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少女小説と同時発売されたデビュー作

インタビュー
2019年02月14日
お菓子研究家として、スイーツやデザートのレシピ本のほか、料理やラッピング、エッセイ、絵本など、個性的かつバラエティ豊かな書籍を手掛けている福田里香さん。料理家の枠に収まらないそのユニークな活動履歴について、たっぷりお話を聞きました。 >>あの人気料理家も登場! これまでの記事はこちら

おいしいものと本が好きだった子ども時代


目で感じ、舌で味わう食の幸せ。そんな食べ物との触れ合い方を教えてくれる福田さん。ハッとするような食材選びやその組み合わせで、世の食いしん坊たちを魅了しています。
幼少期から食べ物に興味を持ち、初めて買ってもらった高価なおもちゃは、システムキッチンを再現した「ママレンジ」。付属のミニフライパンで加熱調理ができるこのクッキングトイでホットケーキを焼き、やがて本格的なオーブンでお菓子作りをしていたそうです。ひとくちに食べ物といっても、とりわけ惹かれていたのはマンガ、絵本、小説、さらには音楽など、創作物に出てくるお菓子や料理。そして、初めて抱いた将来の夢は、マンガ家になることでした。
「でも、その夢は小学生のときに断念。イラストは描けるのに、ストーリーが作れないんです。10代前半は、少女マンガ家がデビューする年代。その時点で湯水のように物語が思い浮かばない私は、マンガ家には向いていないと悟りました」

大学入学を機に、生まれ育った福岡から上京。そして在学中、卒業生でフードコーディネーターのハギワラトシコさんが主宰するケータリング会社『CUEL(キュール)』の活動を知り、美大出身者の食とのかかわり方に感銘を受け、子どもの頃から好きだった食とアートを結びつけるようになったそうです。
卒業後は、老舗果物専門店「新宿高野(以下:高野)」に就職。30歳で独立するまで、会社員として勤務しました。福田さんが在籍していた頃の同店は、ファッションや雑貨の扱いもあり、最初の1年間は雑貨売り場を経験。
「仕入れや商品開発もやらせてもらい、オリジナルのハーブティーを企画して、パッケージを考えたりしました。2年目に販売促進部に異動し、ディスプレイのプランニングやカタログ制作などを担当。雑誌『装苑』(文化出版局)で料理スタイリストの堀井和子さんの『シンプリシティ・イン・ニューヨーク』という連載が始まったのが就職した頃で、堀井さんのようなお仕事がしたいなと思うようになりました」
『シンプリシティ・イン・ニューヨーク』は、ニューヨークで暮らしていた堀井さんが、アメリカで愛されているパンやお菓子を、センスのいい写真と文章で紹介したエッセイ。当時の日本人には斬新で洗練された料理の数々に、多くの女性たちが影響を受けました。

親友がくれたチャンス。それを掴むベースはできていた。


では、福田さんはどのようにして、堀井さんのように、センスのいい切り口で料理を紹介するプロフェッショナルになったのでしょうか?
福田さんの料理家としてのデビュー作は、大学時代の同級生で、少女小説や児童文学を手掛ける作家・小林深雪さんの『キッチンへおいでよ』(講談社/1993年初版発行)。小林さんの小説に出てくるお菓子のレシピとエッセイを収めた1冊で、福田さんは小林さんと共同でレシピ制作とスタイリング、編集を担当しました。
「高野を辞めた頃で、小林さんが “少女小説の中にお菓子が出てくると、子どもたちの反応がすごくいいの。だから、お菓子作りの本が今、読者に望まれていると思う”と言うので、“じゃあ、私が絵コンテを切るよ”って、3時間くらいで80ページの本の構成案を作ったんです。それを、小林さんが在籍していたレーベルのあった講談社に提出してくれて、1週間後には出版が決まりました」
このとき、『恋のキッチンへおいでよ』(講談社)というタイトルで、小林さんの少女小説も同時発売。福田さんが初めてレシピを手掛けた本も、同じ小さな文庫サイズで制作されることに。
「それは小林さんのリクエスト。“実用書のサイズで作って料理本コーナーに置かれても、書店で私のファンが探せないから”って。ハードカバーのしっかりした料理本を想像していた私からすると、「えーっ!?」って(笑)。でもそれが正解で、『キッチンへおいでよ』のセールスは約60万部。一番届けたい“小林さんの小学生のファンの女の子” にちゃんと届いたんですね。内容だけじゃなくて本のサイズやデザイン、書店での売り方まできちんと考えることが、とても大事なことだと学びました」

