SHIORIさんに聞く、セルフプロデュースの極意 【好感度アップコラム】

ソーシャルメディア(SNS)の発達のおかげで、今や誰でも料理家として自由に発信できるようになりましたが、だからこそライバルと自分の差別化を図るのが難しい時代とも言えます。自分の特徴を打ち出し、多くの人に共感してもらうにはどのようにすればいいのでしょうか。22歳で初の料理本を出版し、現在ではシリーズ累計370万部を超えるロングセラーに成長した「彼ごはん」の作者であり、今も進化を続けるSHIORIさんに、自分の価値を打ち出す方法を伺いました。

2019年02月19日

コンセプトづくりとは、自分の思いを突き詰めること

短大を卒業する頃、就職活動にも失敗し、長年交際していた彼との突然の別れも重なって、将来への希望も生きる目標も見失った22歳のSHIORIさんの頭に浮かんだのは、“自分は料理を作ることが好き”という思い。それを仕事にすることで明日への一歩が開けるかもと考え、さらに掘り下げていった結果、 “初めて料理をする若い女の子のための料理本を作りたい”という思いがはっきりしたといいます。

「コンセプトとターゲットが明確になれば、行動すべきことは少しずつ見えてくると思うんです。私の場合は、自分と同じ世代の、料理をしたことのない若い女性たちがターゲット。彼女たちが、自然に料理を楽しむライフスタイルを定着させるにはどうしたらいいか? ただそれだけのことについて徹底的に考えたんです」。

今でこそ人気料理家となったSHIORIさんですが、当時、 “どんなふうに人と自分を差別化しようか”と考えたのではなく、ひたすら自分の思いを突き詰めた結果が、幸いなことに確固たるオリジナリティーの確立へとつながっていったのでした。

リスクの中にこそ、チャンスが隠れている

「若い女性料理家による若い女性のための本」というコンセプトがあったため、“22歳までに出版する”ということに大いに意味があると考えたSHIORIさん。まずはフードコーディネーターになるため、膨大な数のスクールのなかから指導理念や授業内容、卒業生の活躍などをリサーチし、ここだと思える学校に入学します。週末の授業のかたわら、売れ筋レシピ本を研究するため、毎日のように書店に通っていました。

「学校で学ぶにつれ、無名の新人がいきなり出版をするのは難しいことがわかりました。なので、まずは雑誌で実績を積もうと考えました」。

SHIORIさんが最初に門を叩いたのは、ファッション誌の編集部。

「私のターゲットは、料理雑誌じゃなくてファッション誌を読んでいるような女の子だと考え、いつも愛読しているファッション誌にアプローチしました」。

愛読誌の編集部に加え、人気ファッション誌と言われる編集部に片っ端から手紙を送ったけれど、なしのつぶて。けれどその営業活動から1年ほど経った頃、売り込み先の編集部担当者から突然、連載の話がきました。そしてこれを足がかりにして、また別のファッション誌にも売り込みを行い、いくつもの現場経験を重ねたところで念願だった書籍の売り込みを開始しました。

「ファッション誌は毎号料理企画があるわけでもなく、確率は低いかもしれません。たくさん断られもしました。でも当時の私はこれしかないと思ったんです。最近、多くの人がリスクを避けてうまく成功したいと望んでいるように感じるのですが、みんなが避けて通るところということは、もしかしたらチャンスがあるかもしれないと思うんです。“隙間を狙いなさい”は尊敬する師匠の口癖。すでに確立されたジャンルのなかで“ナンバーワン”を目指すより、オンリーワンを目指すことにしました」。

読者が本当に求めている情報は何かを考える

その後、最初の料理本を出すにあたっては、出版社の担当者からのアドバイスで当時大隆盛を極めていたブログを始めました。それも、たった1ヶ月半で料理ブログ1位に。そのときの成功をSHIORIさんはこう振り返ります。

