
日本料理は世界の最高峰。伝承者としての使命を果たす
現在は、料理人として調理場に立つだけでなく、調理師学校などで若手の育成に貢献したり、給食を通じて子どもたちの食育に携わったりと、日本料理と日本文化を守り、受け継ぐ活動に情熱を傾けている奥田さん。農林水産省から、「日本食普及の親善大使」にも任命されています。
「日本料理というのは、単に皿の上にのったもののことだけではないわけです。店構えや設いといった建築や調度品、地方や作り手によって味わいが異なる器、お客様をお迎えする日本人の精神、季節の食材を映し出す日本の風景、料理の味を左右する水やその水で仕込む日本酒。そういった伝統や風習、文化を総合したものが日本料理なわけです。僕は、日本料理は世界に誇るべき日本の文化で、世界最高峰の料理だと考えています」
「一方で、日本料理は出汁をひとつ取るにも手間がかかるなど、めんどうだということで、和食から遠ざかる家庭がどんどん増えています。また、日本料理は値段が高くて、かつマナーが難しく敷居が高いというイメージから、若い人たちの日本料理離れも進んでいます。こんな時代の流れを食い止めようと、僕ひとりくらい、世間と戦ってもいいのではないでしょうか」
元スポーツ少年の奥田さんにとって、生きることは勝負に挑むこと。世間からは成功者と認められている今でも、自身にとっては戦いの真っ最中とか。千本ノックの精神で、何度倒れても立ち上がるファイトがあるし、どん底からでも這い上がれると自分を信じているそうです。
50歳になる今でも、心にいるのはあの頃の野球少年
よく「天才は99%の努力と1%の才能」と言われます。「だったら1%の才能がない自分は、99%の努力を人の2倍も3倍もしてやろう」というのが奥田さんの考え方。そんな奥田さんにとって、「本物の天才の姿」を見せてくれたのが、『日本料理 龍吟』の山本征治さんでした。今から二十数年前の青年時代、共に同じ一冊に共鳴して、「青柳」主人の小山裕久さんの門下生となったふたりは、青年時代に同じ夢を持ち、共に語り合った親友同士。今でも深い親交が続いています。
「99%の努力では追いつけない、100%の才能と100%の努力を合わせ持っているのが山本征治という料理人です。スポーツの世界で育った僕は、何かあるたびに勝った、負けたと言いますが、山本征治の場合、勝敗を口にしたことがない。なぜなら誰にも負けるはずがないからです」
山本征治さん以上にすばらしい料理人に、これまで会ったことがないという奥田さん。自分より優れていることを素直に認める一方で、心の中で思い浮かべるのは、野球マンガ「キャプテン」(ちばあきお)の主人公・谷口キャプテンの姿です。「勝負の世界はおもしろいもので、たとえいっときは負けていても、諦めなければ勝機が訪れることもあるのです」
いつか山本征治さんに「奥ちゃん、すごい料理をつくるね」と言われる料理人になりたい。その日のために、奥田さんの“千本ノックな日々”は継続しています。