フードスタイリスト マロンさん【私の駆け出し時代】

フードスタイリスト マロン

日本初のフードスタイリストとして、食がもたらす楽しさや美しさを演出し、料理の魅力を多角的に伝えてきたマロンさん。前例がないことをやり、時代の変化に合わせて表現方法を変えながら、第一線で活躍されてきました。マロンさんのフードスタイリストとしての35年の歩みから、その類まれなるセンスやテクニックを物にするヒントを探っていきましょう。

2018年04月1日

料理のプロセスを楽しめる自分がいた

フードスタイリスト マロンさん ~私の駆け出し時代~

おいしいものを作るのが好き。美しいものが好き。人を楽しませるのが好き。独自の美学で食卓を彩るフードスタイリストのマロンさんにとって、料理はまさに天職。そんなマロンさんは、料理との関係をどのように育んでいったのでしょうか?

「子どもの頃に見ていたNHKの料理番組『きょうの料理』が原点です。ちょうど高度成長期に差し掛かったころで、テレビや雑誌などのメディアを使って料理が表現されていた時代。料理って面白いなぁ楽しいなぁって思いながら、テレビの画面の中で自分が料理をしている姿を想像していました。実際に料理を作るようになって、まだスイーツっていう言葉がなかった時代にお菓子も焼いて。本を見ながら工程通りに、真面目に真剣にね。そのときに感じたのは料理っていうのはプロセスの楽しさだってこと。それが面倒だと感じたら、料理の世界には関わらなかったと思います」

マロンさんは長崎生まれ佐賀育ちの九州男児。それを差し引いても、時代的に男の子が料理に興味を持ち、キッチンに立つのは珍しかったといいます。そんなマロンさんを後押ししたのは、一人っ子のマロンさんを深く愛した家族の存在でした。

「すごい料理を作っていたわけじゃないけれど、僕が作ったものを両親や祖母が食べていつも喜んでくれました。当時は男子厨房に入らずの時代。料理をするのを止められてもおかしくなかったのに、好きなようにやらせてくれて、『おいしい、おいしい』っていってくれて。それがパワーになり、おいしさは人を喜ばせることができるとわかったんです。それがあるから今の僕がある。だから両親や祖母には本当に感謝しています」

日本初のフードスタイリストに

料理の専門学校を卒業後、料理研究家、インテリアスタイリストのアシスタントを経て、日本人フードスタイリスト第一号として1983年に独立。アシスタントとして撮影に参加しているうちに、他の料理家やシェフたちのように自分を表現したい、自身をプロデュースしたいと思うようになったとマロンさんは振り返ります。

「料理は、おいしくて楽しくて美しくなければいけない。その上に美意識があって、そういう食空間作りを目指していました。食のアーティストとして、お皿や小物を使ってテーブルを演出して、料理を“魅せるもの”にして、人の心をくすぐる。調理するだけじゃなくて、それを取り巻く環境も含めて『料理』なんです。料理を作って、スタイリングもして、レシピが書ける人は他にいなかったから、すごく重宝がられて、めちゃくちゃ忙しかったですね。当時は雑貨ブームで、雑誌の連載ではレシピだけじゃなくて、僕が好きなおすすめの食器や道具なども紹介していました」

『センスは盗め、センスは磨け』

こうして瞬く間に人気フードスタイリストとしての地位を確立し、数え切れないほどのテレビや雑誌の仕事をこなしてきたマロンさん。次から次にやってくる仕事へのレシピやスタイリングのアイデアが枯渇することはなかったといいます。

「日本や海外の雑誌や本をとにかく大量に読み漁っていたから、情報量が違いました。今みたいにパソコンで検索すれば情報が何でも出てくる時代ではありません。引き出しを増やすどころか、すぐに満杯になっちゃう。そのとき参考にした本や雑誌は、今でも捨てられずに残っています。紙の資料のほかにも、道具や食器、小物といったスタイリングに関わるものも事務所に山積みでしたね。また、人と会ったり食事をしたり、映画を見たりする時間も大切にしていました。遊びも仕事で、仕事と同じようにいつも本気で取り組んできた。それは、今でも変わりません。人と会ってコミュニケーションをとることで、仕事も広がりました」

なかでもマロンさんが最も学んだのは海外の洋書。かつて銀座にあった洋書専門店のイエナ洋書店に足繁く通い、それでも入手できない本や雑誌は海外にオーダーしていたそうです。気に入った雑誌は今も定期購読をしているほど。

「僕は洋書から“ビジュアル”を学びました。よく『センスは盗め、センスは磨け』っていっているんですが、一番いいのは模写すること。そこから始めればいいと思う。『インスタ映え』っていう言葉がありますが、映えるビジュアルを僕たちは90年代~2000年代に実際に雑誌の誌面で作ってきました。お金をかけて作る広告じゃなくて普通の記事としてね。それを見てフードスタイリストを目指してくれた子もたくさんいたみたいだけど、僕も洋書や洋雑誌を見てヒントを得て、道を切り開いていったんです」

自己プロデュース

料理に興味を持ち、その世界を知れば知るほど、料理の得意な人は大勢いるという事実に気づかされます。そのなかで「あの人に仕事をお願いしたい」と指名されるには、唯一無二の存在になることが求められますが、まだ実績が少なくこれから頑張っていこうという時期に、どう自分を知ってもらえばよいのでしょうか?

