
「雑誌やテレビのための料理撮影はこの仕事の『華の時間』だなって思うの。例えて言えば仕事全体の20%くらいかしら。残りの80%は、『ああ~メニューどうしよう』って考え続けて試作して買い物して準備して……。撮影のあとも片付けして布巾洗って干して掃除してレシピ書いて、悩んでまた夜中に作ってみたり。なんていうか肉体労働だなあ、って思います。だから料理家っていう仕事をテレビ画面の中なんかで『微笑みながら料理している人』っていうイメージを持つと、その理想の姿と現実のギャップに驚くんじゃないかなあ。
私、『夢を持って』っていうのをあんまり信じないんです。だって夢だけでは続かないもの。遠いところに理想を置くんじゃなくて、その時々にすることの中に楽しさを見出せないと続かない気がするの。お皿洗いとか、淡々と野菜を切ることの中にいろんな形の楽しみを発見で来ないと嫌になっちゃう」
決まった道がないということは、それだけ多くの人に成功への扉が開いているともいえるかもしれません。チャンスは平等。枝元さんは、自分がやっていることのなかに面白いと思うこと、そして自分ができることを見つけていくのがいいとアドバイスします。
「私が提案するのは家庭料理。いろいろな人のいろいろなキッチンで実際に作ってもらえたら嬉しい。料理を作ることで、元気になったり悩みを忘れたり、おいしく作れて『自分てすごい!』なんて自信を持って笑ってもらいたいの。料理で人と繋がれるって、なんていい仕事についちゃったんだろう!って、大根を刻んだりしながら私はいつも思ってる。どんな仕事だって、仕事となると大変だから、好きなだけじゃやっていけないけれど、でも絶対に好きじゃなければ続かないんだと思う。人に『食べて』っていうのは、その人に『生きて』っていうことと同じだと思うからね」
食を通じてたくさんの人とつながる
現在、枝元さんは料理家としての仕事のかたわら、農業支援を目的とした「チームむかご」を立ち上げて活動をしています。自分が毎日食べている食べ物についてもっとよく知りたい、深く考えたいという思いで、日本の食の現状と向き合っています。
「今は種子法廃止の問題に取り組んでいます。なぜそれが必要かというと、良質な種が農家にきちんと行き渡らなくなったら離農する人が増えるし、人がプライドを持って作ったものが食べられなくなるかもしれない。利益を優先した、工場型農業で作られた食べ物しか子どもに残せない未来なんて本当に嫌だもの」
自分の活動を通じて、食に関わる人たちと交流することで料理を作るだけでなく、未来の食についていろいろな人と一緒に考えていきたいと、枝元さんは笑顔で語ってくれました。