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料理レシピ本大賞を2年連続受賞

インタビュー
2019年06月5日
三浦半島の葉山にある海辺の古民家で、予約のとれない料理教室「白崎茶会」を主宰する白崎裕子さん。すでに全国的に知られる存在でしたが、2010年に『にっぽんのパンと畑のスープ』で料理レシピ本デビューして、たちまち重版が続く人気作家に。2015年「料理レシピ本大賞【料理部門】」入賞、さらに2017年と2018年で、2年連続「料理レシピ本大賞お菓子部門】」の大賞に輝きました。白崎さんにとって、レシピ作りは長い時間と知力、労力の限りを尽くして取り組む真剣勝負。本作りにおいても妥協はなく、困っている人たちに届けたいという一心で作られる本は、多くの人たちに支持されました。

料理レシピ本大賞を2年連続受賞

処女作からずっと白崎さんの本の担当だった編集者の退職があり、白崎さんは新たな編集者と出会います。
その編集者とはじめて作ったのが、学研パブリッシングから出版された『白崎茶会のかんたんパンレシピ』。こちらも卵、乳製品、白砂糖不使用の菓子パンや惣菜パンのレシピで、手軽に作れて、生地の保存もきくことから評判を呼び、これが2015年の「料理レシピ本大賞【料理部門】」で入賞を果たしたのです。
「この編集者との出会いは、私にとってとても大きいものでした」
3冊目の本以降、誰にとってもわかりやすく作りやすい本になるよう腐心していたので、新しい版元で、新しい編集者によって、イメージ通りの紙面がどんどん出来上がっていく様に感激したといいます。
その担当編集者が今度はマガジンハウスに転職。2015年の『秘密のストックレシピ』、そして2016年に『あたらしいおやつ』というタイトルの「小麦粉を使わないかんたんレシピ」を詰め込んだ本を出版します。この『あたらしいおやつ』が出版されるやいなや、たちまち評判になりました。当時広まりつつあったグルテンフリーという新しい考え方に対応したレシピだっただけでなく、見開きの見やすいレイアウト、4コマ、または6コマという一目で作り方がわかるプロセス写真にこだわった構成などが広い層から支持されたのです。
2017年には「料理レシピ本大賞【お菓子部門】」で大賞を受賞します。
さらに翌年には「へたでもいい、はじめてでも繰り返し作りたくなるレシピ」というメッセージをプラスして、『へたおやつ』というキャッチーなタイトルで2018年1月に上梓し、こちらも大ヒット。2018年も引き続き「料理レシピ本大賞【お菓子部門】」で大賞を受賞します。
『あたらしいおやつ』『へたおやつ』のどちらも小麦粉以外の粉を使い、卵・乳製品は使わないのに、いわゆる「スイーツ」が作れるレシピがたっぷりと紹介されています。また、内容だけでなく本としての使いやすさにも白崎さんはこだわりました。例えば「プロセス写真のために、1レシピにつき6個も7個も完成品や制作途中の差し替え品を用意」するという念の入れよう。大変だったと言いますが、その妥協のなさこそが本の完成度を高める重要な要因でした。
これらの作品を通して白崎さんは、「今までにないもの、足りなかったものを作ってこそ本にする意義がある」という思いをさらに強くするようになったといいます。

