日本初のフードスタイリストの35年

インタビュー
フードスタイリスト マロン

日本初のフードスタイリストとして、食がもたらす楽しさや美しさを演出し、料理の魅力を多角的に伝えてきたマロンさん。前例がないことをやり、時代の変化に合わせて表現方法を変えながら、第一線で活躍されてきました。マロンさんのフードスタイリストとしての35年の歩みから、その類まれなるセンスやテクニックを物にするヒントを探っていきましょう。

2018年04月1日

自己プロデュース

料理に興味を持ち、その世界を知れば知るほど、料理の得意な人は大勢いるという事実に気づかされます。そのなかで「あの人に仕事をお願いしたい」と指名されるには、唯一無二の存在になることが求められますが、まだ実績が少なくこれから頑張っていこうという時期に、どう自分を知ってもらえばよいのでしょうか?

「やっぱり自己プロデュース。たとえば僕は、あるテレビ番組で料理コーナーの依頼があったときに、当時は本名で活動していたんだけど、ニックネームの『マロン』でいきたいって自分から提案したの。『板井典夫のマジッククッキングショー』よりも、『マロンのマジッククッキングショー』の方がキャッチーでしょ? 僕はタレントでも芸能人でもないけれど、そうやってキャラクターを確立したおかげで、書店でも著書はタレントの方たちと一緒に並んでいることも多かったですね。まさに「マーロン・ブランド」(笑)。それから、やりたいことは口に出した方がいい。僕は最近歌を歌っていて、今まで大事にしてきた食と歌を良い形で融合させて、表現者として僕にしかできない新しい展開をしていきたいという想いをいろんなところで話しています。話すことは種をまくこと。自己プロデュースの一環でもあるし、聞いてくれている人はいますから。何ごとも焦っちゃダメ。あなたがもしアシスタントだとして、僕の後ろで背中を向けて玉ねぎを切っていたとしても、ちゃんと見てくれている人はいますよ(笑)」

料理で生きていくという信念

絵にかいたように順風満帆に見えるマロンさんのキャリアですが、お話を伺っているうちに、ポジティブな言葉だけを選んでお話をされていることに気づきます。どうしたらいいか悩んでしまいそうなときも、自分を信じて、信念を持って前に進んでいくしかないと決めていたというマロンさん。

「料理学校を卒業したあとにレストランで働いたのですが、1年で辞めている。つまり、社会に出てすぐに一度挫折しているんです。僕は職人気質じゃないから、職人にはなれなかった。それでもその後の35年間、フリーランスのフードスタイリストとしてずっと料理一筋でやってきて、辞めようと思ったことは一度もありませんでした。それは料理が好きだから。これに尽きると思います。僕は意志が強くて、好き嫌いがはっきりしている。優柔不断だとブレるでしょ? 迷う前に要らない方を消去して大事な方を選ぶから、決断は早いの。それから、基本的にポジティブシンキング。小さな失敗はたくさんしたけれど、動揺するんじゃなくて、その失敗を受け止める。『大事に至らならなくてよかった。これくらいなら仕方ないか』って自分の中で納めて、二度とやらないようにすればいいと思えばすごく肯定的になるから」

元気なことも僕のとりえのひとつで、人に元気を与えるために生まれてきたというマロンさん。元気の秘訣は、料理そのものにもあるようです。

「食材は生きているから、素材からもらえるパワーは絶対にある。それから、料理を作る人はみんな同じ気持ちだと思うけれど、『おいしい』っていうひと言にすごく救われてきました。雑誌やテレビの仕事だと『おいしそうだな』とは思ってもらえるかもしれないけど、本当のおいしさは見ている側に伝わらない。だから、実際に作って、良きタイミングで食べてもらったときの『ごちそうさま~!』『おいしかった~!』っていうその感嘆符がエネルギーになった。料理家って元気な人が多いでしょ(笑)? エネルギーを使って料理を作っているんだけど、それ以上のエネルギーをもらえるの。料理ってそれくらい魅力的なものだと思うよ」

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撮影/福田喜一 取材・文/江原裕子

マロン

大阪あべの辻調理師専門学校を首席で卒業。料理研究家、インテリアスタイリストのアシスタントを経験後、1983年に日本初のフードスタイリストとして独立。独自の感覚で魅せるハイセンスなスタイリングで人気となり、テレビ、ラジオ、雑誌などメディアを中心に、全国のイベントや講演会などでもダイナミックに活躍中。また歌の世界への思い入れと探求心も強く、食と歌を融合させながらオンリーワンな食のエンターテイナーとして進化を続けている。

祐成陽子さん監修の「料理家の逸品 カーブキッチンバサミ」(貝印)。刃がカーブしていることからエッジがきくため、力を入れることなく肉や野菜を手際よくカットできる。祐成さん自身からプレゼントされ、その使い勝手の良さにキッチンにいつもスタンバイ。


35年のキャリアのなかでずっと使い続けているグレーター。チーズのタイプや用途に合わせてすりおろし、極細、細切り用、薄切り用4つの面を使いこなす。マロンさんは昔から、野菜にも使用。キャロットラペを30年以上前から作っているそう。


レシピとともに、食を彩る器や道具、ライフスタイルを提案してきたマロンさんの著作たち。1994年に出版した一冊目の著書『100枚のおいしいお皿』(文化出版局・絶版)は、初めての経験の連続で、産みの苦しみを味わったという思い出深い一冊。マロンさんのアイデアやセンス、思いがぎっしり詰まっている。


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