
やがて、自分が食べるものを自分で獲りたいという思いから、狩猟免許と銃砲所持許可を1年半かけて取得します。カレーを学んだのも、インドはベジタリアンが多く、野菜料理が多かったから。マクロビオティックの学校に通い資格を取得し、カレーは香取薫氏の料理教室で学びました。事故後6年ほど。ようやく竹林さんにとっての身体に負担が少ない食事を見つけ始めたところで、その食生活を日常のことにするために仕事にできないか、とケータリングを始めます。
「ケータリングを始めてすぐ、料理学校で学んでいたわけではない私は、『おいしさ』を自分でジャッジすることに迷いがありました。おいしさの正解を知らずにいたのです。それでも自分には、『体に負担をかけない食事』というマクロビの軸があったのは大きかったと思います。そのなかで、私が感じるおいしさを丁寧に精一杯作ることで、その不安を拭うことができたと思います」
自分にできることしかやれない。無理せず等身大でいたい
化学調味料は使わず、カレーであればオイルは上質なものを。ジビエも加工処理場を持つ腕の良い狩猟仲間から送ってもらえる。テレビやCMの制作現場のケータリングをこなしながら、積極的に1000人単位の料理を作るイベントに出店するなど、竹林さんは活動を続けます。やがて、レンタルキッチンでは手狭になると、現在の喜多見駅前をケータリングの仕込み場所として借りるようになります。そして、「どうせなら友だちが来て飲んで帰れるような店になれば」と、なかば思いつきでbeet eatをオープンさせました。

調理法はシンプルに。鹿モモ肉のローストは、表面をフライパンで焼き固めたのち、オーブンへ。

調味料はできるだけ品質の良いものを。もちろん化学調味料は使わない。
「夢を叶えた、のかな?」と、竹林さんが疑問に感じてしまうのも、決して店を出すことを目指してカレーやジビエのケータリングを始めたわけではなかったからです。
「30歳で事故にあって、beet eatを開業するまでの10年間は自分を見つめ直す時間でした。私は、私がやってきたことしかできないし、好きなことしかできない。カッコつけることもできないから、無理せず等身大の自分でいたい。そうしていたら、まわりから『それっておもしろいよね』といわれるようになったんですよね」と笑います。
45歳になる2020年。「おもしろいことを続けていくために体力をつけたい」という竹林さんは、パーソナルトレーナーをつけたジムトレーニングを始め、さらに柔術に挑戦したいといいます。「体力がないと気力が衰え、思考にも影響します。そうすると味覚にも悪影響を及ぼしてしまうんです」。
「やりたいことがまだまだあって、年齢を理由に諦めたくないのが今。その分、周りのみなさんに迷惑をかけてしまうかもしれないのですが。新しいことを見たり学んだりしていたいと思っています」
竹林さんのように、自分にとって必要なことや、大事なものに真剣に向き合い、結果的にそれが「個性」と呼ばれるようになることもあります。自分が人生をかけて成し遂げたいことだけが「夢」ではなく、自分にとって必要なことや大事なものに向き合い突き進んでいくことで、後々それが自分にとっての「夢」なのかもしれないと気づくこともあるかもしれません。

夜のジビエコースのメイン「鹿モモ肉のロースト」。脂が少なく、さっぱりとした味わいで食べ疲れしない優しさがあります。付け合わせは、あまり食卓には上がらないブロッコリーの葉。こういった意外な旬の食材との出会いもbeet eatの魅力です。器は、弊サイトでも紹介したKeicondo氏のもの。

竹林さんの本棚から。左から久司道夫『The マクロビオティック』(マガジンハウス、2005年)、舟崎靖子・野田亜人画『おりょうりのもり』(小学館、1976年)、人見必大・島田勇雄訳注『本朝食鑑1』(平凡社、1976年)。

竹林さんが海外に行くと必ず買ってしまうというのが「木べら」。カレーを混ぜる際に、使いやすいものを探して購入しているといいます。今一番のお気に入りは、上から2番目と3番目のフランス製。握りやすくて疲れないからだそうです。