
料理一皿一皿は、薪火料理ならではのダイナミックさがあるものの、野菜やフルーツによる繊細でピュアな食感や香りが感じられ、野性とモダンが見事に混じり合ったバランス感が楽しめます。若いスタッフたちで構成されたチームですが、サービスにおぼつかない雰囲気はなく、カジュアルでありながらガストロノミーならではの洗練が感じられ、クリーンな魅力が店のそこかしこに溢れているよう。石松シェフは語ります。
「僕が料理の道を歩み始めたのは、都心にある素晴らしいフランス料理店でした。その後、オーストラリア・メルボルンに渡って働くことになり、そこでは料理技術以外にもたくさんの大切なことを学びました。勤めていた『Brae』というレストランは、僕が滞在していたたった数年の間に世界的な料理コンペティション『The World’s 50 Best Restaurants』のランキングを駆け上って脚光を浴びるようになり、かといって気持ちのいい職場環境や創造的な料理は揺らいだりすることもなく、ただただエキサイティングな日々でした。レストランは豊かな自然に囲まれていて、遠方から訪れてくれたゲストのための宿泊施設まであって。いろんな意味で規模が違いました。いつか自分の故郷でもそんな店が出来たら最高だなと思っていたんです」
料理を分け合うスタイルで、一期一会の喜びをサービスする
薪火を多用する料理構成、一軒家で目の前には庭という自然環境のほかにもまだ、「マルタ」のユニークなスタイルがあります。それは料理の提供の仕方。店内は小さく区切られておらず、5.5メートルのロングテーブル+カウンターというしつらいになっていて、一人客でも4人連れでも、このテーブルに着席する仕組みになっています。料理のスタートは定刻2回と決められており、訪れたゲストはこの日のために作られた料理を分け合っていただくシステム。その精神は少し茶の湯にも似ていて、この日の一期一会を料理を通して共に味わうスタイルです。そのため、大皿の大きさのレベルが通常の比ではないのがユニーク。まるで巨大なシンバルを思わせる大皿やボウルに、テーブルに着く人数分の料理が盛られて登場します。
この皿も、大人が軽く両手を広げたほどもあるビッグサイズ。中央に盛られた前菜は、青梅の契約農園で栽培されているベビービーツを店の庭から摘んだばかりのローズマリーでさっと燻製し、さまざまな季節の野菜やハーブ、自家製チーズと共に盛りつけたもの。ここからゲストの銘々皿に取り分けて堪能します。何種類もの色とりどりの食材が歌い上げる個性を、そのまま大胆に味わえるのがマルタでいただく食事の醍醐味です。