料理家 枝元なほみさん ~私の駆け出し時代~

料理家 枝元なほみさん ~私の駆け出し時代~

 

劇団員を経て料理家となり、テレビや雑誌などさまざまなメディアで活躍する枝元なほみさん。講演やイベントなどでたくさんの人たちと過ごす時間を大切にして、私たち目線の作りやすくて親しみやすいレシピを提供し続けています。温かさのなかにパワフルさを併せ持ち、独創的なのに毎日食べたくなるホッとするおいしさを生み出す枝元さんの、料理家としての道のりについて聞きました。

2018年04月12日

何も知らずに入った料理の世界

料理家 枝元なほみさん ~私の駆け出し時代~

大学ではアメリカ文学を専攻し、卒業後は劇団で芝居をしていたという枝元さん。料理とは無縁の世界にいたものの、子どもの頃からモノ作りが好きで、生活のためにと選んだアルバイト先は無国籍レストラン。劇団でも賄いやイベントでの料理を担当するなど、知らず知らずのうちに料理の世界へと導かれていました。

「初めて自分の名前で料理の仕事をしたのは、32歳のとき。女性週刊誌の料理撮影でした。アルバイト先のレストランで一緒に働いていた女の子がライターもやっていて、その仕事を紹介してくれたんです。私は料理の学校には行ったことがなくて、どうやったら料理家になれるかを教わったことも考えたこともなくて、その仕事も何にも知らないでやっちゃったんだけどできちゃった(笑)」

気負わない姿勢がうまくいったのか、やはり才能があったのか、最初の仕事をきちんとこなして信頼を得た枝元さんは、次にレギュラーのページを任されます。

「一カ月分の料理カレンダーっていう企画で、週刊誌大の4ページ分に30日分の料理を載せるから、写真はすごく小さかったんです。それから徐々にほかの仕事ももらうようになって、ラッキーなことにそのまんま続いちゃって。働いていたお店でもお菓子はあまり作ったことがなかったから『初めて作ってみたんですけど食べますか?』っていって試食してもらって、OKだったらオーダーしてもらうっていう感じでした。今考えてみるとすごい度胸ですよね(笑)」

トライ&エラーで経験を積む

料理は独学。その分、自分で考え、解決しながらやってきたという枝元さんは、料理学校に行かなかった自己流の料理法をこう分析します。

「学校に行くと『うまくいく方法』っていうのを習うんだと思うの。成功道とでもいいのかな。でも、私はそれを習っていないので、しょっちゅう失敗していたから『これをやったら失敗する』っていうことだけがわかるの。失敗すると手痛いから、じゃあどうやったら失敗しないんだろうって考える。『道』じゃなくて視野が広がったのが、良かったと思う。いや、良かったり悪かったりかも知れないけどね(笑)」

料理学校とは違う形で、食べ物への造詣を深めていった枝元さん。劇団ではたびたび海外公演があり、さまざまな国の食べ物に触れる機会があったといいます。また、アルバイトをしていたレストランでの経験も、料理家としての枝元さんの基礎を形作るひとつとなっているようです。

「小さい無国籍のレストランだったけど、一緒に働いていた人がどこかに旅行に行くと、怪しげなスパイスをお土産に買ってきてくれたりするの。サフランとかベニバナだけじゃなくて、『アマゾンの干魚』みたいな、無理無理! 使えない!って、ものもあったりして(笑)。今から30年以上前のことだけど、お店には既にフレッシュのパクチーとレモングラスとバイマックルーがありました。知らない食材ばかりだったから、ひとつひとつ匂いを嗅いだり味見したりしながら料理に使っていました」

自分の料理をどんな形で仕事にする?

流れに身を任せる形で料理家になった枝元さんですが、キャリアを重ねた今、料理家になりそれを続けていくには、受け身の姿勢では難しいと話します。

「どういうイメージをもって料理家になりたいかにもよるけれど、自分の仕事っていうのがどういうもので、何のためにそれをやって、どうやってお金に換えていくのかまで考えていかないと、料理を仕事にはできないと思うの。昔だったら学校に行ったらなれるとか、あの先生に師事したらなれるとか、決まった道もあったかもしれないけれど、今は誰かに教わったり他人の成功体験を真似したりしてもダメかもなって、思うの。私がこの仕事を始めたころはまだバブルの余韻もあったから、料理本や雑誌が続々と出版されていたけど、今はレシピならネットでいくらでもタダで探せるし、これまでイメージされてきた料理家や料理研究家の仕事は、プロとしてお金になる形では減っていくかもしれないよね」

機械や人工知能の発達で、ありとあらゆる仕事がなくなるとささやかれる今、料理家の仕事も変化していくはず。そのなかで料理家になるには、自分の仕事を俯瞰で見つめ、どんな仕事をどう作っていくかと、考えることも、多岐に渡る仕事のうちだと枝元さん。

