ライフワークは料理教室
料理業界の人に支持されたアートのような料理本を皮切りに、フレンチ、おつまみ、キッシュ、オーブン料理、スープ、お弁当に土鍋料理など、毎年さまざまな料理本を世に送り出してきたサルボさん。それでも、一番重視しているのは料理教室で、それがライフワークだと断言します。
「料理教室は、私の本を買ってくれる読者でもある生徒さんの声や表情に触れ、直接つながれる大事な場所。お伝えする料理で重視しているのは、まず味。そして、再現性が高いこと。生徒さんの環境はそれぞれ違いますし、使っている道具や調味料、火加減が違えば全然違う料理ができ上がっている可能性もある。だから、おいしいものをなるべく確実に作ってもらうためにはどうしたらいいかを、常に考えています」
多くの生徒が自宅で無理なく習った料理を再現できるようにするには、材料と作り方の両面でさまざまな工夫が必要。さらに、レッスン中はとにかくたくさんしゃべり、持っているノウハウや情報をできるだけ生徒に伝えるそう。レッスンに集中してもらうため、下ごしらえはすべてサルボさんが済ませておきます。
「料理教室で食材を切ることなどは、それほど大事だと思っていなくて。それは自宅でやってもらえばよくて、他人のキッチンで自分のものでない道具を使って作っても、上達はしません。だから、調理の山場のみ実習してもらって、最も大切なのは試食。レシピ通りに作ればこうなるという基準の味を知り、それをご自宅でどう再現してもらうかがポイントになります。手本の味をどう感じるか、“ちょっとスパイスが効きすぎているな”とか“私だったらもうちょっと塩を足すな”とか、そういったこともメモに書きとめて、自分のものにして欲しいんです。レッスンでは、私が知っていることはすべて伝え、あとは生徒さんがどう受け止めるか。私が教えるレシピは、あくまでひとつの基準値で見本でしかありません」
生徒にとって、習った料理を食べるのは本人とその先の家族や友人。
「“おいしい”の基準は人によって違いますし、同じ人でも体調やその前に何を食べたかによって変わる。私はなるべく無理なくおいしく作ってもらい、それで家族の時間が持てるお手伝いができたらと思っています。その提案の場所として、料理教室はすごく大切。本と料理教室でレシピ自体を変えてはいないのですが、本では文字数や入れられる写真点数にも限りがあるから、語り切れないことが多いんです」
料理を通じて、裏方として誰かの役に立ちたい
そんなサルボさんは、多くの人に支持される作りやすくておしゃれなレシピを、どのように生み出しているのでしょうか?
「私のレシピの作り方は、素材の味ひとつひとつがわかっていて、頭の中でそれを組み立てているだけ。小さい頃からいろいろなものを食べさせてもらった経験の積み重ねがあって、フランスでの経験もその一部。昔はけっこう食べ歩きをしましたが、最近は信頼している決まったお店にしか行かなくなりました。ヒントは日々の生活の中にあって、買物をしていて目についた食材を、別の食材と結び付けたり。あまり突拍子もないことは家庭料理には不自然なので、していません」
これまで料理家として営業活動をしたことは一切なく、すべてご縁でつながっているというサルボさん。料理の世界やメディアの人たちとのつながりよりも、子育てを通して出会った人たちとの付き合いの方が広く、深いようです。
「望んで料理家になったわけではなく、ご縁があって、やってみたらひとつずつできるようになって、今があります。料理家としてはレシピ本作りの仕事が多いですが、これも私がひとりでやっているわけではなく、プロが集まってするもの。たまたま私が著者で、本に名前が載る以上は責任を負う覚悟はありますが、カメラマンさんやスタイリストさん、編集さん、ライターさんがいなければ素敵な本は作れません」
自ら口下手だというサルボさんは、言葉ではなく行動で見せるタイプの料理家。全身全霊をかけている様子を周囲がくみ取り、次につながっていると感じるそうです。
「一人のときは、手の込んだ料理を作って食べたりはしていません。誰かに料理を作って、その人が“おいしい”っていう表情を浮かべたり、ほっとしてくれたりするような瞬間に、すごくやりがいを感じます。料理人としては、レストランならひとつの駒やスーシェフ(副料理長)のポジションが好き。アシスタントのときのように、先生がいて、料理教室なり撮影なりで自分が先回りすることで、うまく仕事が回ってみんなハッピーになるとことに充実感を覚えます。黒子の料理人として、素材と食べ手のことだけを考える。自分の料理を食べてもらってその人にプラスの感情を与えられることや、料理を介してみんなの力になれることが、何よりのモチベーションです」