「タイトルはもちろん、“作ってあげたい彼ごはん”。当時の料理ブログは主婦の方によるものが多かったので、結果的にこのタイトルが目を引いたのだと思います。さらに、料理に興味のない女の子にも読んでもらうため、当時流行っていた料理のアップ写真ではなく、あえてテーブルクロスや食器などのスタイリングも楽しめるような、引いて撮ったかわいい写真にこだわって投稿していました」。

もちろんレシピにもこだわりが。

「当時はとにかく短い工程のレシピが流行っていて、簡単なら簡単なほどいい、という風潮があったんです。でも、それでは初めて料理を作る女の子には説明不足だと感じました。私のレシピでは初めて料理を作る女の子が絶対に失敗しないように、しつこいぐらい細かく手順を書くように努めました」。

ここで気づくのは、SHIORIさんは自らのセルフプロデュースというよりも、徹底的にターゲットの趣味嗜好、要望について考えていたことです。しかも、それらに無理な背伸びがなく、実体験からくる等身大のリアルな目線が強みとなりました。これらを自分なりにとことん考察した結果、ブログは短期間で奇跡的な伸びを見せることができ、結果として自分の売りはこれだと示すことができました。

「SNSやブログでは誰でも情報発信はできますが、読者がいなければ意味がありませんよね。もちろんすぐに結果が出るものではないのですが、もし半年間毎日更新しているのに読者がつかないとしたら、それは厳しいようですが独りよがりな発信になっている可能性が高いんじゃないかと、一度立ち止まって考えた方がいいと思います」。

自分が想定した読者にどんなニーズがあるのか、その人たちにとって有益な情報になっているか、実際に作ってみたいと思える工夫をしているか、ひとつひとつ検証してみたほうがいい、とSHIORIさんは言います。

「同世代の女性が彼のために作る料理」のイメージ戦略

書籍ではさらに、当時4人分で算出されることが一般的だったレシピの「材料欄」を、カップルのための料理だからと、2人分で計算して紹介することにこだわりました。また、季節や地域に関係なくどこでも買える食材を使用することも重要でした。

「初めて料理を作る女の子に、成功体験を味わってほしかったんです。そのためにはこれまでの料理本の概念には囚われず、新しいスタイルを取り込もうと思いました」。

さらに同世代の女性によるレシピだということを明確にするため、すべて表紙には自分が登場することにしました。「恋する女の子の気分にフィットするよう、ヘアメイクやファッションもほんわかした雰囲気にしました。当時、実際の私に会ったファンの人は、想像以上にちゃきちゃきしている私にみなさん、驚いていました(笑)」

露出のタイミングや打ち出し方をコントロールする

“彼ごはん”シリーズが大ヒットすると、他の出版社から声がかかるようになりましたが、3~4年間はそれらの仕事をすべて断っていたそうです。それも、結果的には自己のブランディングにつながった、とSHIORIさん。

「もともとは、“彼ごはん”シリーズの出版を決めてくださった最初の出版社にご恩返しをしたいという気持ちからでした。そのおかげで、年に2冊のペースで計画的にていねいに本を作ることができ、読者の皆さんにもいつも新刊を待ち望んでいただけたと思います。もしもあの時、声をかけていただくままに仕事をお受けしていたら、ひとつひとつにじっくり取り組めなかったばかりか、売れ行きが分散して信頼を失っていたかもしれない、と今では思います。4~5年経ったころから、他の出版社からも本を出し始めましたが、A社は一人暮らしをテーマに、B社はお弁当をテーマに、というように、出版社ごとにコンセプトを分けるようにしていました。おかげでどの出版社とも気兼ねなくいいお仕事ができたように思います」。

チャンスをしっかりつかむことも大切ですが、自己のブランディングや仕事のキャパシティー、さらには仁義までを考え、受けたい仕事が来た時にもぐっと我慢していたというSHIORIさん。ここにも、セルフプロデュースの極意が垣間見られます。

