器。

「インスタグラムを続けていたら出版社から声がかかった」。こういうと、簡単にもラッキーにも聞こえますが、もちろんインスタグラムさえやっていれば誰もがどこからともなく出版の話を持ちかけられるわけではありません。大事なのは「特徴」だと植木さんは言います。

「料理が上手い人はいくらでもいますから、それだけでは本は出せないと思います。上手い下手以外の、別の角度でオリジナリティを出すことが大事でしょう。そこで求められるのは“企画力”です」。

ここで植木さんはドラえもんの例を挙げました。

「ドラえもんの主人公は出木杉君ではなくのび太なんです。ドラえもんだけでなく、孫悟空だってアンパンマンだってそう。主役というのは欠点も含めてデザインされているんです。自分自身の料理がどんなふうに偏っているか、その偏りにどんな魅力があるかを考えてみるといいと思います」。

またそれを表現するために大事なのが「ネーミングセンス」とも。

「今までなかった概念を作るためには言葉を生み出す力も必要です。行為自体はふつうのことでも、新しい言葉が生まれることで定義化されるという力があります。カーリング女子の“もぐもぐタイム”も、今やテレビなどでごく日常的に使う言葉になりました。自分の個性を言葉にできたら、ブログのタイトルにしたり、肩書きやプロフィールに入れてみてはどうでしょうか」

2冊の著書の出版を経て、今後もいくつかの出版話も出ているという植木さん。「まだ黎明期だった頃にインスタを始めていたのがラッキーだった」と謙遜する植木さんですが、「ブランディング」や「ネーミング」を意識したスキル磨きをする発想は、出版に限らず仕事を進める上できっと役に立ってくれるはず。行き詰まっている人はぜひ一度、こんな考え方を取り入れてみてください。

撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

話を聞いた人:フードスタイリスト 植木俊裕さん

Toshihiro Ueki●グラフィックデザイナー時代からインスタグラム(@utosh)で料理写真を投稿。人気のハッシュタグ「#とりあえず野菜食」」を発案し、多くのユーザーからの投稿を集める。著書に「とりあえず野菜食BOOK」「盛りつけエブリデイ」がある。フードマガジン『ELLE グルメ』の公認インスタグラマー組織「エル・グルメ フーディーズクラブ」メンバーとしても活躍中。長野県出身。http://www.chipsjapan.com/

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