料理家は「策士」を目指そう! マーケティングのすすめ【ビジネスマナー塾】

一言に「料理研究家」といっても、本当にいろんなタイプがいます。当然、成功者と残念ながらまだそうではない人に分けられますが、その境目にあるものはいったい何なのでしょうか。料理の技術やルックスだと思いますか? どうしても自分ではその答えが見つけられないでいる人にお伝えしたいのは、「個人マーケティング」という提案。頑張っているのに成功をつかめない人に足りないのは、“策士”としての資質かもしれません。今回は、今自分を取り巻く状況をマーケティングする方法について考えてみます。

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2019年03月8日

「私、頑張ってる!」のベクトルが正解かどうかを考える

「kai house club」では現在、約1200名もの料理教室主宰者の方に登録していただいています。北海道から沖縄まで、1200教室! しかも、現在国内にはその3倍を超える料理教室が存在しているのではないかと言われており、個人的なサークル活動も合わせると、その数は想像もつかないほど。本当にたくさん、「料理を教える人」と「料理を教わる人」が存在しているわけです。

さて、今これを読んでくださっている方の大半は、料理教室を主宰していたり料理を本格的に勉強していたり、いわば食への興味好奇心が旺盛な方だと思います。食を、生きがいや喜びとして考えているのはもちろん、願わくばビジネスとしても充分収益が得られるようにしていきたいとお考えではないでしょうか。

かつては、料理教室が良妻賢母となるための花嫁修業としてとらえられていた日本ですが、今では状況は大きく変わりました。日本だけでなく世界的に先進国ではウェル・ビーイングの考え方が支持されるようになり、充実した人生を生きるためには食は当然大切にすべきもので、結果、「料理なんて興味なし」と言い切ってしまうのは、性別に関係なくなんとなく格好の悪いことだと考える人が増えています。実際、海外ではビジネスエグゼクティブたちが足しげく料理教室に通う光景が珍しくなく、日本を訪れる海外旅行者たちもこぞって築地(今では豊洲になりましたが)や合羽橋を目指し、食材やプロ仕様の調理道具が日本土産としても喜ばれるようになっています。

さて、そんな時代にあって、料理教室を営んでいるみなさんは「料理に携わる人」として生きています。そこでひとつ考えていただきたいのは、ご自身が料理を伝える相手というのは、想像する範囲よりも実はずっと離れたところにもいて、教室に通ってくれる近所の生徒さんと同じくらい真剣に、そういった人々の存在も視野に入れてビジネスを行うべきなのだということです。

今、なんとなく行き詰まりを感じていて、未来に思い描いている自分の理想像が「少人数の仲良したちと細々と楽しく料理教室をやっていられたらそれで十分満足」などではなく、料理教室を大きくしてスタッフを雇って経営するような企業に育てたい、もっとメディアに出たい、著者本を出版したい、企業やブランドと共に商品開発に携わりたい、レストランからアドバイザーとして副収入を得られる程度になりたい……といったところにある場合は、即刻、戦略の見直しをお勧めします。これまで、必死にいろいろ頑張ってきたと自負しているならなおさらです。なぜなら、その結果として今があるわけで、この状況を一度見直してじっくりとプロファイリングしない限り、今後を打破するきっかけはつかめないからです。「頑張ってるのに」と思う人ほど、そのベクトルが見当違いの方向を向いていることはよくある話なのです。

 

 

果てしない自分磨きを思い切って止めると見えてくるもの

「いつも努力を続けている頑張り屋さん」というのは、特に料理に携わる人に多いタイプかもしれません。他人が料理で喜ぶのを見るのがおそらく何よりの幸せでしょうし、料理下手だった生徒がレッスンに通ううちに台所嫌いを克服して料理が好きになる様子を見るとしみじみ、うれしさを感じませんか? 素敵です。もちろん、そんなあなただからこそ、周りの人々は慕ってくれるのでしょうし、今後も良好な人間関係継続のためにも今のそれは失ってはならないハートです。

しかし、「喜んでもらえるとついつい頑張っちゃう」というその頑張りの内容をここで一度見直してみてください。生徒に喜んでもらえるから、ますますワインの勉強に没頭中。役に立つと言ってもらえるから高級食材の研究に勤しんでいる……。もちろん間違いではありません。しかし、「趣味が高じた自分磨き」というのは残念ながら、仕事相手となるポテンシャルを持つ人からはなかなか見出してもらえない努力だということを認識しておく必要があります。

個人的に自分を磨く努力をいったん止めて、その分の気力を、これまでとは違うコトに向けてみませんか? ここでおすすめしたいのがマーケティングです。個人でやるものではないと思う人も多いでしょうが、実はそんなことはありません。マーケティングとは、言い換えれば、自分やこれから自分に注目してもらいたい相手のことを研究し、相手が好きそうなモノ・コトをたくさんの事実から推測すること。その中に自分でできそうなモノ・コトがあれば実践してみて、相手がアタックしてくれるための最初のきっかけを準備することです。

