
「よく『料理の垣根はなくなった』といいますが、その垣根はしっかり作るべきだと僕は思います。それぞれの国の料理は根っこの部分でつながっていますが、それを理解したうえで垣根を越えたものが、その人の料理と呼べるかなと。僕にはまだその垣根はあって、中国の食材を使って中国本土で作る『中国料理』に対して、中国から本質的なものを輸入して日本の食材と調和させて作る僕の料理は『中華料理』。そんな僕の中華料理が壮大な歴史を持つ中国料理に少しでも近づいけていけたらと思っています」
細部まで行き渡るこだわりを、シンプルなアプローチで見せる
単音をつなげ、最終的にきれいなメロディに仕上げる感覚で生み出しているという「季節の食材のおまかせコース」は約15皿で¥20,000~23,000。「最高峰の中国料理があまり複雑でないように、一皿に盛る食材はおおよそ2~3品で多くても4品程度。油絵のような西洋料理に対して、中国料理は水墨画の世界です。複雑にする技術とシンプルに仕上げる技術、そのどちらにも魅力はありますが、中国料理の白と黒の水墨画の世界に少し洗練を加えるのが日本人は得意ですね。そんな研ぎ澄まされた日本料理の感覚を、中国料理で表現したいというのが僕の料理です」
コースの一品目の「青山緑水」は、台湾の郷土料理・茶油素麺が原型。玉露のだしに、極細の奈良の三輪(白髪)素麺を浮かべ、四川の青山緑水、京都の玉露のという2種類のお茶から搾ってできた色鮮やかな緑の油を垂らしています。夏は冷たく、冬は温かくして提供。「本来の中国料理では前菜を『開胃菜』といって胃を開くために味のついていない野菜が出てきたりする。そのイメージで、メインに向けて徐々に盛り上げていきます」
メインの「紅焼魚翅」は、ねぎ焼きフカヒレ。山東省で食されている中国しょうゆとカラメルで煮込んだナマコをフカヒレに変え、肉厚なフカヒレにうま味をたっぷりしみ込ませた贅沢な一皿です。