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SHIORIさんに学ぶイメージ戦略

スキルアップ
2019年02月19日
ソーシャルメディア(SNS)の発達のおかげで、今や誰でも料理家として自由に発信できるようになりましたが、だからこそライバルと自分の差別化を図るのが難しい時代とも言えます。自分の特徴を打ち出し、多くの人に共感してもらうにはどのようにすればいいのでしょうか。22歳で初の料理本を出版し、現在ではシリーズ累計370万部を超えるロングセラーに成長した「彼ごはん」の作者であり、今も進化を続けるSHIORIさんに、自分の価値を打ち出す方法を伺いました。

「ファッション誌は毎号料理企画があるわけでもなく、確率は低いかもしれません。たくさん断られもしました。でも当時の私はこれしかないと思ったんです。最近、多くの人がリスクを避けてうまく成功したいと望んでいるように感じるのですが、みんなが避けて通るところということは、もしかしたらチャンスがあるかもしれないと思うんです。“隙間を狙いなさい”は尊敬する師匠の口癖。すでに確立されたジャンルのなかで“ナンバーワン”を目指すより、オンリーワンを目指すことにしました」。

読者が本当に求めている情報は何かを考える

その後、最初の料理本を出すにあたっては、出版社の担当者からのアドバイスで当時大隆盛を極めていたブログを始めました。それも、たった1ヶ月半で料理ブログ1位に。そのときの成功をSHIORIさんはこう振り返ります。
「タイトルはもちろん、“作ってあげたい彼ごはん”。当時の料理ブログは主婦の方によるものが多かったので、結果的にこのタイトルが目を引いたのだと思います。さらに、料理に興味のない女の子にも読んでもらうため、当時流行っていた料理のアップ写真ではなく、あえてテーブルクロスや食器などのスタイリングも楽しめるような、引いて撮ったかわいい写真にこだわって投稿していました」。
もちろんレシピにもこだわりが。
「当時はとにかく短い工程のレシピが流行っていて、簡単なら簡単なほどいい、という風潮があったんです。でも、それでは初めて料理を作る女の子には説明不足だと感じました。私のレシピでは初めて料理を作る女の子が絶対に失敗しないように、しつこいぐらい細かく手順を書くように努めました」。
ここで気づくのは、SHIORIさんは自らのセルフプロデュースというよりも、徹底的にターゲットの趣味嗜好、要望について考えていたことです。しかも、それらに無理な背伸びがなく、実体験からくる等身大のリアルな目線が強みとなりました。これらを自分なりにとことん考察した結果、ブログは短期間で奇跡的な伸びを見せることができ、結果として自分の売りはこれだと示すことができました。
「SNSやブログでは誰でも情報発信はできますが、読者がいなければ意味がありませんよね。もちろんすぐに結果が出るものではないのですが、もし半年間毎日更新しているのに読者がつかないとしたら、それは厳しいようですが独りよがりな発信になっている可能性が高いんじゃないかと、一度立ち止まって考えた方がいいと思います」。
自分が想定した読者にどんなニーズがあるのか、その人たちにとって有益な情報になっているか、実際に作ってみたいと思える工夫をしているか、ひとつひとつ検証してみたほうがいい、とSHIORIさんは言います。

「同世代の女性が彼のために作る料理」のイメージ戦略

書籍ではさらに、当時4人分で算出されることが一般的だったレシピの「材料欄」を、カップルのための料理だからと、2人分で計算して紹介することにこだわりました。また、季節や地域に関係なくどこでも買える食材を使用することも重要でした。
「初めて料理を作る女の子に、成功体験を味わってほしかったんです。そのためにはこれまでの料理本の概念には囚われず、新しいスタイルを取り込もうと思いました」。

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撮影/山下みどり 取材・文/吉野ユリ子

お話を聞いた人:SHIORIさん(料理家)

代表作『作ってあげたい彼ごはん』をはじめ、著書累計400万部を超える。和食や世界各国で学んだ家庭料理を得意とし、料理教室『l’atelier de SHIORI』を主宰。中目黒で100%VEGANでサステナブルなファラフェルスタンド『Ballon』を経営する。