料理家を支えるクリエイターたち スタイリスト・佐々木カナコさん

スタイリストやフードコーディネーター、カメラマンなど、料理家を支えるクリエイターのインタビューをお届けする新連載が始まりました。聞いてみたのは、支える側から見た料理の世界のこと。売れている料理家とは、人を惹きつける料理とは?そんなヒントを垣間見ることができます。

2019年11月7日

「ふだんは裏方なので、こうやってお話しするのはあまり慣れていないのですが……」。そう遠慮しつつインタビューに応じてくれたのは、料理&インテリアスタイリストの佐々木カナコさん。器もクロスも一見何気ないセレクトながら、写真にすると料理の表情がぐっと引き立つ。そんな絶妙なコーディネートに、多くの料理家が信頼を寄せる存在です。

ふだんの仕事のスタイル。撮影で料理はしないので、エプロンは腰のところで前身頃を内側に折り、水などが跳ねやすい下半分を厚くして巻く。ベルトにはトルション(ふきん)を必ず挟んで。エプロンはパリのセレクトショップ「Merci」オリジナルの、麻製のものを愛用。

 

「料理家」黎明期を目にしてきた、アシスタント時代。

 佐々木さんがインテリアスタイリストのアシスタントとして働き始めたのは、1990年代。ライフスタイル誌の創刊が相次ぎ、料理の世界にも新しい波が生まれようとしているときでした。

「それまで雑誌では、有名店の料理人や料理学校の先生のレシピを紹介するのが主流で、一般にはあまりなじみがない料理も多かった。そこに、もっと身近でおいしい料理を作れる人を紹介しよう、という動きが出てきたんです」

その中心を担っていたのが、今も佐々木さんの〝心の師匠〟である先輩スタイリストの千葉美枝子さん。

「当時は編集者とスタイリスト、そのまわりの人々が一丸となって雑誌を作っていた。有元葉子さんなど、いまやカリスマと仰がれる料理家たちを無名のうちに見出して、いち早く編集者に紹介したのは千葉さんでした。『料理研究家』という言葉が生まれたのもこの頃だと思います」

親しみやすいけれど目新しくておいしいレシピはすぐに多くの女性の心をつかみ、メインストリームへと発展していきます。

「その頃から、料理に合わせる器の提案も変わり始めました。高価な古い染め付けやヨーロッパの一流ブランドではなく、シンプルで料理の世界観に沿うものを、スタイリストたちが徹底的に探して取り上げた。器ブームも、そういところからじわじわと始まったのでは」

その流れとも相まって、料理家はスタイリッシュな暮らしぶりでも注目される存在になっていきます。

「そのきっかけを作ったのもやはり千葉さんをはじめとするスタイリスト陣でした。ここから、おしゃれな料理家がどんどん登場してきた。同時に、料理家と編集者、カメラマン、デザイナー、スタイリストみんなで話し合いながらひとつの空間を作り上げるというスタイルが確立したのだと思います」

千葉美枝子さんが関わり、いまも参考書として大切にしている書籍。20年以上前のものもあるけれど、いまなお色あせない新鮮さ。左の藤野真紀子さんのレシピ本のシリーズは、イギリスやフランスで撮影を行ったことはもとより、料理家のポートレートを表紙に掲載したことが大きな反響を呼びました。

 

熱意ある料理家の仕事を、間近で見られる幸せ。

 先輩たちについて仕事をこなしながら、料理家という職業と、家庭料理ブームの走りを目の当たりにしてきた佐々木さん。その後独立し、20年以上にわたって多くの料理家たちとともに仕事をしてきました。

「熱意のある料理家さんとの仕事は本当に楽しいです。料理の話をきちんとしたいので、撮影で知った一品や、気になる料理家さんのレシピはできるだけ自分で作るようにしています。すると分かるのですが、売れている料理家さんのレシピはやっぱりおいしい。何より、再現性が高いんです。それだけ試行錯誤されているんですよね」

そうしたことを実感するたびに、「スタイリストは料理家さんの仕事を近くで見られて、おいしさを直に知ることができる幸せな立場」といい、こちらも良いコーディネートを提案しなければ、と気持ちを新たにするといいます。

「私は料理学校で働いていた母の影響もあって、食べることは根本的に大事だと思っているんです。食べることは生きることであって、すごくプリミティブ(原始的)な営み。それを忘れず、料理の力が伝わるスタイリングを心がけていきたいです」

食の後ろにあるストーリーも、大切にする。

そうしたスタイリングのヒントにしているものは?と尋ねると、「ヒントというわけではないのですが」と前置きをしつつ、長く手もとに置いているいくつかの本を教えてくれました。40年以上前に刊行され、世界中の料理を美しい写真で紹介した『世界の料理』シリーズ、江戸時代の食文化がよく分かる図が満載の『江戸あじわい図譜』。「参考書」と呼べそうな、質実剛健な面々です。

