
一方で、グランメゾンとも呼べる「トゥーランドット臥龍居」では、ケータリングなどでお客様とコミュニケーションをとりながら料理をする機会はありましたが、日々の仕事では、なかなかお客様を目の前に料理を作ることができずにいました。
独立するなら、カウンターキッチンで、大好きな自然派のワインも飲めるような店にしたい。独立準備に1年をかけてようやくオープンさせたのが「O2」でした。清澄白河は、自宅にも実家にも徒歩圏内。まわりには小さい頃からの同級生もいる地元を選んだのも「縁」を大事にする大津さんらしさといえます。
O2はオープンから今年3月で2年。開業1年間は、お客様の評判も良かった一方で大津さんは、「トゥーランドット臥龍居と何が違うのか?」という自問に、答えが出せずにいたそうです。ようやく2年目になって、自分らしいと言える食材や食器に出会い、お客様の顔も見えるようになって、「自分の料理」といえる自信が、少しずつついてきたそうです。
「高級食材を使わなくても、手間をかけて料理をすることでおいしい料理は作れます。O2では、そういう料理を続けていきたい」といいます。
オープン当時からのコースのメイン料理「牛ほほ肉の豆鼓煮込み」も3段階の火入れで、合計3時間かけて仕込むO2のスペシャリテです。牛ほほ肉をお湯だけで1時間煮込んだ後、紹興酒や醤油、八角、シナモンなどの調味料とともに、さらに1時間煮込み、最後に蒸籠で1時間蒸して仕上げます。注文が入ってから、仕上げに中国料理らしい調味料の豆鼓で味付けします。
牛ほほ肉の豆鼓煮込み。3時間、じっくり火を入れた牛ほほ肉を、最後に豆鼓のソースでサッと煮込みます。この日の付け合わせは、インカのめざめ(ジャガイモ)。
ナイフを使わずに、箸だけでホロホロと崩れていくような牛ほほ肉は、中国料理の調味料やスパイスで、フランス料理ではビストロの定番の牛ほほ肉の煮込みを、まったく新しい中国料理のひと皿に仕立てています。
このメニューも独立前に、先輩料理人からの紹介で知り合った白金のカウンター中華「私厨房 勇」のオーナーシェフ、原勇太さんから「お店の看板になるようなメニューを1つ作っておくといい」というアドバイスから生まれたものです。
「僕はおもしろいことが好き。立ち止まってじっとしていられないタイプなんです」と笑う大津さんは、今回1時間ほどのインタビューの間に、なんと400個のシュウマイを包み終えてしまいました。
インタビューの1時間で、ケータリング用のシュウマイ400個を包み終えた大津さん。
時間を無駄しないのも現代の料理人に必要なこと。今年5月には、フランスのボルドーやブルゴーニュのワイン生産者を訪れたという大津さん。趣味のトライアスロンやアーティストのライヴに参加する(取材の前日も参加されたとか)など、趣味も存分に楽しんでいます。
「インプットの時間がないと、料理でアウトプットできませんから」
プライベートを充実させて、O2にも全力で挑む。そんな、大津さんの料理は、これからも「縁」によって育まれ、さらにオリジナリティあるひと皿が生み出されるはずです。
大津さんの大好きな「スター・ウォーズ」シリーズのフィギュアなどが店内のいたるところにあります。さらにトイレもスター・ウォーズ使用。大津さんがお店づくりでこだわった部分で、宇宙船のように室内が飾られています。こちらはぜひ、お店で体験してみてください。