教室に一歩足を踏み入れたらそこは異空間、非日常の始まり
各国の大使館が点在し道ゆく人たちも国際色豊か、豪邸が立ち並ぶセレブリティの街、元麻布。そんな街に「料理教室ARNOアルノ」はあります。主宰の河井あゆみさんの涼やかな声に導かれて重厚な門扉を開けると、広々とした玄関ホールの先には美しくしつらえられたリビングルーム、その隣にはダイニングルーム。映画の中でしか見たことがないような外国の住宅を思わせる優雅で洗練されたインテリアに思わずうっとりしてしまいます。生徒が口々に「ここに来ること自体が非日常」「癒しの空間」と言うのも納得です。
しかし、ここはただおしゃれな空間で学ぶ料理教室であるというだけではありません。河井さんは、ごくごく普通の食材の組み合わせにちょっとしたアイディアを加えて、洗練された家庭料理に仕上げてしまいます。それがリピーターの絶えない教室になっている秘密のよう。今年2月には表参道教室ができましたが、今回の取材では、河井さんの世界観をたっぷり感じ取ることのできる元麻布教室のレッスンに伺いました。
おもてなし当日を彷彿とさせる手順、舞台裏も学べる
河井さんのレッスンはデモンストレーション形式で、前菜、メイン、デザートという3品を学びます。この日のメニューは、前菜に「春野菜のフリット ボッタルガとバジルマヨネーズ添え」、メインは「ロールキャベツのアクアパッツア風」、そしてデザートに「甘酒ミルクプリン 苺ソース」。ロールキャベツもフリットも、ミルクプリンも家庭料理の代表格。でも、河井さんはそこにイタリア料理で学んだ知識をプラス。旬をたっぷり味わえるおしゃれなひと皿に仕上げていきます。
レッスンは1品出来上がるごとに試食するスタイルで進められます。この日も前菜とメインの2品の調理を並行して進めながらも前菜をまず仕上げ、温かい、あるいは冷たい最適な状態で盛り付けてダイニンングルームへ運び、ワインなど飲み物を先生がサーブ、生徒全員で試食します。試食の間に先生はキッチンをざっと片付けてから生徒に声をかけ、ふたたびキッチンに全員集合。メインを仕上げて盛り付けて試食、最後のデザートを作ってから試食と食後のコーヒーまたはお茶タイムとなります。一品一品きちんと伝えることを大切にしているため、
また、レッスンで使う食材や調味料の計量と切り分けを河井さんはすべてその場で行うので、すべての塩梅がわかりやすく、自宅でも再現しやすいようです。
河井さんは忙しく手を動かしながらも笑顔を絶やさず、時には雑談を交えることも忘れません。「みなさんのお宅ではロールキャベツはどんな味付けにしますか?」「タイムは乾燥物でももちろんいいのですが、今日はフレッシュを使います。その理由は…」などなど次々と解説が加わっていくので、手元のレシピはたちまちメモでいっぱいに。
前菜の「春野菜のフリット ボッタルガとバジルマヨネーズ添え」は、この日はそら豆、グリーンアスパラガス、新玉ねぎ、こごみ、たらの芽という春の野菜5種類に炭酸水で溶いた衣をつけてカラッと揚げます。「ボッタルガとはからすみのことです。塩気があるから塩の代わりになりますよ。色も綺麗ですしね」。
メインの「ロールキャベツのアクアパッツア風」では、鶏ひき肉を巻いた春キャベツを、あさりとプチトマトを使ったアクアパッツア風スープで煮込むとやわらかく、あっさりとした仕上がりながらも旨味たっぷり、見た目におしゃれな一皿に。
「今回はお箸でも食べられるロールキャベツを作っていきます」というように、旬の食材の良さを生かした料理のゴールをしっかり説明していたのが印象的でした。
お待ちかねのデザートは、甘酒を使ったミルクプリン。「甘酒が苦手な方やお子さんでも食べられるミルクプリンです。フレッシュな苺を使ったソースの甘酸っぱさが甘酒の香りを和らげてくれますよ」。
ソースは電子レンジで仕上げていきますが、「実はこれがもっとも大事なコツ」というシーンではみんなの歓声が上がりました。
2つ目の教室を表参道にオープン
前述のように今年2月に表参道に新たに教室を開設。開講して9年目になる元麻布の教室では「一度も同じレシピを使ったことがない」という言葉からわかる通り、河井さんが提案したい料理、世界観をとことん表現する場。それに対し表参道教室では、「日頃あまり料理に馴染みのない方にも料理に馴染んでいただき、目新しさよりも“レシピの使い方”を知って普段の生活に生かしていただけるよう伝えていきたい」と考えているそうです。