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初対面で相手の心をつかむ方法

スキルアップ
2019年01月22日
料理教室に通ってきてくれる生徒はもちろんのこと、出版社やテレビ局などのメディアに対する営業を行ったり、企業とのコラボレート企画に携わったりと、フリーの料理家といっても仕事をする上で初対面の人と話す場面は避けられません。その場で相手から「この人と一緒に仕事をしたい」「この先生に習ってみたい」「この人の話をもっと聞きたい」と思ってもらえるには、どんなことが大事なのでしょうか?

人の印象は最初の1秒で決まってしまう


「多くの人は、初対面で人と対話する際に“何を話そう?”ということから考えますね。でもこれではダメ。というのも、人間が最初に他者の印象として認識するのは言語ではなく視覚情報なのです」と言うのは、パフォーマンス学者の佐藤綾子さん。
「アメリカのティモシー・ウィルソンという心理学者の研究によると、人の脳というのは1秒で14,000もの情報を視覚から受け取って認識しているといいます。一方で話すスピードはといえば1分間で平均266.5文字。1秒で得られる視覚情報と1分で得られる言語情報の違いを見れば、視覚情報がいかに早く、そして多く処理されているかがわかります。初めて訪れたクライアントのオフィスで、“まぁ、素敵なオフィスですね”なんて言っている間に、相手はあなたをジャッジしてしまっているのです」。
つまり第一印象のうちの最初の一瞬で、ほとんどすべてが決まってしまうという衝撃的な事実!
「その後も脳は情報をキャッチし続けるのですが、脳だって肉体の一部ですから疲れてくるし、さらに一度認識したものを修正することを嫌いますから、後からどんなに取り繕っても、最初に認識した情報をなかなか塗り変えてはくれないのです」と、最初の数秒の大切さを教えてくれました。
「10分話せば、たとえ第一印象でマイナスポイントを与えたとしても取り戻せるかもしれません。ですが、まずはそんな無駄な10分を過ごすことのないように心がける方が有意義かと思いますよ」

ナチュラルな表情筋の動きが、人の心を捉える


さて、話を元に戻します。初対面での印象を決めてしまう貴重なその1秒を、どう振る舞えばいいのでしょうか?
「『好意の総計』と呼ばれる実験があります。これは、同じモデルが服装などといった情報を変えることなく『ありがとう』『どうぞ』『どうも』などという言葉を、声と顔の表情を変えて口にして、それを言われた相手がどのように感じるかを数値化するという内容です。これはアメリカの心理学者マレービアンという人が行なった実験なのですが、私も同じ実験を日本で行なったところ、日本人では『顔の表情』が印象の決め手となったと答えた人が60%、『声』が決め手となった人が32%という結果が出ました。残りの8%は言葉と考えられるわけですが、ここでは同じ言葉しか発していないので、結果、声よりも表情が人の印象を左右するということがわかったのです」。
では、具体的にはどんな表情を浮かべると効果があるのでしょうか。
「一番大事なのは、ナチュラルに表情筋が動いていることです。人は動いている表情に着目しますから、動きがあるということはとても大事。でもその動きが不自然な動きであっては逆に不信感を招きますから、自然な動きでなくてはならないんです」。
表情を出そうと思った時点で、もうすでに不自然になってしまいそう。一体どうすればいいのでしょうか。そんな悩みに佐藤さんがこう答えてくれました。
「遠回りと感じるかもしれませんが、楽しくハッピーになれることを考えるのがいちばん。“今日会う生徒さんとは、きっと楽しい時間が過ごせるな!”、“これから会うお仕事相手の人、絶対友達になれそうな気がする”、“いいビジネスになりそうでワクワクする!”……などと、心をポジティブな状態にしておくと、自然と表情筋がいい動きをしてくれるようになるのです」。

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撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

お話を聞いた人:佐藤綾子さん(博士・パフォーマンス学)
1969年信州大学教育学部卒業、上智大学大学院、ニューヨーク大学大学院修了。日本におけるパフォーマンス学の第一人者として活躍。ハリウッド大学院大学教授、博士(パフォーマンス学・心理学)、国際パフォーマンス研究所代表。日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。「自分を伝える自己表現」をテーマにした著書は180冊以上、累計315万部を超える。