
「強い個性のデザートで最後までたっぷり満足していただくよりも、『ああ、またYamaに食べに来たいな』と感じるような、儚いデザートが僕の理想です。それがコース料理でのデザートの役割だと思っています」と、あくまでデザートも、コースのひと品。パティシエとしてではなく、「Yama」というレストランのシェフとして「お客様は、料理を食べに来られる」ということを、勝俣さんはつねに意識しています。
アーティストのように、「この料理を食べてほしい」と迫るのではなく、お客さまにとって「Yamaはどんな店であってほしいのか」ということを考え、お客さまに寄り添いながらレストランが成長していくことを、勝俣さんは望んでいます。
「そういった姿勢は、前職でお世話になった『sola』のオーナーシェフ(吉武)広樹さん(現在は、福岡『Sola Factory co.』)の影響だと思います。『リラックスして、自由な発想のレストランにしよう』『働いている自分たちが楽しまないと』ということを広樹さんは、いつも言っていました。じつは、“儚いレストランデザート”も、もともとは、広樹さんが『また来たいなと思えるデザートを』というリクエストに応えることで、気づけたものでもあります」
レストランは「料理人の人生を表現する場所」
もうひとつ、コース料理には、料理に合わせたワインペアリングのほか、ハーブのアンフュージョン(ハーブティー)を合わせるノンアルコールペアリングがあります。使用するハーブは、ほぼ国産。さらに、アカマツやクロモジの葉、クマヤナギやメグスリの木など、そのほとんどは、生まれ故郷・山梨にいる友人の平野優太氏の「HERB STAND Presented By MY HERBS」で育ったものです。
ハーブのアンフュージョンは、ひと皿ごとに配合を変えて、その場で煎れる。たとえば、この日の「山のアミューズ」に合わせたのは、アカマツとクロモジの葉で煎れた、香り高いアンフュージョンでした。
肉料理に合わせるのは、ローズ系が中心。上の写真のアンフュージョンは、ローズ(こちらは島根県産)にメグスリ、紅茶、ソバから抽出したもの。赤ワインに似た色合いが美しく映えます。
「店名の『Yama』は、尊敬する『sola』(空)とのつながりを込めています。ほかにも、頂を目指す山など、たくさんの意味を込めているなかで、もうひとつ、僕の故郷である山梨の意味も込めています。地元の山梨や周辺の県の食材を使っていきたいとも思っています」
勝俣さんは、レストランを「料理人の人生を表現する場所」だと言います。その通り、Yamaには、店名や料理、飲み物、器に至るまで、故郷を出て、国内外で働いてきた勝俣さんの人とのつながりが見えてきます。
「『sola』の後、オーストラリアに1年半ほどいました。メルボルンとシドニーのレストランで働きましたが、キッチンスタッフは全員国籍がバラバラ。生活習慣も宗教も違う中で仕事をしていたわけですが、なぜか僕だけがイライラしていることにふと気が付いたんです。そのとき、自分の意思を貫くのではなく、多様性を認め合わなければ世界では働けないことを知り、それから相手のことを認められるようになりました」
こうした多様性を尊重できる経験を得たことが、多様な食材で構成される「山のアミューズ」やハーブのアンフュージョンといった「Yama」らしいサービスを生み出すことにつながったのかもしれません。「Yama」が、「パティシエなのになぜ料理を作るのか」という疑問は、多様性のなかで個の表現が求められる時代を生きる勝俣さんからの、ひとつの問いかけなのかもしれません。
カウンター6席の小さなレストラン。店内は、過度な装飾もなく、落ち着いた雰囲気のなか食事を楽しむことができます。恵比寿駅から徒歩8分ほど。