著書出版後に目指すのはおいしさの共有

インタビュー

おしゃれに見えて手軽に作れる。確実に味が決まる。そんな、誰もが求める再現性の高いお菓子や料理のレシピで定評のある料理家の若山曜子さん。子どもの頃からお菓子作りに触れ、フランスで技術とセンスを磨いた若山さんの、お菓子作りや料理に対する想いを聞きました。

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2018年12月13日

持ち続けたい読者目線

今では、製菓だけではなく料理の著作も多い若山さん。書店のレシピ本コーナーには、必ずといっていいほど若山さんの著作があり、しかも目立つ位置に置かれる人気タイトルばかり。毎年何冊ものレシピ本を出版する、人気と実力を兼ね備えた料理家であることは、誰もが認めるところです。

もともとレシピ本の熱心な読者だったこともあり、「こういう本があったらいいな」というのは常に考えているといいますが、ヒット作を次々に生み出せるのには他にも理由があるようです。

「初めて本を出した頃は、出せたらそれで満足でした。でも、何年も前に出版した本を今でも買って、作ってくれる人がいるのを知って、本を買ってもらった後のことを考えるようになりました。本にも命があって、出したら終わりではなくそれがスタート。記念に出したいだけなら、自費出版でいい。書店で並ぶ本は、実際に作って『おいしかった』とか『役に立った』と思ってもらわないと意味がないと思うんです」

会ったことのない読者が、なぜその本を買うのか。本作りにはその視点が不可欠であることを、本作りの経験を重ねるうちに強く認識するようになったといいます。

「私が出した最初の企画は、フライパンを使ったお菓子と市販品を使ったお菓子作り。どちらの出版社さんにも、『視点が面白い』と言われました。フランスで学んだなら、“フランス風の”とか“ハーブとスパイスで”というような、ちょっとこじゃれた企画の提案をすると思われていたようです」

出版社によると、持ち込まれる企画の多くは、「自分らしさ」を中心に考えられたもの。でも、個性を出そうと意識するあまり専門的な要素が増えると、購買層は小さくなります。専門性の高い内容であるほど、無名の料理家の本が選ばれるとは考えにくい。結果として、売り込みによる複雑なテーマの企画は、通るのが難しいようです。

「私はもともと、小難しい料理やお菓子は作るよりも買った方がいいと考えるタイプ。面倒くさがり屋ですし、難しいことはできません。いかに簡単でおいしく作れるか、そして家庭だからこそおいしくできるもの、そんなレシピの載った本を作りたいと思っていました」

手間ひまとおいしさを天秤にかける

2017年に出版したフライパンを使った2冊のレシピ本、「フライパンリゾット」(主婦と生活社)と「フライパンで作れる まあるいクッキーとタルトとケーキ」(ワニブックス)では、シンプルに思えるこの調理法の奥深さを知ったといいます。ひとくちにフライパンといっても材質、大きさ、底面積などに違いがあり、またキッチンがガスコンロかIHクッキングヒーターかも家庭によって異なります。さらに火加減も、人によって弱火・中火・強火の感覚が変わってくる。すべての読者が、異なる環境で調理することを想定したレシピや作り方を考えるのが、料理家の腕の見せ所なのです。

「本を見て、ちゃんと作れることが一番大切。だから、“作りやすい材料を使う”とか“作りやすい分量にする”ことを重視しています。私もフランス流の正しい作り方は知っていても、手間に見合った劇的な味の変化がない場合は、工程を省いたりもする。だから、プロのパティシエのレシピと料理家が本で提案するレシピは違います。手間ひまと味は、いつも秤にかけていますね」

本の企画やレシピは、本作りのプロである編集者やライターなどと知恵を出し合って作っているという若山さん。すべての製品作りと同じように、売れる傾向はあっても正解はありません。落としどころには毎回頭を悩ませ、試作を何度も重ねたうえで、ひとつひとつのレシピを完成させています。

「たとえば編集さんから、『メープルシロップをこんなにたくさん入れたら、材料代が高くなるから減らしてください』とアドバイスされたとします。でも、そのレシピでは、メープルシロップを減らすと味が変わってしまう。材料費を抑えて少し味の落ちるレシピを紹介するのがいいのか、『こんなにメープルシロップを使ったらすごくおいしくなりますよ』ということを伝えるのがいいのか…。ひとつ言えるのは、読者のことばかり考えて、納得のいかないレシピを出しても心残りになるということ。そんな本が売れなかったら、なおさら悲しいですし。ここは絶対!という自分の意思を持つことも大切だと思います」

自分のレシピ本を出版するには?

