
「好きを貫ける時代」だからこそ、続けられることだけをする
「私の仕事は、『日本に古くから伝わる事を身を以て学び、変えなくて良い事と変えていくべき事を糧菓を通して自分なりに伝えていく事』です。だからそれ以外のことはしません」と溝口さん。SNSはInstagramしかやらないのも、SNSをすることが目的ではないから。発信が足りないようにも思えますが、これもブランディングの一つといえます。
「大切なのは、優先順位を決めることだと思っています。私の場合は、茶寮とここのつを守ること、お客様を裏切らないこと。糧菓の写真をアップするのは、写真撮影を禁止しているので、来ていただいたお客様に思い出していただいたり、新しく興味を持っていただく方にわくわく妄想していただきたいから。もちろん私が写真を撮るのが好きということもありますけどね(笑)」
もともとはパソコンも触ったことがなく、ITと無縁の生活でFacebookもTwitterも興味がなかった溝口さん。しかし、2014年頃にアメリカで話題だったInstagramを知り、「これだ!」と思ってすぐに反応したのは、好きな写真を活かせるものだったからだそうです。今では「息を吸うように投稿しています(笑)」というほど相性がよく、ここのつのアカウントも6万人以上のフォロワーがいます。溝口さんの写真の世界観に惹かれて、茶寮の予約をする人も多いとか。
「私にとっては、Instagramが合っていただけで、無理して使うことはないと思います。ですが、ここのつもSNSやインターネットのおかげで沢山の方に知っていただくことができました。私は、インターネットのおかげで『好きなことを貫かせてもらえた』とも思っています。ですから、SNSを使って何かをしたいと考えている方は、『好きで続けられること』を始めるといいと思います」
「好きなことを貫ける時代」だからこそ、好きなことを守るために優先順位をつけて取捨選択をしていく。純度の高い世界観が、溝口さんの茶寮の最大の魅力なのです。
2020年6月に小学館から刊行された陶作家・安藤雅信さんとの共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』。この本の制作中に「糧菓」という言葉が生まれた。
ここのつのInstagramでは、溝口さんが撮った写真に「#妄想写真家」のハッシュタグをつけて投稿している。「脳みそは使わないと死んでしまいます。それでは生きている意味がないじゃないですか」と、見る人が妄想して頭を使うような、想像力をかきたてる写真を意識して投稿している。沢山のカメラを所有しており、「気分や撮りたい写真によって変えてます」と溝口さん。