マーケティングとは、「仕事したい相手の心を研究する」こと

そうなんです。マーケティングとは自分と相手のギブアンドテイクを研究すること。昔、大好きな人が「ショートカットの女性が好き」と聞いて髪を切ったり、ワイン好きの人にワインに合わせるおつまみを作ってもてなしたことがあるというような人なら、すでに素質は十分あります。それらと同じことを企業やメディアに対して行うことが、マーケティング活動だからです。

マーケティングを自分で行うために出来ることはたくさんあります。インターネットで「マーケティング」「手法」などのワードを入れて検索すると山ほどヒントが出てくるのですが、元々企業戦略を行うためのものなので、ほとんどが専門用語で少し難解。しかし、気にすることはありません。それらの中から「これだったら出来る」と思うものをピックアップして考えるだけでも、これまでの自分とはまったく異なる様々なことが見えてきます。

ここでは、フリーの料理教室主宰者でも気軽に試せそうな自分マーケティングの“最初の第一歩”についていくつか例を挙げてみます。

 

自分マーケティングのための策 1. 自分が今どこにいるか地図を書いてみる

自分マーケティングのために必要なことの初めの第一歩。それは、自分が立っている場所を知ることから始まります。頭の中を整理するために、まずは紙を一枚用意してください。パソコンでフリーライティングのソフトを使っても構いません。自由に書き散らせるようにすることがポイントです。

左の中ほどに自分の名を書き、右上には自分が憧れているいつかなりたい料理家の人名を思いつく限り書き入れます。海外も国内もOKです。雲の上の人でももちろん構いません。そして右下には「雲の上でありながら、自分がまったく魅力を感じないタイプの著名な料理家名」を記入してみてください。わざわざ興味のない人の名を?と思うかもしれませんが、これはとても意味のあることなのでぜひどうぞ。

次に左下には一言「料理を仕事にするのを辞める」と書きます。これも実はとても大切なことで、辞めることも選択肢としてアリだと自分でも認識しておかないと、追い詰められても辞められないという、自分を苛むような状況に陥ってしまいかねないからです。

自分のための地図作りはまだ続きがあります。自分の名前の上のエリアには「自分と似たような状況でありながら成功していると思えるライバル料理家」の名前を書きます。マウンティング活動っぽくてなんだか嫌だわと思うかもしれませんが、あくまでも自分のビジネスバリューを自分で認識するための作業なので、それほど深く考え込む必要はありません。先ほど書き入れた右上や右下の「雲の上の人」との間にも段階別に「このくらいであれば目指せるかも」と思う料理家名を書き入れていくと、なおさら地図はリアルなものになります。

出来上がったら、再度眺めてみてください。これまでむやみやたらにまぶしく思えた「雲の上の人」たちも、目指したいかそもそも眼中にないのかを考えることで、自分が目指している方向を知ることができます。そして近いところにいるライバルたちこそ、マーケティング業界で言うならコンペティターの存在。彼らが持っていて自分にないものを考えていくと、五里霧中で努力するのではなく、具体的に何がどのくらい足りないかが感じられると思います。

自分マーケティングのための策 2. やりたい仕事とそうでないことも地図にしてみる

次に人名マップと同様にして、右上には「やってみたい仕事」を、右下には「こんな状況は目指していない」と思うことを箇条書きに書き入れてみてください。いずれも、なるべく具体的に書くことが大事です。人によっては大変魅力的かもしれないが自分にはそれほど意味がないこともあるかもしれません。はるか彼方にあると思える事項はなるべく端に書き入れ、「これならすぐに仕事がくるのではないか」と思うことは、現地点に近いところに書き入れてみましょう。

料理家の仕事はあまりにも多岐にわたりますが、大きく分けると「教室運営」「メディア露出」「企業との仕事」に分けられます。下記の中から、参考にしてみてください。

<教室運営>

  • 生徒数を月間●人に増やす
  • 月間●回はレッスンを開催する
  • スタッフを雇って規模を大きくする
  • 複数カ所で料理教室を開催する
  • 企業や団体などでも教室を開催する
  • コースやクラスの幅を増やす
  • 教室収入を年間●万円以上にする、など

<メディア露出>

  • 料理本を出す。できれば●冊くらいは出したい
  • 雑誌に登場したり連載を持ちたい
  • 新聞に出たり連載を持ちたい
  • テレビに出たい
  • SNSでプレゼンスを上げたい(インスタグラムのフォロワー数●人以上になるなど)