本の装丁を担当したデザイナーの茂木隆行さんも、大学時代のクラスメート。元同級生3人で手掛けたこのプロジェクトは、大学時代のクラスの課題のように楽しかったそうです。1994年には、続編の『ランチはいかが』(講談社)を発売。福田さんは、友人だった小林さんのおかげで、チャンスがつかめたと振り返ります。
「レシピを考えるときにお皿や背景もイメージできるので、ビジュアル面も手掛けていますが、それが思い浮かばなければスタイリストさんにお任せすればいいし、写真が撮れるなら自分で撮影してもいい。どれができるから優れていてできないから劣っているというわけではありません。だから本作りに限らず、誰かと組んでチームを作って活動するのは、とても有意義だと思います。それと、同族嫌悪が強すぎるのは控えた方がいい。自分と似ている人は気になるもので、もし自分が歌手の宇多田ヒカルさんと同年代で同じ歌手を目指していたら、彼女の存在にもやもやするかもしれないけれど、それには縛られすぎない方がいいですね。ひとの才能をやっかむ暇があるなら、その人と組んでなにか楽しいことがやれないかと、プランを練るほうが建設的です」

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撮影/平松唯加子 取材・文/江原裕子

福田里香(フクダ リカ)
菓子研究家。福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部芸能デザイン学科(現・空間演出デザイン学科)卒業後、老舗果物専門店・新宿高野に勤務。独立後は、書籍や雑誌を中心に、イベントなどでも幅広く活躍。最新刊は民藝運動にまつわる88のお菓子を紹介した『民芸お菓子』(Discover Japan)。名作マンガをイメージしたお菓子のレシピとエッセイを収めた『まんがキッチン』(アスペクト/文春文庫)、マンガやアニメ、映画、ドラマなどの食のシーンの法則を綴ったエッセイ集『ゴロツキはいつも食卓を襲う フード理論とステレオタイプフード50』(太田出版)など、著書多数。

2018年に出版した4冊のうちの3タイトルがこちら。左から、撮影スケジュールを決めず、主役の野菜が一番いい状態の日に料理し、福田さんがiPhoneで撮影まで手掛けたレシピ本『新しいサラダ』(KADOKAWA)。いちじく好きが高じて作った『いちじく好きのためのレシピ~ジャムにケーキ、焼き菓子、それからサラダやお肉と合わせる料理まで』(文化出版局)。インタビューでも紹介した、マンガ家の雲田はるこさんとの共著『R先生のおやつ』(文藝春秋)。

1994年に同時発売された初の著書、『お菓子の手帖』『果物の手帖』(ともにソニー・マガジンズ、現エムオン・エンタテインメント)は、思い出深いタイトル。「本ができた後、当時、東急百貨店東横店にあった(高級キッチン用品専門店の)ウィリアムズ・ソノマに売り込みに行ったんです。取り扱いにはサンフランシスコ本部の許可が必要で、見本誌を送ったらOKが出て、ウィリアムズ・ソノマの料理本と並んで店頭に置かれました。自分で行動するのは大事です」

20年以上愛用しているという「チェリーピッター」。ジャムなどの空き瓶にセットしてレバーを押すと、種だけが瓶の中に落ちる仕組み。果汁が飛び散ることなく使い勝手は抜群だそう。生のさくらんぼをたっぷり使う、チェリーパイやジャム作りの必需品です。