「やっぱり自己プロデュース。たとえば僕は、あるテレビ番組で料理コーナーの依頼があったときに、当時は本名で活動していたんだけど、ニックネームの『マロン』でいきたいって自分から提案したの。『板井典夫のマジッククッキングショー』よりも、『マロンのマジッククッキングショー』の方がキャッチーでしょ? 僕はタレントでも芸能人でもないけれど、そうやってキャラクターを確立したおかげで、書店でも著書はタレントの方たちと一緒に並んでいることも多かったですね。まさに「マーロン・ブランド」(笑)。それから、やりたいことは口に出した方がいい。僕は最近歌を歌っていて、今まで大事にしてきた食と歌を良い形で融合させて、表現者として僕にしかできない新しい展開をしていきたいという想いをいろんなところで話しています。話すことは種をまくこと。自己プロデュースの一環でもあるし、聞いてくれている人はいますから。何ごとも焦っちゃダメ。あなたがもしアシスタントだとして、僕の後ろで背中を向けて玉ねぎを切っていたとしても、ちゃんと見てくれている人はいますよ(笑)」

料理で生きていくという信念

絵にかいたように順風満帆に見えるマロンさんのキャリアですが、お話を伺っているうちに、ポジティブな言葉だけを選んでお話をされていることに気づきます。どうしたらいいか悩んでしまいそうなときも、自分を信じて、信念を持って前に進んでいくしかないと決めていたというマロンさん。

「料理学校を卒業したあとにレストランで働いたのですが、1年で辞めている。つまり、社会に出てすぐに一度挫折しているんです。僕は職人気質じゃないから、職人にはなれなかった。それでもその後の35年間、フリーランスのフードスタイリストとしてずっと料理一筋でやってきて、辞めようと思ったことは一度もありませんでした。それは料理が好きだから。これに尽きると思います。僕は意志が強くて、好き嫌いがはっきりしている。優柔不断だとブレるでしょ? 迷う前に要らない方を消去して大事な方を選ぶから、決断は早いの。それから、基本的にポジティブシンキング。小さな失敗はたくさんしたけれど、動揺するんじゃなくて、その失敗を受け止める。『大事に至らならなくてよかった。これくらいなら仕方ないか』って自分の中で納めて、二度とやらないようにすればいいと思えばすごく肯定的になるから」

元気なことも僕のとりえのひとつで、人に元気を与えるために生まれてきたというマロンさん。元気の秘訣は、料理そのものにもあるようです。

「食材は生きているから、素材からもらえるパワーは絶対にある。それから、料理を作る人はみんな同じ気持ちだと思うけれど、『おいしい』っていうひと言にすごく救われてきました。雑誌やテレビの仕事だと『おいしそうだな』とは思ってもらえるかもしれないけど、本当のおいしさは見ている側に伝わらない。だから、実際に作って、良きタイミングで食べてもらったときの『ごちそうさま~!』『おいしかった~!』っていうその感嘆符がエネルギーになった。料理家って元気な人が多いでしょ(笑)? エネルギーを使って料理を作っているんだけど、それ以上のエネルギーをもらえるの。料理ってそれくらい魅力的なものだと思うよ」

撮影/福田喜一 取材・文/江原裕子

マロン

大阪あべの辻調理師専門学校を首席で卒業。料理研究家、インテリアスタイリストのアシスタントを経験後、1983年に日本初のフードスタイリストとして独立。独自の感覚で魅せるハイセンスなスタイリングで人気となり、テレビ、ラジオ、雑誌などメディアを中心に、全国のイベントや講演会などでもダイナミックに活躍中。また歌の世界への思い入れと探求心も強く、食と歌を融合させながらオンリーワンな食のエンターテイナーとして進化を続けている。

祐成陽子さん監修の「料理家の逸品 カーブキッチンバサミ」(貝印)。刃がカーブしていることからエッジがきくため、力を入れることなく肉や野菜を手際よくカットできる。祐成さん自身からプレゼントされ、その使い勝手の良さにキッチンにいつもスタンバイ。


35年のキャリアのなかでずっと使い続けているグレーター。チーズのタイプや用途に合わせてすりおろし、極細、細切り用、薄切り用4つの面を使いこなす。マロンさんは昔から、野菜にも使用。キャロットラペを30年以上前から作っているそう。


レシピとともに、食を彩る器や道具、ライフスタイルを提案してきたマロンさんの著作たち。1994年に出版した一冊目の著書『100枚のおいしいお皿』(文化出版局・絶版)は、初めての経験の連続で、産みの苦しみを味わったという思い出深い一冊。マロンさんのアイデアやセンス、思いがぎっしり詰まっている。


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