「彼ごはん」を卒業した先の新たなテーマ

ところがSHIORIさんはその後、27歳でスランプを迎えました。その理由は、ご自身の結婚。

「独身女性の私が同じ目線で紹介する、独身女性のための料理がコンセプトだったのに、その私が主婦になってしまったんです。この先、何を打ち出していけばいいのか、かなり悩みましたね」。

改めて自分を振り返った時、“このスランプは自分の料理への自信のなさからくるものだ”と気づいたSHIORIさん。気分転換も兼ね、海外の料理学校に短期留学をすることにしました。

「それまでの私が“彼ごはん”で紹介してきたものも、ごく一般的な家庭料理でした。でも世界の料理を学ぶなかで改めて、私が伝えたいのは、食べてホッとするような、毎日食べたくなる家庭料理だと改めて気づいたんです」。

“彼ごはん”の次のステージを求めて出た旅で、新たな“伝えたいもの”を見つけたSHIORIさん。その頃から作る料理にも変化が出てきました。

「時短・簡単料理だけでなく、これからは日常的な家庭料理にこだわりながらも、“今まで食べた中でいちばん美味しい!”と感動してもらえるレベルの家庭の味を生み出していきたいと考えるようになりました」

出版、メディア出演、料理教室、海外研修、店…。複数の柱が支え合う

現在は、年に2~3カ国、長いときは数カ月にわたる海外研修に出かけ、日本にいるときは料理教室と出版、そしてメディア出演をこなすSHIORIさん。さらに2017年には、100%ヴィーガンのファラフェルの店「Ballon」をオープンさせました。

「すべてが相乗効果を生み出していると思います。レシピ本を出版しても、他のレシピとどう違うのかはなかなか伝えきれませんが、料理教室というリアルな場があることで、実際に生徒さんに食べて納得してもらえます。一方、料理教室だけではお伝えできる人の数は限られてしまうので、そんな時に出版やメディアの力は絶大な効果があります。しかし、一気にさまざまなお仕事が動くので、自分が出て発信する機会も大切ですが、メディアでの露出は自分ですべてをコントロールするのは難しいもの。浮き沈みもあるし、想像外に悪い出方をしてしまうと悪影響もあるので、メディアだけに頼ってしまうのではなくいくつかの柱を常に持っておくことが大切だと思います」。

ファラフェルの店も、SHIORIさんにとっては新しい軸になっていると言います。

「海外研修先のフランスで、人々がとてもナチュラルに、おしゃれでおいしいヴィーガンフードを食べていることに感動し、このライフスタイルを日本にも定着させたいと思ったんです。振り返れば、それまで10年間“彼ごはん”で男子の胃袋を研究してきた自分だからこそ、男子受けするヴィーガン料理を作れれば日本でも浸透するはず!と一念発起し、挑戦を決めました。結果、小さなショップを地道に始めたここでの活動がもうひとつの軸となり、企業のメニュー開発でヴィーガン料理を依頼されることがとても増えました。こう考えると、複数の軸を持つことで救われてきた部分は多いと思いますが、最初から狙ってやったことは一度もないんです。逆に、狙ってやっていたとしたら、“ダメだ。全然成功しない”と思って早々に諦めていたかもしれません。大事なのは、どうしてもこれを伝えたいという情熱だと思います。時間・お金・労力、すべてを犠牲にする覚悟で伝えたいものは何なのか、それこそがその人の使命であり、それをいかにきちんと伝えるかを考えることが、結果的にセルフプロデュースにつながるのではないでしょうか」。

撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

お話を聞いた人:SHIORIさん(料理家)

代表作『作ってあげたい彼ごはん』をはじめ、著書累計400万部を超える。和食や世界各国で学んだ家庭料理を得意とし、料理教室『l’atelier de SHIORI』を主宰。中目黒で100%VEGANでサステナブルなファラフェルスタンド『Ballon』を経営する。

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