ゼロからレシピを作れば出版への道は拓かれる

白崎さんは、「料理研究家の仕事は、ふた通りある」と言います。
「ひとつは、誰も取り組んでいないところからレシピを作ること。もうひとつは、すでに出来上がったレシピに改良を加えてより良くしていくもの。それは例えば、誰もが食べたことのあるカステラやスポンジケーキの材料や作り方を見直して改良していくといったことです。
私の仕事は前者の、誰も取り組んでないところでレシピを作ること、すなわち0を1にすることです。例えばバターの代わりに植物油を水分と混ぜて乳化させて、クッキーを焼くとかクリームやチョコレートを作るとか。
あるいは卵を使わずにふわふわのケーキをつくるとか。でも、『卵の代わりに豆腐を使います』と言ったって単純な話ではありません。豆腐に卵の性質があるわけではありませんから。当然ただ置き換えただけではおいしくないものが出来上がります。
どうしたらおいしくできるのか、簡単に作れるレシピになるのか。そこを見つけ出す作業が私の仕事の大半を占めます。
何度も試行錯誤の後、やっとこれならというものが出来たら、次はみんなが使えるよう、分量の端数を調整しても大丈夫なように改良し、教室でやってみて生徒さんの反応を加えてからレシピに起こしていきますので、長い時間がかかるのです」。レシピの開発はすぐに出来上がる時もあれば、何度やってもできない時のほうが多いことから、白崎さんの頭の中には常にたくさんの“7割まで完成しているレシピ”がひっかかっている状態だといいます。
「別のレシピを試作している最中に『この手法はあのレシピに使えるんじゃないか』とひらめくこともあります。レシピは2gずつ分量を変えて試していくので、完成するまで延々と試作が続きます。私はそうした作業が楽しいと思えるからこそ、なんとか今まで続けてこられたのではないでしょうか」。
インターネットでレシピを検索するのが当たり前の今の時代、「レシピは無料で見られるもの」という認識を持つ人も少なくありません。そんな状況をかんがみると、「本を出したいなら、改良レシピではなくゼロからレシピを作ればいい」という白崎さんの言葉は、なおさら重みが増します。
「お店で売っていないから自分で作るしかない、でも作り方がわからない……と困っている人はたくさんいます。『こんなレシピがあったらほしいな』と切実に願っている人がいる限り、私たちの仕事が終わることはありません。そういうテーマを見つけることが出来たなら、誰にでも出版のチャンスはやってくるのではないでしょうか」。
自分でイチからレシピを作る若い料理研究家がもっと増えてほしいと、心から願う白崎さん。
「レシピ作りは体力と発想力、精神力、そして何よりも時間が必要ですから、若ければ若いほどいいと思います。恐れずチャレンジすれば、きっとその先に出版という道が見えてくると思います」
「困っている人の助けになるレシピ」、こんなレシピがあったらいいなという「問題解決レシピ」は料理家の仕事の本分のひとつ。料理の力ですべての人を笑顔にできればおのずとその先に出版への夢の道に続くはず。白崎さんの道のりが何よりの証明です。

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撮影/山下みどり 取材・文/綛谷久美

プロフィール
白崎裕子さん
料理研究家。2008年より神奈川県の葉山の海辺に立つ古民家でオーガニック料理教室「白崎茶会」で教え、料理・ライフスタイル系の4誌でレシピ連載を持つ。著書はWAVE出版、マガジンハウスで出版した本を含め現在11冊。そのほどんどは翻訳版となり、中国、韓国、台湾で出版されている。
公式サイト http://shirasakifukurou.jp/
 
はじめての著書
『にっぽんのパンと畑のスープ なつかしくてあたらしい、白崎茶会のオーガニックレシピ』
2010年3月5日発行
WAVE出版
A5判、平綴じ(短辺綴じ)、112ページ
 
料理レシピ本大賞【料理部門】2015年入賞
『白崎茶会のかんたんパンレシピ』
2015年3月24日発行
学研パブリッシング
B5判、平綴じ(短編綴じ)、112ページ
 
料理レシピ本大賞【お菓子部門】2017年大賞
『白崎茶会のあたらしいおやつ 小麦粉を使わない かんたんレシピ』
2016年9月29日発行
マガジンハウス
B5変形判、平綴じ、112ページ
 
料理レシピ本大賞【お菓子部門】2018年大賞
『へたおやつ 小麦粉を使わない白崎茶会のはじめてレシピ』
2017年12月14日発行
マガジンハウス
B5変形判、平綴じ、112ページ