特集記事

カレーで切り拓いた、自分だけの道

インタビュー
2019年11月21日

初めてのレシピ本を出版したり、レストランをオープンしたり。食に関わる仕事でひとつの夢を叶え、ターニングポイントに立った話題の料理家や食に関わる職業の方へのインタビューをお届けする新連載。「何かはじめたい」という思いを持った人へ、一歩踏み出すためのヒントに溢れています。

「もっと自由でいい」。そんな想いを込めた初のレシピ本。

さて、2018年の「kitchen and CURRY」発足後、ウェブディレクターに続いて人事の仕事もやめて、カレー活動に専念し始めた阿部さん。縁あって、2019年に初めてのレシピ本を上梓します。『スパイスでおいしくなる and CURRYのカレーレッスン』。基本的なスパイスや具材を解説し、おすすめのサイドディッシュやサラダなどもフォローした丁寧な作りの一冊です。カレーは5つのカテゴリーごとに5種、全部で25種。「本当は、レシピ数をもっと多くした方がいいのでは、という意見も出たのですが」というなかで、あえてレシピ数を絞ったのには、こんな理由がありました。
「私、実はカレーを作り始める前までぜんぜん料理ができなかったんです。みそ汁すら作れなくて、母に電話で作り方を聞くくらい(笑)。だから、料理ができない人の気持ちがよく分かる。料理初心者はいきなり50種類のレシピを見せられても、作りきれずかえってストレスになってしまうと思うんです。だったら数を減らして、繰り返し作れて自分でもアレンジしやすいものだけにしようと」。5つのカテゴリーの分け方を、「シンプル」「ほっこり」「ちょっと大人」など、感覚的にしたのも、肩肘張らずに作って欲しいという願いの表れでした。「自分自身、会社員だった頃は『~しなければ』といろいろなことに縛られていました。それが、カレーを作ることで『もっと自由でいいんだ』と思えるようになった。そんな解放感を、この本を手に取ることで、日々忙しく張り詰めている女性たちにも味わってもらえたらと思っています」


『スパイスでおいしくなる and CURRYのカレーレッスン』(立東舎)¥1,500。カレーに欠かせない基本スパイスからスタメン食材、その切り方まで、カレー作りのワザを優しく伝授。阿部さんの想いが綴られたエッセイもグッとくる。

 

かくして精力的に活動し続ける阿部さんですが、2019年の終わりから4月頃まで、いったんお休みに入る予定です。
「実は1月末に出産を控えていて……、落ち着くまで流しもキッチン開放日も小休止します。でも、やりたいことはいろいろあって。例えば、妊娠してから1日の栄養素を計算してみたら、意外と足りていないビタミンがたくさんあると分かったんです。そこから、野菜や果物のことを改めて学びたいと思うようになりました。ひとり暮らしや少人数の家族だとたくさんの種類の野菜を一度に摂るのは難しいですが、そこでもカレーが助けになるかもしれません。今度は、野菜や果物に焦点を当てたレシピ本を作ってみたい。これからも、おもしろいカレーを作っていきたいです」
飽くなきカレーへの愛を胸に、阿部さんの挑戦はまだまだ続きそうです。


スパイスは、ホールのままか、粉砕してパウダーにして使う。「パウダーも粗め、細かく、など大きさによって香りが変わります。ブレンダーで自分で調整しながら挽いています」。この型のものが使いやすく、「流し」営業にも必ず持っていく。

カレーに欠かせない玉ねぎは、兵庫県淡路島の、阿万吹上産のもの。海水の塩気も利用して育てられた玉ねぎは甘みが強く、炒めるほどうまみも濃くなる。

『からだにおいしい 野菜の便利帳』(板木利隆著、高橋書店)は、栄養素や味わいの特徴、保存の仕方、簡単なレシピまで、100種以上の野菜やきのこ、穀物のことが詳細に分かる一冊。何かと頼りになる参考書として手もとに置いている。
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撮影/津留崎徹花 取材・文/新田草子

阿部由希奈

1984年大阪府出身。カレー料理人、「and CURRY」主宰。2015年から間借りのカレー店を始め、その後流しのカレー屋として活動。2018年にカレーの拠点 として「kitchen and CURRY」を立ち上げる。ももこと晋作の愛猫が登場するインスタグラム(@yukinaa.m)も人気。