30歳で渡仏 家庭最優先の料理家人生

インタビュー

フランスの家庭や伝統の味を、その魅力を保ったまま日本でも手軽に再現できるレシピに変換し、著書や料理教室を通じて伝え続ける料理家のサルボ恭子さん。フランス仕込みの洗練された手法と世界観は、女性のみならずワインや料理好きで意識の高い男性からも支持されています。そんなサルボさんが大切にしているモノ・コトから、センスの秘密を探ります。

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2019年03月13日

ライフワークは料理教室

料理業界の人に支持されたアートのような料理本を皮切りに、フレンチ、おつまみ、キッシュ、オーブン料理、スープ、お弁当に土鍋料理など、毎年さまざまな料理本を世に送り出してきたサルボさん。それでも、一番重視しているのは料理教室で、それがライフワークだと断言します。

「料理教室は、私の本を買ってくれる読者でもある生徒さんの声や表情に触れ、直接つながれる大事な場所。お伝えする料理で重視しているのは、まず味。そして、再現性が高いこと。生徒さんの環境はそれぞれ違いますし、使っている道具や調味料、火加減が違えば全然違う料理ができ上がっている可能性もある。だから、おいしいものをなるべく確実に作ってもらうためにはどうしたらいいかを、常に考えています」

多くの生徒が自宅で無理なく習った料理を再現できるようにするには、材料と作り方の両面でさまざまな工夫が必要。さらに、レッスン中はとにかくたくさんしゃべり、持っているノウハウや情報をできるだけ生徒に伝えるそう。レッスンに集中してもらうため、下ごしらえはすべてサルボさんが済ませておきます。

「料理教室で食材を切ることなどは、それほど大事だと思っていなくて。それは自宅でやってもらえばよくて、他人のキッチンで自分のものでない道具を使って作っても、上達はしません。だから、調理の山場のみ実習してもらって、最も大切なのは試食。レシピ通りに作ればこうなるという基準の味を知り、それをご自宅でどう再現してもらうかがポイントになります。手本の味をどう感じるか、“ちょっとスパイスが効きすぎているな”とか“私だったらもうちょっと塩を足すな”とか、そういったこともメモに書きとめて、自分のものにして欲しいんです。レッスンでは、私が知っていることはすべて伝え、あとは生徒さんがどう受け止めるか。私が教えるレシピは、あくまでひとつの基準値で見本でしかありません」

生徒にとって、習った料理を食べるのは本人とその先の家族や友人。

「“おいしい”の基準は人によって違いますし、同じ人でも体調やその前に何を食べたかによって変わる。私はなるべく無理なくおいしく作ってもらい、それで家族の時間が持てるお手伝いができたらと思っています。その提案の場所として、料理教室はすごく大切。本と料理教室でレシピ自体を変えてはいないのですが、本では文字数や入れられる写真点数にも限りがあるから、語り切れないことが多いんです」

料理を通じて、裏方として誰かの役に立ちたい

そんなサルボさんは、多くの人に支持される作りやすくておしゃれなレシピを、どのように生み出しているのでしょうか?

「私のレシピの作り方は、素材の味ひとつひとつがわかっていて、頭の中でそれを組み立てているだけ。小さい頃からいろいろなものを食べさせてもらった経験の積み重ねがあって、フランスでの経験もその一部。昔はけっこう食べ歩きをしましたが、最近は信頼している決まったお店にしか行かなくなりました。ヒントは日々の生活の中にあって、買物をしていて目についた食材を、別の食材と結び付けたり。あまり突拍子もないことは家庭料理には不自然なので、していません」

これまで料理家として営業活動をしたことは一切なく、すべてご縁でつながっているというサルボさん。料理の世界やメディアの人たちとのつながりよりも、子育てを通して出会った人たちとの付き合いの方が広く、深いようです。

