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「困りごと」をレシピで解決したい

インタビュー
2019年09月11日
多くの著書の出版が続く料理研究家の堤人美さん。一貫して持ち続けている“届けたい想い”とは、「料理に対するハードルを下げること」。日常の何気ない瞬間にある「困ったこと」に目を向け、少ない食材や調味料でとびきりおいしく作れる料理を目指して日々奮闘している堤さんに、本作りについて、そしてこれから出版を目指す方へのアドバイスを伺いました。

依頼には「私らしさ」をのせて表現する

売れっ子料理家、堤人美さんの取材は、撮影が続く週のほんの少しの時間をいただいて行われたもの。2019年8月末に発売になった最新刊を「ちょうど先週校了」というタイミングでした。
そんな最新刊を含め、堤さんが手がけた著書は実に53冊(共著含まず)。2008年9月に処女作となる『まいにち、圧力鍋』(主婦と生活社)を出版してからの53冊ですから、その売れっ子ぶりには目を見張ります。とくに2017年と2018年はそれぞれ9冊の単行本を手がけたほかに、雑誌や共著ムックなどにもレシピを提供されていたので、「もう撮影は毎日のことのようなもの」。その言葉を裏付けるように、ご自宅リビングは撮影スタジオさながらに、家具を脇に寄せたがらんとした大きなスペースになっていました。

「本のご依頼の内容はいろいろで、もともと私がやりたいと思っていたテーマであればいいのですが、実際は話題の食材や調理法、調理器具など、その時の最先端の料理が求められるケースが多いです。そんな時に『できません』というのではなく、『どこかに自分ができることがあるんじゃないか』と探しながらお話を進めています」と堤さん。
2018年を例にとると、『お味噌汁』や『一汁一菜』に関する撮影依頼が多かったといいますから、まさに料理本は世相を反映しているのがわかります。
「基本的にはお引き受けするんです、『痩せる』がテーマでない限りは(笑)。ただ、『こういうテーマの本だからこうしてください』というオーダーに忠実に従うというよりは、私らしさを表現できる何かをそこにきちんと盛り込んでいきたいんです。なので、編集者さんとはものすごくたくさん話し合います」
 

アシスタントのプロから料理家として独立

堤さん、実はアシスタント歴が長い料理業界のベテランでした。20代後半から2008年に『まいにち、圧力鍋』を出版するまでずっと、料理家やフードコーディネーターのアシスタントとして撮影やテレビ番組制作に関わっていたのです。
「カメラマンさんやスタイリストさん、編集さんに『料理アシスタントのプロ』と言われるほど。私はずっとこのままアシスタント稼業を続けていくのかなあと思っていました」
転機は、とある現場での、版元編集長の「『やせるお弁当』の本、堤さん、お願い出来ませんか?」という声がけ。しかし、「痩せるというのがテーマのものは…」と言い淀む堤さんに、「じゃ、圧力鍋はどう?」と戻ってきた言葉にすぐ飛びつきました。

「当時は毎日のように圧力鍋を使っていたんです。夫の食事はどんな時でも私が用意していたので、まさに圧力鍋は忙しい時の救世主。本のお話をいただいて、それまでのレシピだけでは足りないのもありましたが、とにかく作りやすく絶対に失敗しない再現性の高いレシピにしたくて、1日に3回も試作して完成度を上げ、撮影・編集作業に臨みました」
そうして世に出た圧力鍋の本は今も堤さんのお気に入り。以来、多くの本の著者となった堤さんですが、一貫して言えるのは、「料理に対するハードルを下げたい」という想い。
「圧力鍋の時もそうですが、自分自身が本当に作っているものがいちばん強くて、作っているからこそ、面倒なこの手順は省いてもいいとか、別の方法でも同じように作れるという提案ができるんです。ごく普通の一般的な家庭料理に、どうやって自分らしさをプラスできるかと考えながらも、できるだけ削ぎ落とすことを意識しています」

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撮影/山下みどり 取材・文/綛谷久美

プロフィール
堤 人美さん
料理研究家。テレビ番組の裏方や料理研究家のアシスタントを経て2008年に『まいにち、圧力鍋』で料理家デビュー。雑誌や書籍、イベントで活躍するほかNHK「きょうの料理」や「あさイチ」などに出演。ご主人との二人暮らしの中で生まれた料理や実践術が実用的と幅広く支持されている。
 
はじめての著書
『まいにち、圧力鍋』
2008年9月発行
主婦と生活社
B5判、平綴じ、112ページ