自分のレシピ本を出すことは、多くの料理家の夢。それを実現するためにどんなアクションを起こしたら目標に近づけるのか、若山さんにアドバイスをいただきました。

「まずは、おいしく作れたものをきちんと記録に残すこと。私は、記録用にブログを開設しました。それを見た夫から一眼レフカメラをプレゼントされ、自分の作ったお菓子や料理を自分で撮影するようになりました。そうすると、今度は客観的な視点が生まれ、作り方が変わってきたりする。今はSNSがあって、そこに写真をアップすれば、見た人の反応をすぐに受け取れます。それを繰り返すことで、みんなが欲しているもの、自分が得意なもの、その両方がわかるようになると思います」

こうして地ならしができたら、次は出版社にアプローチ。若山さんは、好きな本を出している出版社の、好きな本を作っている編集者に会いに行くことをすすめます。

「私が最初にアポイントをとった出版社は、好きなレシピ本をたくさん出している会社。お会いした編集長さんに『うちの本のどこが好きですか?』と聞かれて、持っていた本の名前を10冊くらい挙げて熱くお話したら、笑い出されて。全部、その方が担当された本だったんです。事前に調べたわけじゃなく、本当に偶然。まったく新人の私の本を出してくれたのには、それもあったのかなと思ったりもします。やっぱり、『あなたの本のこういうところ好きだから、自分もこんな本を出したい』と自分の想いを直接話すのが、一番伝わりますから」

一方で、人に紹介を頼むことは、あまりおすすめしないといいます。若山さんは本を出してすぐの頃、お菓子教室を開いている女性に頼まれ、編集者を紹介したことがありました。でも、企画が通らないばかりかダメ出しをされ、その女性はひどく落ち込んだそうです。それから3~4年後、同じ女性から「やっぱり本を出したい」と再び出版社への紹介を依頼され、それが本当に彼女のためになるのか、思い悩んでしまったそうです。

「私が知っている編集者さんをご紹介することで、彼女が本を出すチャンスをつぶしてしまうことになるかもしれないんです。企画と出版社、編集者には相性があります。私の本の中でも人気の高い『レモンのお菓子』(マイナビ出版)は、なかなか企画が通らなくて、3社目で決まったタイトル。だから、最初に会った編集者さんとその料理家さんがたまたまうまくいかなかっただけで、『自分はダメだ』と思ってしまうのはすごくもったいないこと。自分の好きな出版社に自分でアプローチするのが、最も仕事につながりやすい近道だと思います」

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撮影/大木慎太郎 取材・文/江原裕子

若山曜子(ワカヤマ ヨウコ)
製菓・料理研究家。東京外国語大学フランス語学科卒業後、パリへ留学。ル・コルドン・ブルーパリ、エコール・フェランディを経て、パティシエ、グラシエ、ショコラティエ、コンフィズールのフランス国家資格(C.A.P.)を取得。パリのパティスリーやレストランで研鑽を積み、帰国。現在は自宅での製菓・料理教室のほか、書籍の出版、雑誌やテレビ、企業へのレシピ提供など幅広く活躍している。

製菓から料理まで、数々のレシピ本を手掛け、そのどれにも思い入れがあるという若山さん。ここ最近で転機になったのが、2018年春に出版された『30分で3品!  毎日のふたりごはん』(家の光協会)(写真・右)。これまで1品料理のレシピ紹介が多かった若山さんが、初めて手掛けた献立本。「組み合わせでここまで提案できれば、自分もちゃんと料理家だなぁって(笑)。料理は学校ではなくフランスの家庭で普段のフランスの味を習ったくらいなのですが、納得できるレシピが紹介できたと思っています」


フランスの蚤の市で出合ったアンティークの食器類。自宅で日常に使用するほか、著書にもたびたび登場。ケーキスタンドやキッチンツールなども海外で見つけてくるものが多く、使いやすさと美しさを兼ね備えたものが好みだそう。


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