「本国ではこういうお皿の使い方をするんだ、とかこの調理器具にはこういう由来があるんだ、などと新しい発見がたくさんあります。スタイリストの仕事は、料理家の作った料理や作家の作品などを、自分を通して読者に伝えて行くこと。橋渡し役として、背景をきちんと学ぶことはやっぱり大切だと思っています」 

19601970年代にアメリカで刊行され、今なお人気の料理本シリーズ『タイムライフブックス 世界の料理』の日本版。「全27巻のうち、この『中東料理』編など数冊を持っています。料理そのものだけでなく、食を取り巻く文化が垣間見える。旅をしているかのように、刺激を受けられる本です」

 

右・『江戸あじわい図譜』(青蛙房)。江戸時代の民俗を記録した「守貞漫稿」を中心に江戸期の本を読み解き、わかりやすく解説した高橋幹夫著の「江戸図譜」シリーズの、〝食〟に焦点を当てた一冊。「私たちの生活に残っているものも多く出てきて、なるほどな、と思うことがたくさんあります」。左・箸のルーツや文化の変遷を考察した向井由紀子・橋本慶子著の『箸』(法政大学出版局)。「日本の箸文化の奥深さが改めて分かります」

 

江戸時代の印判ものも、日本の食にまつわる歴史を知るうちに、惹かれるようになったもののひとつ。

「印判は今でいう、スタンプのような手法。手描きよりも簡略で大量生産ができ、庶民が使う器でした。絵柄がずれていたりと全体に大味なこともありますが、そこにやさしい雰囲気がある。古伊万里の染付も好きですが、こういう食器がふだんの暮らしにはなじみますね。洋食器にもこの印判に似たような方法で作られたお皿があって、そうしたものもスタイリングによく使います」

益子の陶器市に出かけたときに見つけた、印判の平皿と浅鉢。素朴だけれど何を盛っても受け止めてくれる大らかさが魅力。「青い印判でここまで平らなものは珍しいし、自分も持っていないと思って購入しました」

 

忙しい時代だからこそ、改めて足もとを見つめたい。

奇をてらうことなく、ときには食文化の背景にも目を向けながら、料理が美しくおいしそうに見える空間を演出する。そうしたことを心がけ、スタイリストとして料理に関わり続けている佐々木さん。けれどここ数年、料理を取り巻く世界が急激に変わってきていると感じています。

「いまは忙しい時代なので、時短や手軽といったキーワードが人気。でも、ただ表面的に簡単にするだけでいいのかな……という思いもしています。たとえば同じ時短でも、基礎を踏まえている方のレシピは、ただ手軽なだけじゃないんですよね。はしょっていいところと省いてはいけない手順が整理されている。だから、炒めただけ、取り合わせただけのさりげない料理でもちゃんとおいしくて、香りも表情もすごくいい。出てきた瞬間においしそう、って分かります。『私も絶対これ作る!』って思わず言ってしまうくらい(笑)。ひと皿の料理で、人をそんなふうに幸せな気持ちにできる料理家さんは、やっぱりすごいな、といつも思います」

SNSでの発信が当たり前になり、料理家として活躍する場が多くの人に開かれている昨今。「だからこそ、見落とされがちな、ごく基本的なことが大事になるのかもしれませんね。ときには先達のやり方にも学びながら、自分が確実だと思えるやり方を積み重ねていく。地味だけれど、そうやって突き詰めることで見えてくるものがあるのではないでしょうか。私自身もそれを肝に銘じながら、これからもこの世界に携わっていきたいです」

道具の選び方も、プロに教わることがしばしば。どれも、使いやすくて丈夫。左の厚手の鍋は、料理家の坂田阿希子さんに教わって使い始めたアルミ製のもの。「厚手で熱伝導が良くて、大きさもひとり分の料理に便利なんです」。右の、鍋とセットになった小さな蒸籠は、料理家のワタナベマキさんが上手に使いこなしている様子をみて、自身も購入。

仕事に欠かせないのはこの3つ。トルション(布巾)は、吸収性の高い麻のものを。テーブルに植物を飾るスタイリングなどでも役立つはさみは、「絶対、鉄製のものが使いやすいです」。料理を整える箸も必需品。

撮影/津留崎徹花 取材・文/新田草子

佐々木カナコ

東京都出身、埼玉県在住。料理学校の講師をしていた母の影響もあって、食べ物に関わる仕事に。料理を中心に、多くの雑誌や書籍で暮らしまわりのスタイリングを手がける。

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