特集記事

菓子屋ここのつ 溝口実穂さん

インタビュー
2021年03月23日

料理人をはじめ、料理にまつわるスタイリストやフードコーディネーター、カメラマンなど、食を支えるクリエイターのインタビューをお届けする連載。料理への向き合い方、仕事観、読者のスキルアップのためのノウハウなど、食を支え、未来を描こうとする様々な職種の方々の料理に対する考えや思いを語ってもらいます。

「好きを貫ける時代」だからこそ、続けられることだけをする

「私の仕事は、『日本に古くから伝わる事を身を以て学び、変えなくて良い事と変えていくべき事を糧菓を通して自分なりに伝えていく事』です。だからそれ以外のことはしません」と溝口さん。SNSはInstagramしかやらないのも、SNSをすることが目的ではないから。発信が足りないようにも思えますが、これもブランディングの一つといえます。

「大切なのは、優先順位を決めることだと思っています。私の場合は、茶寮とここのつを守ること、お客様を裏切らないこと。糧菓の写真をアップするのは、写真撮影を禁止しているので、来ていただいたお客様に思い出していただいたり、新しく興味を持っていただく方にわくわく妄想していただきたいから。もちろん私が写真を撮るのが好きということもありますけどね(笑)」

もともとはパソコンも触ったことがなく、ITと無縁の生活でFacebookもTwitterも興味がなかった溝口さん。しかし、2014年頃にアメリカで話題だったInstagramを知り、「これだ!」と思ってすぐに反応したのは、好きな写真を活かせるものだったからだそうです。今では「息を吸うように投稿しています(笑)」というほど相性がよく、ここのつのアカウントも6万人以上のフォロワーがいます。溝口さんの写真の世界観に惹かれて、茶寮の予約をする人も多いとか。

「私にとっては、Instagramが合っていただけで、無理して使うことはないと思います。ですが、ここのつもSNSやインターネットのおかげで沢山の方に知っていただくことができました。私は、インターネットのおかげで『好きなことを貫かせてもらえた』とも思っています。ですから、SNSを使って何かをしたいと考えている方は、『好きで続けられること』を始めるといいと思います」

「好きなことを貫ける時代」だからこそ、好きなことを守るために優先順位をつけて取捨選択をしていく。純度の高い世界観が、溝口さんの茶寮の最大の魅力なのです。

2020年6月に小学館から刊行された陶作家・安藤雅信さんとの共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』。この本の制作中に「糧菓」という言葉が生まれた。

ここのつのInstagramでは、溝口さんが撮った写真に「#妄想写真家」のハッシュタグをつけて投稿している。「脳みそは使わないと死んでしまいます。それでは生きている意味がないじゃないですか」と、見る人が妄想して頭を使うような、想像力をかきたてる写真を意識して投稿している。沢山のカメラを所有しており、「気分や撮りたい写真によって変えてます」と溝口さん。

 

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撮影/大平正美 取材・文/江六前一郎

溝口実穂さん
1991年、埼玉県生まれ。幼い頃から祖母の影響で菓子作りに興味を持つ。食物栄養科の短期大で栄養学を学ぶ。東京と京都の和菓子屋に勤めた後、23歳で菓子と茶のコースを提供する完全予約制の茶寮「菓子屋ここのつ」を始める。2020年には初の共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』(安藤雅信・溝口実穂共著、小学館)を上梓した。

菓子屋ここのつ
住所:東京都台東区鳥越1-32-2
電話番号:非公開(問い合わせはe-mail:9mizoguchi@gmail.com)
営業時間:茶寮 昼の部:13:00~15:00、夜の部:17:00~19:00
定休日:不定休
Instagram:https://www.instagram.com/_____9__/
サイト:https://9-kokonotu.com/
※茶寮の予約などは、「菓子屋ここのつ」https://kokonotu.blogspot.com/をご確認ください。