「望んで料理家になったわけではなく、ご縁があって、やってみたらひとつずつできるようになって、今があります。料理家としてはレシピ本作りの仕事が多いですが、これも私がひとりでやっているわけではなく、プロが集まってするもの。たまたま私が著者で、本に名前が載る以上は責任を負う覚悟はありますが、カメラマンさんやスタイリストさん、編集さん、ライターさんがいなければ素敵な本は作れません」

自ら口下手だというサルボさんは、言葉ではなく行動で見せるタイプの料理家。全身全霊をかけている様子を周囲がくみ取り、次につながっていると感じるそうです。

「一人のときは、手の込んだ料理を作って食べたりはしていません。誰かに料理を作って、その人が“おいしい”っていう表情を浮かべたり、ほっとしてくれたりするような瞬間に、すごくやりがいを感じます。料理人としては、レストランならひとつの駒やスーシェフ(副料理長)のポジションが好き。アシスタントのときのように、先生がいて、料理教室なり撮影なりで自分が先回りすることで、うまく仕事が回ってみんなハッピーになるとことに充実感を覚えます。黒子の料理人として、素材と食べ手のことだけを考える。自分の料理を食べてもらってその人にプラスの感情を与えられることや、料理を介してみんなの力になれることが、何よりのモチベーションです」

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撮影/大木慎太郎 取材・文/江原裕子

サルボ恭子さん
料理家。東京生まれ。フレンチの料理家である叔母に師事し、2000年に渡仏。「ル・コルドン・ブルー・パリ」を経て、「オテル・ド・クリヨン」のメインダインニングのキッチンとパティスリーで研鑽を積む。帰国後、フリーの料理家アシスタントをしながら、自宅にて料理教室を主宰。2008年末に初の料理本『ストウブで作る フレンチの基本 MENU BOOK』(実業之日本社)を上梓。現在は、料理本の制作、W料理教室のほか、メディアや企業へのレシピ提案など、料理家として幅広く活動。著書に『夜9時からの 飲める ちょいメシ』(家の光協会)、『作りおき オードヴル』(朝日新聞出版)、『「ストウブ」だからおいしい、毎日レシピ』(河出書房新社)など多数。

https://www.instagram.com/kyokosalbot/

https://www.facebook.com/kyokosalbotofficial/

フランス料理をはじめ、幅広いジャンルのレシピ本を手掛けるサルボさん。左から、“塩、こしょう、水を除き材料は5つ以内”、“作り方は3ステップ”という、簡単でおもてなしにもなるフランス料理のレシピ本『いちばんやさしいシンプルフレンチ』(世界文化社)。前菜からメイン、スープ、デザートも紹介。『サルボ恭子のスープ』(東京書籍)は、スープストックを使わず、素材のうま味が溶け込む滋味にあふれたスープの教科書。『おかずは3品でOK! サルボさん家の毎日弁当』(講談社)は、食卓のおかずやおつまみにもなる全142のレシピ集。作り置きを活用しながら、負担になりがちなお弁当作りを無理なく続けられるルールと共に紹介。


1980年代、多くの少女たちを魅了した『赤毛のアンの手作り絵本1~3』(絶版)は、子どもの頃から今でもとても大切にしている特別な本。カナダのプリンスエドワード島・グリーンゲイブルスを舞台にした「赤毛のアン」のエピソードをモチーフに、ストーリーにちなんだ料理や手芸を教える手作り本です。「親族がこの本の料理を担当された城戸崎愛先生に料理を習っていて、私と妹の名前付きでサイン本をプレゼントしてくださって。アンの世界観や、物語に登場する料理やお菓子、刺繍などが大好きで、何度も何度もページをめくりました。ハードカバーで、中身もしっかりと丁寧に作られていて、本が全盛だった時代の書籍はすごくいいなぁと実感します」


スパイスやナッツ、ドライハーブなどの保存に愛用している、フランス・シャンパーニュ地方生まれの「ル・パルフェ」の密封ビン。実用的かつ、どんなキッチンにもなじむシンプルで美形なルックスで、フランスはもちろん今や世界中で愛されるロングセラー。


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