「雑誌やテレビのための料理撮影はこの仕事の『華の時間』だなって思うの。例えて言えば仕事全体の20%くらいかしら。残りの80%は、『ああ~メニューどうしよう』って考え続けて試作して買い物して準備して……。撮影のあとも片付けして布巾洗って干して掃除してレシピ書いて、悩んでまた夜中に作ってみたり。なんていうか肉体労働だなあ、って思います。だから料理家っていう仕事をテレビ画面の中なんかで『微笑みながら料理している人』っていうイメージを持つと、その理想の姿と現実のギャップに驚くんじゃないかなあ。
私、『夢を持って』っていうのをあんまり信じないんです。だって夢だけでは続かないもの。遠いところに理想を置くんじゃなくて、その時々にすることの中に楽しさを見出せないと続かない気がするの。お皿洗いとか、淡々と野菜を切ることの中にいろんな形の楽しみを発見で来ないと嫌になっちゃう」

決まった道がないということは、それだけ多くの人に成功への扉が開いているともいえるかもしれません。チャンスは平等。枝元さんは、自分がやっていることのなかに面白いと思うこと、そして自分ができることを見つけていくのがいいとアドバイスします。

「私が提案するのは家庭料理。いろいろな人のいろいろなキッチンで実際に作ってもらえたら嬉しい。料理を作ることで、元気になったり悩みを忘れたり、おいしく作れて『自分てすごい!』なんて自信を持って笑ってもらいたいの。料理で人と繋がれるって、なんていい仕事についちゃったんだろう!って、大根を刻んだりしながら私はいつも思ってる。どんな仕事だって、仕事となると大変だから、好きなだけじゃやっていけないけれど、でも絶対に好きじゃなければ続かないんだと思う。人に『食べて』っていうのは、その人に『生きて』っていうことと同じだと思うからね」

食を通じてたくさんの人とつながる

現在、枝元さんは料理家としての仕事のかたわら、農業支援を目的とした「チームむかご」を立ち上げて活動をしています。自分が毎日食べている食べ物についてもっとよく知りたい、深く考えたいという思いで、日本の食の現状と向き合っています。

「今は種子法廃止の問題に取り組んでいます。なぜそれが必要かというと、良質な種が農家にきちんと行き渡らなくなったら離農する人が増えるし、人がプライドを持って作ったものが食べられなくなるかもしれない。利益を優先した、工場型農業で作られた食べ物しか子どもに残せない未来なんて本当に嫌だもの」

自分の活動を通じて、食に関わる人たちと交流することで料理を作るだけでなく、未来の食についていろいろな人と一緒に考えていきたいと、枝元さんは笑顔で語ってくれました。

撮影/平松唯加子  取材・文/江原裕子

枝元なほみ
横浜生まれ。大学卒業後、無国籍レストランで働きながら劇団「転形劇場」にて役者として活動。1987年に料理家としてデビュー後は、テレビ、ラジオ、雑誌などで幅広く活躍。また、社団法人「チームむかご」を設立し、農業生産者のサポートも行っている。近著に『エダモンの 今日から子どもおかず名人』(白泉社)、『具だくさんでおいしい食べるスープ』(世界文化社)、漫画家・西原理恵子さんとの共著『おかん飯 3 てんこもり編』(毎日新聞出版)などがある。

共著を含め、90年代のはじめから数々のレシピ本を出版。作る人のことを考えて提案されるレシピは、作りやすさとおいしさを両立し、多くの読者たちの食卓を陰から支えてきた。子ども向けのテレビ番組に出演していたことから、子ども向けレシピ本も多数。


液体調味料を入れたいいちこボトル。キッチンスタジオでの撮影のときに、大きさが揃っていて持っていきやすかったのが使い始めたきっかけ。計量スプーンで液体の量を量るときにも使い勝手が良く、ガラス瓶だから火のそばに置いておいても危なくないので、ご自宅でも長く愛用している。


手に取ったときのぬくもりや不揃いの形が好きというウッドの食器や調理器具たちの多くは、海外で買い求めたもの。そんな中、数少ない日本製のアイテムが、一生モノとして愛用しているのが埼玉・川越「そうび木のアトリエ」の「ごまあたり器」(左奥)。すり鉢のような溝がないゴマすり器で、お手入れも簡単。

 


枝元さんが本気を出して作ったオリジナルのドレッシング。見た目が規格外で捨てられてしまうおいしい有機野菜を使い、一般的な市販のドレッシングよりもはるかに手を掛けて丁寧に作った自信作。「にんじんドレッシング」「たまねぎドレッシング」の2種類で、チームむかごのHPなどで購入可能。


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