特集記事

ANTCICADA 篠原祐太さん

インタビュー
2021年01月19日
料理人をはじめ、料理にまつわるスタイリストやフードコーディネーター、カメラマンなど、食を支えるクリエイターのインタビューをお届けする連載。料理への向き合い方、仕事観、読者のスキルアップのためのノウハウなど、食を支え、未来を描こうとする様々な職種の方々の料理に対する考えや思いを語ってもらいます。

新しい挑戦には必ず賛否両論が生まれる

レストラン構想から3年、コロナ禍で延期したものの、ANTCICADAは、2020年6月にオープンします。時代の後押しもあり、13席のレストランは、連日満席で2020年を終えることができました。誹謗中傷を受けながらコオロギラーメンを販売していた頃とは全く違う状況です。

大学生時代は、批判を受けて落ち込むことが多かったという篠原さん。しかし、「興味がなければ批判もされない、意識してもらえるうちが花」と思うようになってから、気にならなくなったといいます。「それに100人が全員『いいね』っていうことをしてもつまらない。新しいことには必ず賛否両論が生まれるもの」と考えて、批判をひっくり返してやろうと楽しめるようにもなったといいます。

「応援してくださる人も多くてありがたいですし、批判をしてほしいわけでもありません。ただ最近は、自分たちのなかで“置きにいっている”感を強く感じてしまっています。無意識に広く理解されようとしているのかもしれませんし、もしかしたら無意識に迎合しようとしているのかもしれません。原点回帰して、心の底から湧き出てくるものを表現しないと、中庸なものになってしまうという危機感があります」

「オリジナリティがない人はいない」と、篠原さんはいいます。それぞれが異なるバックグラウンドを持ち、持ち合わせる感覚も違う。そのなかで、自分の感覚を信じることから表現が始まります。もっと自分自身を深く理解し、人に対してどんなおもしろさを共有する瞬間が楽しいと思えるのかを見つけることです。

もちろん、実際に注目される存在になるためには、ANTCICADAが地球料理を目指しながらも虫に特化して活動しているように、戦略的に差別化を図る必要があります。だからこそ「戦略と自分自身の本質をごちゃ混ぜにしないこと」が大事だと篠原さんはいいます。いつの間にか戦略が目的になり、本質を見失ってしまうからです。

「自分の軸をどこに設定するかを認識できていなかったら、お客様には届かないと思うんです。ただその軸は、必ずしも世の中の論理に合わせるだけではないと思っています。その人だけのオリジナルな軸を持ったうえで、たとえばANTCICADAが昆虫食と発酵を掛け合わせたように、無限にある掛け合わせを試してみることが、唯一無二の存在になれる方法ではないかと思います」

ANTCICADAのスタッフは篠原さんを含めて現在5名。全員、平成生まれの20代だ。左から料理人の白鳥翔大さん、はらぺこむし・豊永裕美さん、篠原さん、食べものがかり・関根賢人さん、発酵家の山口歩夢さん。5人に共通することは、「虫を特別視していないこと」だと篠原さん。

アリ(ANT)とセミ(CICADA)を組み合わせた店名「ANTCICADA」。レストランの壁面には、地中に広がるアリの巣をイメージして地層のような棚が設置されている。段ボールでできた棚は自由に動かすことができ、レストランの中に動きを与えている。

テーブルは、屋根の素材にFRP(繊維強化プラスチック)重ねたもの。海や湖といった水面をイメージしており、ライティングによって生まれる影が波打つような揺らぎを与える。

 

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撮影/大平正美 取材・文/江六前一郎

篠原祐太さん

1994年地球生まれ。慶應義塾大学卒。幼少期より地球を愛し、あらゆる野生の恵を味わう。昆虫食歴20年以上。「ラーメン凪」やミシュラン一つ星「うえ村」で修業し、食材としての昆虫の可能性を探求。現在は、数千匹の生き物と同棲しながら、虫料理開発、ワークショップ、執筆、講演と幅広く活動。狩猟免許や森林ガイド資格保持。

photo by Soichiro Suizu


ANTCICADA
住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-4-6
電話番号:03-6881-0412
営業時間:
〈コオロギラーメン〉
日曜日 11:00~21:00
〈コース料理〉
金曜日 19:00(一斉スタート、予約制)
土曜日 12:00,19:00(一斉スタート、予約制)
定休日:月~木曜日
https://antcicada.com/