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インスタから出版へ 書籍化プロセス

スキルアップ
2018年09月10日

料理家をはじめ、フリーで働くクリエイターであれば、その多くは、いつか作品を本にまとめたい、あるいは専門分野にまつわる本を書くことができたら……と考えているのではないでしょうか。日々、生徒や周りの人々に直接伝えている思いをもっと多くの方に知ってもらえたら、と思うのは当然のこと。その一方、コネも経験もないし……と二の足を踏んでいる人もいるはず。そんななか、インスタグラムでの情報発信をきっかけに2冊の料理本を出版した植木俊裕さんに、そのきっかけや経緯を伺いました。

「いただいた構成に対して、案を出していくような形で企画が進んだので、新たに企画書を書いたりはしていませんね」
掲載する写真はインスタグラムにアップしたものでもいいと担当編集者に言われながらも、すべて撮り直したという植木さん。
「無理のない範囲で新作を入れてくれてもいい、というニュアンスだったのですが、僕は全部新撮(新規撮影)にしたいと思いました。というのも、そもそも本を出したいと思ってインスタを続けていたわけではなく、毎日の普通のごはんをアップしていただけで、時には誰かのレシピのアレンジだったりすることもあるし。でも本にするなら、みんなが作りたくなるようなビジュアルや食材、レシピなどをきちんと考えて出したいと思ったんです」。

資格取得で、インスタや出版物に信頼性と自信をプラス

掲載したのは合計90にも及ぶレシピ。
「試作も含めるともちろん、もっとたくさんありました。一見普通っぽいけれどかなりふんだんに野菜を使っていたり、野菜が味覚や食感のアクセントになっていたり、野菜の彩りが鍵になっていたりと、野菜の力が上手く伝わるレシピを意識しましたね」
また植木さんは本の出版が決まってから、フードスタイリストの資格も取得したそうです。「その頃から少しずつ雑誌やウェブでスタイリングの仕事の依頼も受けたりしていましたが、料理家でもなんでもない僕が料理の本を出すというのは、それ相応の責任が発生します。少しでも正しい情報として発信できるものを学んでおきたいと思ったんです」
最初の本はそれこそ、器やクロス類、カトラリーも自前。スタイリングから調理、撮影、執筆まで、全てを自分で行ったというから驚きです。
「ちょうどテーブルウェアのセレクトショップサイトを立ち上げる矢先だったので、器類については手持ちのもので困ることはありませんでした。撮影は一応一眼レフカメラを使っていますが、まだまだ下手。グラフィックデザイナーをしていたので撮影の現場の様子は見ていましたが、学んだわけでもなく、見よう見まねで撮っています。この本を出した頃より今は少し上手くなったと思います(笑)」
話を持ちかけられてから出版するまで、約9ヶ月の時間がかかったそう。
「当初は半年くらいの予定だったのですが、実はちょうど先ほどのセレクトショップサイトの立ち上げとタイミングが重なってしまい、手が回らなかったんです。レシピを書くのに難航しましたね」

見た目が重視されるSNS時代のための、毎日の料理の盛り付け本


2冊目の本は「盛り付けエブリデイ」。タイトルのとおり、料理の盛り付けハウツーを紹介する新しいコンセプトの本です。これも出版社からの持ち込み企画で、1冊目とは別の出版社からの新たな話だったとのこと。
「1冊目の『#とりあえず野菜食』は、僕自身が考えた切り口と言葉をベースにした、まさに僕にしか作れない本でしたが、2冊目はラッキーだったと言ってもいいと思います。出版社の方がちょうど盛り付け本を出したいと考えていたけれど、インスタやブログで盛り付けを売りにしている方たちは“キャラ弁系”か“サロネーゼ系”に二分されていて、僕の盛り付けに新しさを感じてくれたそうです。この本はアイデア出しからレシピ決定まで、担当編集者の方と僕との二人三脚で進めたイメージですね」

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撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

話を聞いた人:フードスタイリスト 植木俊裕さん
Toshihiro Ueki●グラフィックデザイナー時代からインスタグラム(@utosh)で料理写真を投稿。人気のハッシュタグ「#とりあえず野菜食」」を発案し、多くのユーザーからの投稿を集める。著書に「とりあえず野菜食BOOK」「盛りつけエブリデイ」がある。フードマガジン『ELLE グルメ』の公認インスタグラマー組織「エル・グルメ フーディーズクラブ」メンバーとしても活躍中。長野県出身。http://www.chipsjapan.com/