<企業との仕事>

  • 調理道具や器、調味料や食材などで、企業と共同開発商品を作りたい
  • 企業主催のイベントで講師を務めるようになりたい
  • 企業のアドバイザーを務めたい
  • 地方自治体と食を通じて仕事がしたい
  • レストランやホテルの監修を手掛けたい
  • ブランドの食事会やイベントに招かれるようになりたい

これらはほんの一例です。実際、現在では食を仕事にする人々の業務はもっと多様化しており、タレントのように活躍する人から、ほとんどメディアに出ることはないのに高額のギャランティーを稼ぐ人まで、千差万別。しかし、多彩な料理の仕事の中でも自分は何をやりたいのかを明確に見えるように地図に表すことで、「私には、もっと社会に承認してもらいたいという潜在的意識があるのか」とか「企業やレストランなどと協力して、趣味ではないビジネスとしての食に携わって稼ぎたいと思っている」などと認識できるようになります。

要するに、最近よく耳にする「見える化」を自らの未来に対して促してみるということです。

 

自分マーケティングのための策 3. 「弱みと強み」をそれぞれ次のポジションに移行させる

マーケティング作業はまだ続きます。これまでの1と2をやり遂げたことで、自分の目指すべき部分と、目指さなくてもいい部分がクリアに見えてきました。次はそれらを現実的に実現するにはどうすればよいかを考えます。用意する用紙は2枚。それぞれ「今の自分の弱み」「今の自分の強み」を箇条書きに記入します。

「弱み」を書く際に気を付けたいのは、客観的な事項にとどめるようにすることです。例えば「積極性がない」と書くよりは「SNSでつながっている人の大部分が知り合いばかり」と書く方が、ビジネス面における「積極的のなさ」を表します。つまり、どうしようもない根本的でメンタルな弱みではなく、対策が取れるような弱みに置き換えて考えられるようになれば、弱みを克服するのは容易になるということなのです。ビジネスに縁がなかった人たちがよく使う言葉「コネがない」「金額面の交渉が下手」などは、「自分が目指したい企業やメディア関係者との接点を探せない」「手掛けた案件が少ないので相場が理解できず、つい相手に流されてしまう」と言い換えれば、もう少し対策が取れそうな感じがしませんか?

書き出した弱みは多岐にわたると思いますが、それらの横にはそれぞれ「具体的な対策法」を書き入れてみてください。難しければ、家族や友人などで実際に社会経験が豊富なビジネスマンに見せてみると、意外に役立つ答えがもらえるかもしれません。ご主人や、バリバリ働いている忙しそうな生徒などは、案外いいヒントをくれるものです。

最後に「強み」も同様に箇条書きにしてみてください。これも「弱み」と同様、客観的で、見知らぬ人に伝えても「それはすごい」と言ってもらえそうなことにとどめます。となると、「誰よりも料理を愛している」「生徒一人一人のことをいつも考えている」などは、とても素晴らしいことではありますがここではNG。「管理栄養士資格を持っているのでオシャレなだけではない説得力のあるレシピを提案できる」「実は私のレッスンでは私が使っている調味料や器が飛ぶようにその後売れる」「一度来た生徒が、その後高い確率でリピーターになってくれる」などが言えれば、それこそしめたもの。次にそれぞれの強みの横には「それをどのように世間に対して伝えるか」について、具体的な方法を考えて書き入れましょう。「資格を生かした料理のみを提案する新たなブログを立ち上げる」「いつも教室で売れる調味料ブランドの担当者に、何かイベントが出来ないか企画を送ってみる」など、取り組めることを考えるのは楽しい作業になりそうです。

作業が終われば、あなたの前には現在の自分の理想像や、非理想像、弱点と強み、さらにはそれらに対する一つ一つの対策リストまでが出来上がっています。これらは今後、ずっと大切に持ち続けてください。ことあるたびに見直して、都度リバイスするのもおすすめです。ただ、最初はこんなところにいた、と後から見直せるようにする方が、自分の進歩が見え、かつ実感できるのでおすすめです。

 

まとめ

夢に向かって努力したいけど、具体的に何をしていいのかわからないという方のために、自分マーケティングの初歩の初歩について考察してみました。実際に多くの企業では社内に「マーケティング部」なるものが設置され、予算も投じて様々な角度から相応のことを常に行っているので、ここでお伝えした「自分マーケティング」は、それらと比べれば比べ物にならないほど規模の小さいものです。しかし、そもそもマーケティングとは自らを客観的に眺めてジャッジを下し、どうすれば打破できるか、競合他社に勝てるかを考えることです。

これまで一人で孤軍奮闘を続けてきた人にこそ、自分をマーケティング的観点から眺めてみることで今後の歩の進め方について新たな気づきを持っていただけたら、それは本当に素晴らしいことです。せっかく料理という技と食という生きがいを持っているのですから、一度しかない人生、ちょっとだけビジネスの“策士”となって、もっと上を目指してみませんか。

 

写真/Unsplash

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