特集記事

フランス料理「Yama」

レストラン
2020年03月19日

レストランでのパティシエの経験が長い勝俣孝一さんが、デザートコースと料理のコースを出すという2面性をもったレストラン「Yama」を恵比寿にオープンさせたのは、2019年7月のことです。「ミシュラン一つ星の元シェフパティシエが独立する」という話題性もあって、食通の間ですぐに噂になりました。当初は、木曜と金曜の午後に出されるデザートコース「小さなデザート」に注目が集まりましたが、パティシエ出身らしい繊細な料理が食べる者の心を掴み、今では夜のディナーを目当ての常連客でにぎわっています。

「強い個性のデザートで最後までたっぷり満足していただくよりも、『ああ、またYamaに食べに来たいな』と感じるような、儚いデザートが僕の理想です。それがコース料理でのデザートの役割だと思っています」と、あくまでデザートも、コースのひと品。パティシエとしてではなく、「Yama」というレストランのシェフとして「お客様は、料理を食べに来られる」ということを、勝俣さんはつねに意識しています。

アーティストのように、「この料理を食べてほしい」と迫るのではなく、お客さまにとって「Yamaはどんな店であってほしいのか」ということを考え、お客さまに寄り添いながらレストランが成長していくことを、勝俣さんは望んでいます。

「そういった姿勢は、前職でお世話になった『sola』のオーナーシェフ(吉武)広樹さん(現在は、福岡『Sola Factory co.』)の影響だと思います。『リラックスして、自由な発想のレストランにしよう』『働いている自分たちが楽しまないと』ということを広樹さんは、いつも言っていました。じつは、“儚いレストランデザート”も、もともとは、広樹さんが『また来たいなと思えるデザートを』というリクエストに応えることで、気づけたものでもあります」

レストランは「料理人の人生を表現する場所」

もうひとつ、コース料理には、料理に合わせたワインペアリングのほか、ハーブのアンフュージョン(ハーブティー)を合わせるノンアルコールペアリングがあります。使用するハーブは、ほぼ国産。さらに、アカマツやクロモジの葉、クマヤナギやメグスリの木など、そのほとんどは、生まれ故郷・山梨にいる友人の平野優太氏の「HERB STAND Presented By MY HERBS」で育ったものです。

ハーブのアンフュージョンは、ひと皿ごとに配合を変えて、その場で煎れる。たとえば、この日の「山のアミューズ」に合わせたのは、アカマツとクロモジの葉で煎れた、香り高いアンフュージョンでした。

肉料理に合わせるのは、ローズ系が中心。上の写真のアンフュージョンは、ローズ(こちらは島根県産)にメグスリ、紅茶、ソバから抽出したもの。赤ワインに似た色合いが美しく映えます。

 

「店名の『Yama』は、尊敬する『sola』(空)とのつながりを込めています。ほかにも、頂を目指す山など、たくさんの意味を込めているなかで、もうひとつ、僕の故郷である山梨の意味も込めています。地元の山梨や周辺の県の食材を使っていきたいとも思っています」

勝俣さんは、レストランを「料理人の人生を表現する場所」だと言います。その通り、Yamaには、店名や料理、飲み物、器に至るまで、故郷を出て、国内外で働いてきた勝俣さんの人とのつながりが見えてきます。

「『sola』の後、オーストラリアに1年半ほどいました。メルボルンとシドニーのレストランで働きましたが、キッチンスタッフは全員国籍がバラバラ。生活習慣も宗教も違う中で仕事をしていたわけですが、なぜか僕だけがイライラしていることにふと気が付いたんです。そのとき、自分の意思を貫くのではなく、多様性を認め合わなければ世界では働けないことを知り、それから相手のことを認められるようになりました」

こうした多様性を尊重できる経験を得たことが、多様な食材で構成される「山のアミューズ」やハーブのアンフュージョンといった「Yama」らしいサービスを生み出すことにつながったのかもしれません。「Yama」が、「パティシエなのになぜ料理を作るのか」という疑問は、多様性のなかで個の表現が求められる時代を生きる勝俣さんからの、ひとつの問いかけなのかもしれません。

カウンター6席の小さなレストラン。店内は、過度な装飾もなく、落ち着いた雰囲気のなか食事を楽しむことができます。恵比寿駅から徒歩8分ほど。

 

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撮影/大平正美 取材・文/江六前一郎

Yamaの詳細情報

店名 Yama
電話番号 03-6456-2971
URL https://www.instagram.com/yama.ebisu
住所
東京都渋谷区恵比寿1-26-19 B1F 店舗2
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営業時間 ランチ12:00~、ディナー19:00~
コース料理のみ12500円、
ワインペアリング8500円、
ティーペアリング1600円、
デザートコース「小さなデザート」3500円
15:00~(木・金のみ)
日曜休み、ほか不定期に月2日休
※2020年3月現在
※時期によって変動あり
ジャンル フランス料理、デザートバー

勝俣孝一さんのプロフィール

1985年、山梨県富士吉田市生まれ。エコール辻東京を卒業後、名古屋「マリオットアソシアホテル」や、南青山「アンカシェット」(現在は閉店)、丸の内「ビストロ ランプラント」を経て、30歳の年に渡仏。パリのミシュランガイド一つ星「Sola」のシェフパティシエを務める。さらに、オーストラリアでも経験を積み帰国。2019年7月に恵比寿「山」で独立を果たした。

Instagram:@yama.ebisu