第五回は、企業やメディアのレシピ開発から、広告やCMでの仕事まで、多岐にわたって活躍中の黄川田としえさん。メイクアップアーティスト、料理番組ディレクターを経て、料理家になられた異色の経歴の持ち主。お仕事の幅を広げるコツや、自分らしい世界観の作り方など、お話をお伺いしました。
求められたことに自分らしいプラスアルファを加える
目の前のひとつひとつの仕事が次に繋がるという黄川田さん。また一緒に仕事をしたいと思ってもらうためには、クライアントが何を求めているのかをしっかり理解し、自分だったら何が提案できるのかということを心がけているそうです。広告などのお仕事だと間に代理店が入りますが、その場合も何度もやりとりをして、意見のすり合わせを徹底していると言います。
「人と人との付き合いなので、ただメニュー提案するだけではなくて、自分らしいスパイスを伝えたいと思っています。たとえば、苦手な野菜を子どもに食べてもらうメニュー提案だったら、野菜を小さく切るとか混ぜ込むとか隠して食べさせるレシピよりも、野菜って美味しい、野菜を食べることができたと感じてもらえるようなレシピを提案したいなと思っています。そのために、自分の子育ての経験を生かし、作る人も、食べる子どもも喜んでくれるようなレシピを作っていきたいですね」
売れっ子の黄川田さんですが、過去には途中で逃げ出したくなるほど追い込まれたこともあったそうです。この経験から、どんなことがあっても投げ出さないことの大切さを学びました。
「昔、いったん引き受けたものの、何度もダメ出しをもらって、精神的に追い込まれたお仕事があったんです。でも途中で降りられないし、やるしかない状況。泣きながらも、一方でもともと体育会系だったからか、負けたくないという気持ちも出てきて、なんとかやり遂げました。これ以来、何でもできるって自信がついて、いろんな仕事に対応できるようになりました。クライアントからのダメ出しも、本当にいいものを作るためだから当たり前なんだと気づけたし、今ではあの時途中で辞めなくてよかったなと心から感謝しています」
自分らしい世界観は、ルールにとらわれず、好きなものを追求してきたから
オシャレで簡単で美味しいレシピと、料理をさらに豊かに彩ってくれる素敵なスタイリングが黄川田さんの持ち味ですが、どのように自身の世界観を構築してきたのでしょうか?
「私自身としては、自分らしさって何だろうって、いまだに模索しているところもあるのですが、周りに聞くと私っぽい、すぐわかると言われることが多いですね。料理もスタイリングも誰かにきちんと教わったことはなくて、全部独学なんです。この仕事を始めるまで、フードスタイリスト という職業があることさえ知らなかったくらいなんです(笑)。でも逆に、ルールを知らないからこそ、自分らしい世界観が出せているんじゃないかなと思っています」
アトリエのインテリアも黄川田さんらしいカラーでまとめられている。ピンクの壁紙は、メキシコの建築家、ルイス・バラガンに影響を受けたそう。