
近年、フランス料理の味わいが軽やかになってきた潮流について、朝比奈さんはこう話します。「これは一時的なことで、すでに今、モダンからクラシックに回帰しつつあります。なぜこの料理にこのソースなのか、付け合わせは何かという点に必ず理論がある。その理論が成り立っていない一皿は、絶対に提供しません」。自身が職人であるという強い意識のもと、次世代へフランス料理を伝え、現代を牽引したいというシェフの考えを反映した一言です。
試作を重ねて完成した新作のデザート「佐賀県産 柑橘ゲンコウのタルトシトロン バジリコの香りと共に」。一見するとレモン果実を伏せたようなビジュアルですが、外側はパート・シュクレ。内側には、リモンチェッロ入りのシトロンのクリームや、フレッシュバジル、ガナッシュやクランブルなどが層になり、味わいはもちろんフレッシュな香り、多彩な食感が込められています。
カジュアルで気軽に通えるフランス料理店が増えるなか、豊富な経験と揺るがない技術を礎とし、業界を牽引しようという高い志を持つベテランシェフが生み出す渾身の一皿を味わうことは、真のグランメゾンが何たるかを知る貴重なきっかけになるに違いありません。