
今年、自身の店を構えて独立を果たした遠藤記史さん。18歳からイギリスにサッカー留学をし、25歳で帰国したというユニークな経歴の持ち主です。もともと実家は寿司店でしたが、当時は「仕事がキツそう」という理由から興味が持てなかったそう。でも、長い海外生活を通じて改めて日本の食の豊かさに気づいた経験から、職人の道を志したといいます。
「風味を重ねる手法ゆえにフランス料理を油絵に、いっぽうで日本料理は水墨画という例え方がよくありますよね。ならば、寿司は書道に近い。使う素材が限られた中で、どれだけ潔く、豊かな表現ができるのかという点に挑戦したいと思っています」と遠藤さんは話す。
意外なコース構成でサプライズ感を盛り込むのも、同店の人気の秘密。最初の一品は昆布とかつお節で丁寧にひいた「出汁」。「寿司職人は、技術屋さんに近い。だから、それを見極めてもらうためにまずはシンプルに出汁を味わっていただきたいと考えました」と遠藤さん。
続いて供されるのは「すっぽん」。その繊細な味わいをみりんとしょうゆで炊くことでシンプルに生かした一皿です。
寿司を進化させるために、歴史的に根拠のないアップデートはしない
世界的に寿司が注目を浴びる今、素材の取り入れ方で斬新な一品を生み出すことは簡単。でも、単に新しくするのではなく進化させることが目標。江戸前寿司は、冷蔵などの環境が整っていない時代、生魚の保存性を高めるために職人が工夫を凝らしてきた背景があります。「その工程が現代に本当に必要なのか、成り立ちを勉強しながら常に考えています。いかに珍しくても、根拠のないアレンジはしません」。