
とにかくきれいなもの、美しいものを作りたいと意識しているという加藤シェフ。単なる奇抜なアイデアではなく、色彩学に基づいた感性で表現する芸術的なアプローチで、躍動感や静寂といった緩急のついた演出を視覚から訴えかけています。
「美的センスは、モードと同じく、国や時代によって変わります。フランスでは決まった設計図から1ミリの狂いもないものが美しいとされ、北欧ではナチュラルでランダムに見せようと、あえて無造作な盛り付けをします。また、分子調理を牽引するスペインでは、素材感をなくす科学的なアプローチが多い。そんな中、スブリムのコースでは、北欧っぽい仕立てのフィンガーフードや前菜で始まり、メインは誰もがおいしいと認めるクラシックで王道のフレンチをお出ししています。コースを一通り味わった後、ちゃんと『おいしかった』という印象を持ってほしいという想いを込めています」
メニュー作りでは、シェフ自身がその季節に食べたい食材をリストアップ。その中から素材の持ち味を活かせる仕立てや調理法に落とし込むため。技法はあくまで味を引き出すための手段だと話します。
「フレンチや北欧はもちろん、必要ならば和食の技術も使います。長い歴史を持つフランス料理は技術が確立し、調理法も体系化されていますが、その絶対的なおいしさに加え、素材感を重視したのがスブリムの料理。たとえば、伊勢海老をフランス流に調理するとソースがおいしすぎて、車海老でもオマール海老でも同じ味になってしまう。だから、伊勢海老の生の甘さとぷりぷりとした弾力を活かした調理法にして、生姜を使ってとろみをつけたシンプルなソースをかける、そんな引き算的な考え方をしています。そこが和食に通じますね」
さりげない仕掛けが満載のランチ&ディナーコース
クラシックなフランス料理を学び、最先端といわれる北欧を経験した、日本人である加藤シェフが作る料理。表現の幅を広げるためにいろいろなテクニックを散りばめながら、理に適った調理法で仕立てられたコース料理の一部をご紹介します。
生ハムと同じ製法で限りなく生に近い状態に仕上げた牛もも肉を使った、前菜の「十勝ハーブ牛のタルタル」。肉にマヨネーズを合わせる北欧スタイルで、牛肉にはスモークをかけて、マヨネーズはかつおぶしで風味付け。ヨーグルトを3時間以上かけて炒めて作るクランブルで酸味とカリカリ感を加え、ハーブをトッピング。かつてのレギュラーメニューで、現在はリクエストに応じて提供される裏メニュー。