レシピメインではない料理本の出版に何を載せるか
2冊目で大切にしたのは「どうすればノウハウが伝わるか」ということ。そして、レシピ本ではない料理本として、どんなレシピを選ぶか、ということだったといいます。
「かつては来客時のおもてなし料理を出す時などに初めて、盛り付けの美醜を意識していたのではないかと思いますが、今は良くも悪くも見た目で評価される時代。同じ料理でもちょっとした見た目の良し悪しで、印象がまるで違ってくるんです。そんな“気づき”が日々の助けになればと思って工夫しました」
ちなみにこの本のレシピ数は20〜30くらい、奇をてらうことのないシンプルなレシピを心がけ、企画から発刊まで4〜5ヶ月でこぎつけたそうです。
本を出すことで、かかるお金と入るお金は?
ちなみに、気になるお金の話についても植木さんは丁寧に教えてくれました。
「経費としての材料費は事前にこのくらいで、と編集者がグロスで予算をくださったので、その中で自由にやりくりしました。一方、収入については、1冊目は原稿料として取り決めた金額を、2冊目は印税の扱いで計算してもらいました。印税のケースも、刷り部数が決まっていますから、本体価格×刷り部数×印税何%、という感じで金額が算出されます。特にこちらから価格を交渉したりはしませんでしたね」とのこと。
さらにもう一つ。出版を通して、その後の植木さんの活動に変化はあったのでしょうか?
「本を出したことで多少、フォロワーが増えたりスタイリングなどの仕事の依頼が増えたりということはあるかもしれませんが、もともと料理教室をやっているわけでもありませんし、大きな変化はありませんね。自分自身にとっては、特に1冊目の本はとても労力をかけたこともあり、スキルアップにつながった面は大きいと思います。また特別な時にはいわゆる“ 名刺代わり”としてお渡しするなど、自分を伝えることには役立っていると思います」
大事なのは、「圧倒的な特徴」と「ネーミングセンス」!
植木さんデザインの器。「Chips」で販売中のオリジナル食器。
「インスタグラムを続けていたら出版社から声がかかった」。こういうと、簡単にもラッキーにも聞こえますが、もちろんインスタグラムさえやっていれば誰もがどこからともなく出版の話を持ちかけられるわけではありません。大事なのは「特徴」だと植木さんは言います。
「料理が上手い人はいくらでもいますから、それだけでは本は出せないと思います。上手い下手以外の、別の角度でオリジナリティを出すことが大事でしょう。そこで求められるのは“企画力”です」。
ここで植木さんはドラえもんの例を挙げました。
「ドラえもんの主人公は出木杉君ではなくのび太なんです。ドラえもんだけでなく、孫悟空だってアンパンマンだってそう。主役というのは欠点も含めてデザインされているんです。自分自身の料理がどんなふうに偏っているか、その偏りにどんな魅力があるかを考えてみるといいと思います」。
またそれを表現するために大事なのが「ネーミングセンス」とも。
「今までなかった概念を作るためには言葉を生み出す力も必要です。行為自体はふつうのことでも、新しい言葉が生まれることで定義化されるという力があります。カーリング女子の“もぐもぐタイム”も、今やテレビなどでごく日常的に使う言葉になりました。自分の個性を言葉にできたら、ブログのタイトルにしたり、肩書きやプロフィールに入れてみてはどうでしょうか」
2冊の著書の出版を経て、今後もいくつかの出版話も出ているという植木さん。「まだ黎明期だった頃にインスタを始めていたのがラッキーだった」と謙遜する植木さんですが、「ブランディング」や「ネーミング」を意識したスキル磨きをする発想は、出版に限らず仕事を進める上できっと役に立ってくれるはず。行き詰まっている人はぜひ一度、こんな考え方を取り入れてみてください。