
異業種交流会の自己紹介、「実家が農家」がウケた
生産者のためにできることを120%やる。そんな強い意志を持って走り続けている秋元さんですが、前職のDeNA時代は「やりたいことがない」「個性がない」ことにずっとコンプレックスを抱いていたといいます。しかしあるとき、社外の異業種交流会に参加して「実家が農家をやっています」と自己紹介したのがウケて、畑でお祭りをするイベントを企画することになります。
「その時に、実家の畑に久しぶりに行ったら、廃れて変わり果てた姿になっていたんです。そこからどんどん農業に入っていったわけですが、農業というものに気づかせてくれたのは、周りの人でした。人にはそれぞれ個性とかオリジナリティが絶対にあるはずなんですが、自分にとっては当たり前のことだからなかなか気付かない。だから自分の個性やオリジナリティを、いかに外の人に見つけてもらうか、引き出してもらえる環境に身を置くかということがすごく大事だなと思うんです」
ただし、インプットのタイミングが早ければいい、遅いと悪いというわけではないと秋元さんは言います。実際、DeNA時代に企画した畑のイベントも、もし学生の時に経験していたらお祭りをやり続けて終わりだったかもしれません。社会人だったからこそ、今の食べチョクに繋がったと考えているそうです。
「実はタイミングが大事で、あまり焦る必要はないと思います。それよりも目の前のことに夢中になれるかという『夢中力』がすごく大事だなと思っています」
「第一次産業を変えること、救うというよりかは変えたいということに夢中になっています」と秋元さん。元々、目標を立ててそこに向けて夢中になって仕事をすることはDeNA時代と同じだそうですが、第一次産業を変えることを目的にしてからは、迷いが一切なくなり、夢中に突き進めるようになったそうです。
10人が10人「いいサービスだ」というものは成功しない
自分なりの個性を見つけ、夢中に個性を磨き続けていく中では、まわりから反発や批判が生まれることもあります。秋元さんも、「そんなのうまくいかない」、「第一次産業に負担をかけている」と言われ、批判を受けた時期があったといいます。しかし、その批判は全てを鵜呑みにしなくても良いことに気づき、あまり気にはならなくなったといいます。
「スタートアップの世界で成功したサービスは、当初は9割の人が否定したものです。逆にいうと10人が10人いいというサービスは、誰かが既にやっていたり、今はない理由が明確にあったりする。だから、批判をされても『この方には価値は届かないサービスなんだ』と思うようになりました。でもたまに本質的な批判もあるので、そこは聞き逃しちゃいけない。これは自分たちが解決できるけど、今はできていないことなので解決しなくてはいけないわけです。ここを切り分けられるようになって精神が安定しました」
本来は、ネガティブな性格だという秋元さん。寝る時に「明日、農家さんにめちゃめちゃ嫌われたらどうしよう」などと考えてしまうこともあるといいます。そんな時は、「今私は批判されて傷ついている」と自分を客観的に見ることで、他人事にするように意識しているそうです。他にも、自分が傷ついたり、ネガティブになったりするポイントを正しく理解して、そこをうまく避けるようにすることを意識しています。
「以前は、先輩の起業家のように強い耐性を持ちたいと思ったこともありましたが、そもそも根本が違うということに気づいたのです。そのことを認識した上でしっかり経営していけばいいかな、と思うようになりました。ストレスと向き合うということ、そもそも自分の弱いところを知ることかなと思っています」
異業種や先輩起業家と話すときには、失敗談やネガティブな話を聞くのも秋元さんの習慣の一つ。ネガティブな性格だからこそ、その要素を集めて同じ道を踏まないようにネガティブリスクの対処法を準備しておくことで、次の一歩を安心して踏み出せる。走り続ける秋元さんの強い意志の根源は、正確な自己認識とリスク管理にあったのです。
愛用のMacBookには、色鮮やかな野菜のイラストと、食べチョクのロゴステッカーが貼られている。