
正統派を知っているからこそできる「おもしろい」料理を作りたい
独立にあたって決めていたのは、料理人がメニューや食材を決めるコースではなく、お客さまの気分で、好きなメニューを選べるアラカルトを主体にすることだったといいます。「『おもしろい料理』で楽しんでいただきたい、という思いはnidでも変わっていません。今ではお客さまが、『徹さん、来たよ』なんて、お仕事帰りに寄ってくださるようになりました」と黒葛原さん。
メニューは、パテ・ド・カンパーニュやレバームース、リエットなど、ビストロ料理好きには定番が並んでいます。しかしメニュー名をよく見てみると、それぞれ「パテ ド カンパーニュ〜発酵キャベツ添え〜」(1000円)や「白レバームースチョコミント〜土に見立てたカカオ〜」(900円)、「蝦夷鹿のリエット〜林檎のタタン仕立て〜」(950円)など、「いったいどんな味がするんだろう?」と、一筋縄ではいかない内容で、食べる者の興味を刺激します。
たとえば、「白レバームースチョコミント〜土に見立てたカカオ〜」は、白レバー特有の香りにミントが寄り添い、デザートのような仕立てになっています。しかし、土に見立てたカカオのサブレと、カカオニブ(カカオ豆を砕いて皮を取り除いたもの)が苦味のアクセントになっています。
「白レバームースチョコミント〜土に見立てたカカオ〜」
また、メイン料理の「オマール海老の出汁炊きリゾット〜白子のローストと〜」(1700円)は、フランス料理の基本食材であるオマール海老の出汁で炊いたリゾットに、揚げたネギやネギの香りを移したネギオイル、白子のフリットなど、日本人に親しみのある食材を合わせて、ビストロ料理初心者でも、ほっとできる味に仕立てています。
「オマール海老の出汁炊きリゾット〜白子のローストと〜」。価格は2名分なので、2皿にわけて提供されます。
一見奇抜にも見える食材の組み合わせには必ず意図があり、そのうえで味のバランスに破綻がありません。それは、黒葛原さんが、一流といえる店のクオリティを知るからこそ作り出せる、「おいしさをともなったおもしろさ」です。これこそ、nidの最大の魅力といえます。
「白子の前は、タイの出汁で炊いたリゾットに、お茶をかけてひつまぶし風にしたりしたりしました。nidの料理を通じて、『料理は自由で、食べ方に正解はない』ということを、感じていただけれたらと思います」
お客さまととも変わっていけるレストランに
オープンからもうすぐ10カ月。常連のお客さまも増え、コース料理を作ってほしいというリクエストが増えてきました。また、料理それぞれにドリンクを合わせるペアリングの希望も出てきたといいます。
「フラっと来れるお店でありたいと思っていますが、お客さまのリクエストにもお応えしていきたい。nidはこういう店と決めつけることなく、お客さまとともに変わっていける店でありたい」と黒葛原さんはいいます。
お客さまに「おいしいものを食べて、楽しんでほしい」と、はじまったnid。注文しやすい価格のアラカルトメニューは、そうした場所を実現するあくまで手段。コース料理をつくっても、ペアリングをしても、根本にある黒葛原さんの“お客さまファースト”のホスピタリティは、かわりません。
どんな人にとっても羽を休ませることができる「巣」であるために。黒葛原さんは、今日も、ビストロ好きも、ビストロ初心者も心を躍らせる「おもしろい」料理を作り続けています。
ネギオイルなど、自家製の発酵食材や発酵調味料で、黒葛原さんオリジナルの味わいをビストロ料理に加えていきます。