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スタイリストから見た料理の世界

インタビュー
2019年11月7日

スタイリストやフードコーディネーター、カメラマンなど、料理家を支えるクリエイターのインタビューをお届けする新連載が始まりました。聞いてみたのは、支える側から見た料理の世界のこと。売れている料理家とは、人を惹きつける料理とは?そんなヒントを垣間見ることができます。

食の後ろにあるストーリーも、大切にする。

そうしたスタイリングのヒントにしているものは?と尋ねると、「ヒントというわけではないのですが」と前置きをしつつ、長く手もとに置いているいくつかの本を教えてくれました。40年以上前に刊行され、世界中の料理を美しい写真で紹介した『世界の料理』シリーズ、江戸時代の食文化がよく分かる図が満載の『江戸あじわい図譜』。「参考書」と呼べそうな、質実剛健な面々です。

「本国ではこういうお皿の使い方をするんだ、とかこの調理器具にはこういう由来があるんだ、などと新しい発見がたくさんあります。スタイリストの仕事は、料理家の作った料理や作家の作品などを、自分を通して読者に伝えて行くこと。橋渡し役として、背景をきちんと学ぶことはやっぱり大切だと思っています」 

19601970年代にアメリカで刊行され、今なお人気の料理本シリーズ『タイムライフブックス 世界の料理』の日本版。「全27巻のうち、この『中東料理』編など数冊を持っています。料理そのものだけでなく、食を取り巻く文化が垣間見える。旅をしているかのように、刺激を受けられる本です」

 

右・『江戸あじわい図譜』(青蛙房)。江戸時代の民俗を記録した「守貞漫稿」を中心に江戸期の本を読み解き、わかりやすく解説した高橋幹夫著の「江戸図譜」シリーズの、〝食〟に焦点を当てた一冊。「私たちの生活に残っているものも多く出てきて、なるほどな、と思うことがたくさんあります」。左・箸のルーツや文化の変遷を考察した向井由紀子・橋本慶子著の『箸』(法政大学出版局)。「日本の箸文化の奥深さが改めて分かります」

 

江戸時代の印判ものも、日本の食にまつわる歴史を知るうちに、惹かれるようになったもののひとつ。

「印判は今でいう、スタンプのような手法。手描きよりも簡略で大量生産ができ、庶民が使う器でした。絵柄がずれていたりと全体に大味なこともありますが、そこにやさしい雰囲気がある。古伊万里の染付も好きですが、こういう食器がふだんの暮らしにはなじみますね。洋食器にもこの印判に似たような方法で作られたお皿があって、そうしたものもスタイリングによく使います」

益子の陶器市に出かけたときに見つけた、印判の平皿と浅鉢。素朴だけれど何を盛っても受け止めてくれる大らかさが魅力。「青い印判でここまで平らなものは珍しいし、自分も持っていないと思って購入しました」

 

忙しい時代だからこそ、改めて足もとを見つめたい。

奇をてらうことなく、ときには食文化の背景にも目を向けながら、料理が美しくおいしそうに見える空間を演出する。そうしたことを心がけ、スタイリストとして料理に関わり続けている佐々木さん。けれどここ数年、料理を取り巻く世界が急激に変わってきていると感じています。

「いまは忙しい時代なので、時短や手軽といったキーワードが人気。でも、ただ表面的に簡単にするだけでいいのかな……という思いもしています。たとえば同じ時短でも、基礎を踏まえている方のレシピは、ただ手軽なだけじゃないんですよね。はしょっていいところと省いてはいけない手順が整理されている。だから、炒めただけ、取り合わせただけのさりげない料理でもちゃんとおいしくて、香りも表情もすごくいい。出てきた瞬間においしそう、って分かります。『私も絶対これ作る!』って思わず言ってしまうくらい(笑)。ひと皿の料理で、人をそんなふうに幸せな気持ちにできる料理家さんは、やっぱりすごいな、といつも思います」

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撮影/津留崎徹花 取材・文/新田草子

佐々木カナコ

東京都出身、埼玉県在住。料理学校の講師をしていた母の影響もあって、食べ物に関わる仕事に。料理を中心に、多くの雑誌や書籍で暮らしまわりのスタイリングを手がける。