好きなものに囲まれて、好きな料理を作り続ける
FRANZのメニューは、福田さんのおまかせコースのみ(1万円、税別)。オープン当時からのスペシャリテ「トリュフのワッフル」からコースは始まり、前菜、メイン、デザートと続きます。素材に手をかけすぎず、最小限の調理によって完成する滋味深い料理が、FRANZの魅力です。
オーナーシェフの福田祐三さん。2017年2月に「FRANZ」をオープンさせました。
バターとトリュフの香りが心地よいFRANZのスペシャリテ、トリュフのワッフル。
FRANZには、メニュー表がないばかりか、料理名もありません。その代わり福田さんが、カウンターのお客様一人ずつに料理や食材の説明をしながら提供していきます。
「どんな人がどんな場所で育てている食材で、どんなふうに届くのか。食事がもっと楽しく豊かになることを感じてもらえるようなことをお話ししたいと思っています」
この日のコースのひと品、タコのフリットは、高松市の鮮魚店「魚福」から送られてきたもの。
「9月に魚福に行ってきました。産地では今回使っている小さいマダコの子どものような流通にのらない素材を教えてもらえる。それは、東京にいても知ることができないんです」
クラシックなフランス料理を学んできた福田さんが、料理人のエゴや過剰な想いを盛り込みすぎるのではなく、素材とそれが育まれた景色に寄り添うような料理に向かうきっかけになったのが、独立前に働いていたイタリア料理店「チニャーレ」と、カリフォルニアスタイルのレストラン「イートリップ」での経験でした。素材を過度に切り刻んだりすることなく、調味もできるだけシンプルにして素材の姿をとどめ、たとえばオイルと塩をかけただけなのに、それだけで十分においしい料理に衝撃を受けたといいます。
「それでも僕は料理人なので、料理の説明とか細かくしたくなったり、満足してもらいたいから盛り付ける量も多くなったりしてしまうのです。それをしっかりお客さまの視点で指摘をしてくれるのが妻の麻子です」
アパレル業界にいた麻子さんは、独立から1年後に、ようやくFRANZに合流。今は福田さんとともにお店に立っています。
バルサミコと赤ワインで煮込んだマダコをフリットにし、バターナッツのピュレと。
北海道産ジャージー牛の熟成肉と青森・雲谷ト森山農園のパースニップ。
「『ベニエとフリットって何が違うの?フリットって説明した方が、わかりやすいのに』とか、営業中も『あちらのお客さまは、もうお腹がいっぱいそうだから少なめに』とか、そういった指摘は本当に助かります」
麻子さんは、サービスやワインなどのドリンクの管理をするほか、店名の頭文字「F」の文字が刺繍されたナプキンを制作したり、店で使うカトラリーや設えをセレクトするなど、FRANZの空間を作る重要な役目を担う、福田さんのパートナーでもあります。